第480話、試作モデル完成
アクティス魔法騎士学校卒業までの日々を消化中。
トルネード航空団のトロヴァオン、ドラケン各戦闘機は、全機が浮遊石搭載の改仕様への改修が終了。
高空にある浮遊群スカイベースでは、巡洋艦『アンバル』の再生をはじめ、他の艦の再生や建造が開始されている。
ここにきて、戦車開発を行っているわけだが……我ながら、よくやるよと自嘲する。陸海空――いや、艦艇は海ではなく空扱いだから陸空か。これらを一個人で作っているというのだから、もとの世界では考えられない。
すべてはダンジョンコアと、シェイプシフターたちが手足のごとく働いてくれているおかげだ。
俺は設計したり、最初のモデルを作るだけ。後はコアとシェイプシフターたちが昼夜を問わずやってくれる。そうでなければ、わずか数ヶ月でここまでの戦力を整えるなど不可能だ。
さて、そのブロックヴィークルシステム搭載車両群の開発の進捗である。
無人ユニットのAブロック、操縦席を含むCブロックに、ヴィジランティ採用の浮遊推進器を流用。
メイン推進ユニットであるDブロックには、より大型の浮遊推進器を搭載する。2個で1ユニット扱いなので、片側3基、計6基を内蔵する。前進、後退もほぼ同速度で可能。噴射口を可動させつつ、6基の推進器の切り替えで、戦車でいうところの超信地旋回もどきもできる。
推進用魔力タンクと推進器に魔力伝達線を取り付け、さらに操縦システムにも指令伝達用の魔力伝達線を接続。
ただ、ブロックごとに分離すると離れてしまうので、そこはアダプターを付けて、各ブロックの接続で回路がつながるようにする。
操縦席のあるCブロックが、一番魔力伝達線が多くなる。
ドライバーシートには、二つのコントロールレバー、これは推進器の左右の操作に対応している。ブロック間の推進器の切り替えバー、浮遊とブレーキのペダル。
正面のコンソールには車体や走行状況、魔力残量を示すパネルや、ライトやスモーク弾など細かな操作用のボタンがある。
後ろ座席の車長は、火砲の操作、照準システムに、索敵装置や通信機器を操作するコンソールとパネルが備えられている。これまでの戦闘機などもそうだけど、これらの装置も自作だから作りはシンプル。ただし伝達線の数が半端ない。
また車外監視用のペリスコープ(潜望鏡)も装備するが、これがコア式カメラを利用したものとなっている。
なお、ゴーレムコアが車長の作業をサポートするので、砲の操作や索敵などの負担は、かなり軽減される。コアに任せて、車長は索敵や指揮に集中することも可能だ。
またゴーレムコアは、AとBブロックに補助、Cブロックにメイン、DとEは接続時の制御のみ働く単機能型が搭載されている。Aは高速偵察車やフライングボードとして使うためにそれなりの機能を持たせ、Bは砲のモニターと自動装填の役割を担う。
で、戦車を戦車たらしめる火砲については、予定通りB2砲塔型に、魔法砲ことマギアカノーネ1門と、20ミリ機関砲を搭載する。こちらは反動が小さいため、高速移動中でも使用が可能な武装となっている。
B1砲塔型には、70口径76ミリ実弾砲と旋回式8ミリ機銃1門を搭載する。砲はすでに組み上げられていて、車体が完成する前より試射を行っていた。
攻撃力と耐久性のテスト、その他運用の際に問題になりそうな部分の洗い出しをしてデータを収集。ゴーレムコアによる自動装填機能、砲の冷却や摩耗状況をモニターし再生機能を持たせたことで、その使用性能は格段に向上した。
だがその維持のために余分の魔力タンクを搭載することになり、若干予備砲弾の数が減った。
なお、テストの副産物として、砲にサイレントスナイパー機能――戦車用消音器が装備されることになった。
これは昼夜を問わず行った連続射撃の耐久試験を行った際、騒音対策に魔法式消音器を装備して行ったのが影響している。射撃場の的のまわりにも音遮断魔法を用いた結果、あまりに静か過ぎて、その場にいなければ砲を撃ちまくっていることに誰も気づかなかったのだ。
これは待ち伏せからの奇襲戦術に使えるな、と言うことで、神出鬼没な運用を考えているウィリディス部隊の正式装備となった。
かくて、各ブロックの試作モデルが完成。さっそくドッキングしての組み替えテストを行った。
・ ・ ・
ウィリディス地下格納庫。俺やウィリディス住人たちが見守る中、車両が搭載しているゴーレムコアの浮遊魔法によって、砲や推進ユニットといったブロックが浮かんで、車体に接続されていく。
俺の隣にいたアーリィーが、そのヒスイ色の瞳を瞬かせる。
「何というか、凄いね、これ……」
まるで目に見えない幽霊が、持ち上げているようにも見える。何も知らなければ、ポルターガイスト現象に思えるんじゃないか?
