表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

477/1884

第475話、戦車開発計画


 ディグラートル大帝国との戦争に備え、準備してきた俺だが、その防衛戦略の中に当初、『戦車』は考えていなかった。


 やってくる敵集団を空爆し、撃退する。エマン王やジャルジーと親しくしているとはいえ、こちらの戦闘部隊を王国軍と共同歩調で使う気などさらさらなかったのが理由のひとつ。


 どこからともなく現れ、風のように去って行く。


 あくまで大帝国の戦闘部隊を叩くことを主眼に考えてきた戦力なので、爆撃や地上攻撃はしても敵地を占領したり、それを維持したりする戦いは考えていなかった。……占領地を抱えると、余計なしがらみが増えるからね。


 理想を言うなら、俺たちはアシストに徹して、美味しいところは他の方がどうぞ、である。


 が、ここにきて、その戦略も見直し、いや修正するところが出てきた。シャッハの反乱事件における戦闘での経験は、戦訓をもたらしてくれたのだ。


 空爆における爆撃方法、その威力や種類の改善。パワードスーツ部隊の運用。飛竜に対抗するべく戦闘機を作ったが、地上の敵に対抗するなら地上戦力を、というのは自然だ。


 さて、戦車であるが、近代に続く戦車の元をたどると、第一次世界大戦における塹壕(ざんごう)突破と歩兵支援を目的にしたものに行きつく。


 塹壕を踏み越える盾であり、ハンマーであり、歩兵たちを助けた戦車も、やがて重火力、重装甲を備え、さらに機動力を獲得して陸戦の主役にまで躍り出た。


 ちなみに、ディグラートル大帝国が、戦車を連合国戦に投入したという情報を掴んでいた。


 例によってシェイプシフター工作員の情報だが、防御陣地突破用の突撃戦車と、その後方から砲で攻撃する戦車の二つを実用化し、量産しつつある。


 その開発には、異世界から呼び出した人間の知識が用いられているが、まだ戦車が支援兵器とみられていた第二次大戦初期のレベルにも達していない。

 だがそれでも、この世界においては弓や剣はほぼ通用せず、高レベルの魔術師の操る魔法か、当てるのは難しいが攻城兵器を転用するくらいしか対抗手段がなかった。


 少なくとも、大帝国の戦車よりも優れたものを作らなければ、やる意味もないだろう。数では圧倒的に負けるだろうし。


「そこで、君たちの意見も聞きたいんだけど」


 俺は、戦車に関して知識のあるマッドとリアナに問うた。


「戦車といえば、履帯(りたい)と相場が決まっているが、その移動方法について、履帯の他に、装輪式、パワードスーツにも採用したホバーもどきの浮遊式があるんだが、どれが俺たちには適しているだろうか?」


 履帯――キャタピラーとも言われる、戦車と言えばオーソドックスな形だ。戦車をよく知らない人でも、キュラキュラ言わせながら走るイメージくらいはあるだろう。


 装輪式は、いわゆるタイヤだ。大型のタイヤ装備の戦闘車両――実質、履帯式を戦車と呼ぶ向きが強いので、装輪式は戦車ではないと言われるかもしれないが、そのあたりの定義については、この際置いておく。


 そして浮遊式。ホバーのように地面から浮かび上がって地上を走破するが、魔法の補助で成り立っている代物なので、実際のホバークラフトとは異なる。


 それぞれ長所と短所がある。


 まず履帯式は、地面と触れている部分が大きいのが特徴だ。車両の重量が履帯全体にかかるために、多少のぬかるみや雪上など柔らかな悪路も苦もなく進むことができる。傾斜にも強く、小さな穴は乗り越えることが可能だ。


 だがこの方式は重量が増える傾向にある。動かすにはパワーが必要となり、つまりは燃費が悪い。同時に、足回りのパーツの消耗が早くなり補修や部品交換が早くなる傾向にあった。


 次に装輪式。履帯式に比べて軽量に収まる上に、平地、特に舗装された路面を走らせるなら、履帯式よりも速度に優れる。負担が小さく、燃費もよいため経済的で運用しやすいのが特徴だ。


 しかし、接地面――地面に接している部分が履帯式より小さいために、ぬかるみに足をとられたり、スリップする危険性が高くなる。また、その接地面の小ささ故に、砲の反動を抑える力が弱い。結果、搭載する火砲は履帯式より小さくなる。


