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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第474話、冬は準備期間 


 十二の月。ヴェリラルド王国中央地方でも雪が降ることが珍しくなくなった。アーリィーが言うには、今年は例年よりまとまった雪が降るのが早いらしい。


 ウィリディスの地下屋敷、そして白亜屋敷にはコタツが出され、すっかり住人たちがたむろする場となった。

 屋敷内は、ダンジョンコア『サフィロ』の管理で暖かくなっているのだが、たとえば窓から見える寒空や雪化粧をみると、もう一押し、暖房器具がほしくなるのだ。


 ベルさんは黒猫姿で、コタツの(ぬし)を決め込む。エマン王もまたコタツから出てこない。「私は、冬は城に戻らん」などと言って、大臣らを困らせていた。


 そりゃ、中世もどきのお城なんて、冬は色々なところからの隙間風で寒くてかなわない。堅牢なる石造りの城内は相当冷え込むのだ。


 そうなると、ウィリディス屋敷から出たくないと思うのは自然の流れだったかもしれない。

 北方ケーニギン領から、ポータルを使ってやってくるジャルジーも、ウィリディスでの滞在時間が圧倒的に延びている。

 一応、王城の王室居住区画やクロディス城のジャルジーの行動範囲内に暖房器具を設置して、部屋の改装をしたあげたのだが……。


「どうせ書類仕事なら、ここでもできる」


 そう言ったジャルジーは、エマン王、ベルさんの入っているコタツに足を入れている。

 現在の王様と未来の王様、そして魔族の王が一緒のコタツ……恐れ多くて入れんな。まあ、俺は入っちゃうんだけどね。


「兄貴よ、ここは天国だ」

「まだ死んでないぞ、ジャルジー」


 ハハハ、とベルさんの笑い声。

 俺はダンジョンコアが魔力生成で作り出した蜜柑(みかん)の皮をムキムキ。


 ふだん、自分の手で果物の皮をむいたりすることがないエマン王やジャルジーも、俺がそうしているのをみて、自分でやるようになっていたりする。


「冬というと、蓄えた食料をいかに春までもたせるかに頭を悩ますものだ」


 ジャルジーは、指をひとつ立てた。一房くれ、ということだろう。


「肉などは塩漬けにするんだが、春が近づくころには保たずに腐っていたりする」


 だろうね。この世界にきて早二年。そういう場面はお目にかかっているし、わざわざ手間をかけて食料調達をしたこともある。結構大変だった。何せ冬だったからね。


「だが、ウィリディスではその心配はない。そうだろ、兄貴? いつでも新鮮な肉や野菜にありつける」

「もちろん、ただじゃないがね」


 魔力生成で作る作物や食料。これらに当然、魔力を使う。


 俺のいた現代とは違い、この世界の食糧事情というのは貧しい。とくに冬は、いかに秋に備蓄するかが生存の鍵を握ると言っても過言ではない。寒さと飢え。ギリギリの生活をしている家庭では、少しでも冬が長引けば春を迎えることなく命を落とす、なんてことも珍しくない。シビアである。