「かなり奇妙な光景であるのは認めるよ」
俺がいた世界でも、こんな超能力マジックじみた光景は見たことがない。……いや、訂正。漫画やアニメでは見たかもしれない。
目の前に、まず主力戦車型が組み上がる。長く突き出た76ミリ砲搭載のB1砲塔、有人操縦ブロックであるC、メイン推進器のDブロックが付いたやつだ。戦車と言われて一番しっくりくる形である。
「どうだ?」
外側から車体の接続箇所を確認するのはシェイプシフター整備員。車内の操縦席にもシェイプシフター・ドライバーが乗っていて、接続が正常かコンソールを確かめる。
親指を立てる仕草。問題なしの合図が整備員たちに伝達され、整備班長が俺に振り返った。
『異常ありません!』
俺は頷くと、砲塔の可動確認をやらせた。長砲身76ミリ砲が、象の鼻のように上下する。といっても、対空用に使うわけでもないので、さほど仰角がとれるわけではないが。
次に砲塔の旋回。はじめはゆっくりと右方向へ回転。少しずつスピードを上げ、ぐるぐると。
「速いな……」
魔力式旋回装置は、重量物である砲塔を回転させた。自衛隊の10式戦車の砲旋回を見たことがあるが遜色ないレベルと言える。
逆回転も試し、問題なくB1砲塔の可動テストは終了した。ブロックシステムの中で、Bブロックだけ、主に砲塔の旋回が絡んでいるせいで他と接続方法が異なっていたのだが、トラブルもなくてホッとする。
「次、戦車から歩兵戦闘車に換装!」
『了解です!』
戦車から歩兵戦闘車に――といっても、BブロックをB1からB2に交換、本体のCに兵員輸送ブロックであるEを接続するだけなんだけどね。
砲を換装するだけで、役割が変わるのはお手軽である。共通化の効果、ここに極まれり、か。
「ねえ、ジン」
アーリィーが、B1砲塔がはずされ、機関銃装備のB2砲塔が浮かび上がりながら、車体上面に収まる様子を見ながら言った。
「あれって挟まれたりするのかな?」
ブロック同士で合体するわけだが、もしその際に人や障害物があったら、巻き込んでしまうのではないか――
「ゴーレムコアがドッキングをモニターしているから、あいだに挟まるような状態では合体しないようになってるよ」
挟み込み防止機能は抜かりなく付いている。ドッキングに巻き込まれて事故死とか、悲しすぎるから。
B2砲塔は水平射撃はもちろん、ある程度の対空射撃が可能なように高角に砲が動くようになっている。マギアカノーネと機関銃はすでに実戦配備されている武器だから、発砲テストは別の機会にするとして、こちらも問題なし。
では、いよいよ実際に戦車を走らせるわけだが――
「はい! ボク、運転したい! やり方は覚えた!」
アーリィーが挙手した。……彼女は本当に色々と積極的だ。
男装して王子様を演じていた頃から我慢して育ったから、その反動なんだろうな。まあ、やる気があるのは大変結構なことなんだけどね。