 最後の浮遊式は、地面に接していないため、搭載する推進器次第だが、他の二種より高速移動が可能で、運動性も高い。路面状態を気にすることなく、ダントツのスピードを誇る。


 欠点は、実弾系の砲を使用する際、接地面がまったくないために地面を利用して反動を抑えることができない。被弾し強い衝撃を受けた時も、装甲が耐えたとしても車体が後退してしまう。


「もっとも、反動については実弾系の砲を使えば、という話だから、反動がほぼない魔砲系を使う分には問題ないけどね」


 これは浮遊式のみならず、装輪式にも言えることだ。

 以上、履帯、装輪、浮遊の3種類がある。


 さて、未来系世界の軍人であるマッドとリアナに意見を求めたところ、二人の意見は一致を見た。


「浮遊式で」


 装輪式や履帯式など化石だ、というのが理由である。かたや戦車など人型兵器の前では時代遅れ、と言い、もう片方は、そもそも戦車は人型兵器が苦手とする遠距離から狙撃するのが仕事、とか言いやがった。


 どうやら二人とも世界は違えど、戦闘車両はほぼホバー型が主流のようだ。……俺のいた世界も、未来の戦車はそうなるのかねぇ。


「数で劣っているなら、必然的にゲリラ的な襲撃や待ち伏せが多くなるのでは?」


 リアナが指摘した。


「それならば、機動性は必須かと」

「敵に戦車があるとはいえ、そのレベルはお粗末なものだろう?」


 マッドも意見を口にした。


「アウトレンジから一方的に叩いて数を減らすのが上策だ。必要なのは装甲より、むしろスピードだ」


 突然現れ、また去って行く――俺の考える戦い方に合致している。


 まあ、浮遊式には、実弾系の砲を載せるなら、反動という問題があるのだが……。


 砲自体で何とかするのか。あるいは発射時の反動をスラスター的なもので抑えるのか。はたまた移動しての発砲を諦め、主砲発射時は着地して無理矢理、接地面を増やすのか。


 そのあたりを検討をしつつ、ウィリディスにおける主力戦車ならびに戦闘車両は、浮遊式で固めることが決まった。


 この決定は、すでにパワードスーツに浮遊式ブースターが搭載されているため、運用しやすいというメリットも加味された。

 ……ふむ、そうなると、先日マッドと話した、PS用フライングボードの件も、この戦車案の中に組み込めないものか――と、俺は考えるのだった。




 戦車のベースとなる部分を考える傍ら、俺は、マッドとリアナに、もう一つの提案をした。

 それは、先日の戦闘で俺が着用した軽装型戦闘スーツ、通称、ライトスーツについてだ。パワードスーツ搭乗者が身につけるインナーをライトスーツにできたなら、という話をしたら、二人とも諸手を挙げて賛成した。


「機体をやられて脱出した時は、生身だからな」


 マッドが言えば、リアナも。


「機体を降りて行動しなくてならない時に、ある程度戦闘力を維持できるのは好ましいです」


 人型兵器乗りの心情として、機体を降りた直後の戦闘能力が激減する状態は、やはり不安ということなのだろう。


 インナースーツだけでなく、パワードスーツなしでも、普通に使えるものを目指して作られたライトスーツではあるが、その装備やオプション類についてのアイデアを披露する。


 パワードスーツに魔法金属装甲を装備させる案を出した俺は、ライトスーツにも軽度ながら魔法金属を採用したいと思っている。すでに試作のタイプ1には、雷属性金属を使ったが、それ以外の属性も使いたい。


 また、強化パーツとして、飛行ユニットや増加武装ユニットなどのオプションも提示する。パワードスーツが運用できない場所での戦闘力強化や、潜入・偵察などだ。


「……少しやり過ぎじゃないか?」


 マッドは、過剰だと感じたようだ。一方でリアナは仮面のような表情にわずかながら笑みのようなものを浮かべる。


「いいと思います」


 もともと特殊部隊出のリアナは、身一つでの潜入や工作にも従事していたという話だから、そこでの戦闘力強化は、むしろ望むところのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

小説家になろう 勝手にランキング

『英雄魔術師はのんびり暮らしたい 活躍しすぎて命を狙われたので、やり直します』
 TOブックス様から一、二巻発売!  どうぞよろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