「いずれは、農業改革をしないといけないんだろうな」


 ポツリと、俺が口に出せば、ジャルジーが反応した。


「何だって?」

「俺たちだけ贅沢をしていると、恨まれてしまうってことさ。民が豊かになれば、国も豊かになる。未来の王よ。国を守ることも大事だが、より発展させていくことが必要だ」


 エマン王がぱっちりと目を開け、俺を見つめる。ジャルジーが口を開いた。


「どこか豊かな土地を手に入れるのか?」

「こらこら。どうしてそう余所から奪おうと考えるんだ。まずは自分たちの足下を見直すのが先だろうに」


 苦笑するしかない。だが侵略して手に入れよう、という考えは、残念ながらこの世界は当たり前のことだった。

 隣の領地に攻め入ったりするのも、よくある話であり、その筆頭をあげれば、侵略政策を絶賛実施中のディグラートル大帝国である。


「正直に言えば、現代の農業には改善の余地がある。その点を見直せば作物の収穫量を数倍に跳ね上げるのも夢じゃない」


 これは俺が、この世界より発展した世界を見ていたから言えることではある。未来像が見えているからこそ、口にできることだ。


「兄貴、それ凄く興味があるんだが……」


 俺が蜜柑を渡す気がないのを察して、とうとう自分で蜜柑をむき出すジャルジー。公爵閣下は軍事以外にも関心があるようで、俺は少し安堵した。


 とはいえ、俺は農業のプロではないから、学校で学んだ程度の初歩知識と、魔法的なアプローチを活用するしかないわけだが。試行錯誤が必要なのは間違いない。

 魔石を必要とするだろう魔力生成を普及させるのは現実的とは言えない。現状の魔石の使用先が軍事、武具に傾いている状態ではより難しい。


 特に大帝国という脅威が迫っているいま、魔法甲冑、魔石搭載の戦闘機など、兵器方面の魔石需要は高まる。


 先ほど、人様の者は奪え、という侵略が当たり前のように存在する世界と言ったが、対抗する術をもたなければ、滅ぼされてしまうのもまた事実だった。


 つまり、まだしばらくは、一般生活レベルに魔石や魔力を使った品は、なかなか届かないということだ。

 魔力はあくまで補助で、現代の農業知識を加味しつつ、作物生産のレベルを上げる。それが現状とれる最善だと思う。


 だがそれに本腰を入れるとしたら、大帝国をどうにかした後の話だ。



  ・  ・  ・



 そう、結局、守れなくては畑を耕してもしょうがない。目先の脅威が、大きすぎる。


 軍事に注力しなくてはならないことを嘆きつつも、どんどん現代レベルの武器を作ろうとしている。

 矛盾した物言いだが、すべてはのんびり生活を手に入れるための投資だから、俺自身ブレてはいない。すべて終わったら、ウィリディスの地でのんびりしてやる!


 そんなわけで、ウィリディス地下屋敷の会議室に、俺はマッドとリアナを呼んで、シャッハの反乱事件の反省会をしていた。


「制空権さえとれば、地上の軍勢を圧倒できる……そう思っていた」


 だが先日の戦闘を考えると、陸上戦力の増強が必要と俺は感じた。


 ダンジョンから王都へ進撃した炎の魔獣集団、あれをトルネード航空団が空爆した。しかしある程度の敵を叩いた後、まともな陸上兵力を投入していたら、もっと効率よく掃討できたのではないか、と思うのだ。


「野戦では空爆で何とかなったが、本番ではもっと数が多いはずだ。空爆だけでは仕留めきれない可能性もある。爆弾を積み直して再出撃するにしても、その間、敵と交戦して足止めをしたり、それかトドメを刺したりできる戦力がほしい」

「パワードスーツを増強するのか?」


 マッドが問うた。俺は、走り書きのメモを手渡した。


「魔法金属装甲が作れるようになったからね。それに合わせていくつか考えている」


 受け取ったメモ書きに、さっと目を通したマッドは小さく唸った。


「俺は魔法のことはよくわからないが、アイデアは面白いな」


 そう言いながら、マッドはリアナに俺のメモをまわした。人形のように平坦な少女の目がわずかながら大きくなった。


「HM型をベースにした空戦対応機。それに水陸両用のパワードスーツ――」

「君が以前求めていた特殊作戦仕様」


 俺が補足すれば、リアナはこくりと小さく頷いた。


「わたしも魔法のことはよくわかりませんが、大きな装備変更もなく陸戦にも水中にも対応。実用化できれば、かなりのものです」


 彼女にしては長セリフだったな。お気に召したようで何よりだ。


 空戦仕様が風魔法金属装甲、水陸型が水魔法金属を用いる。メモには他に、火属性、土属性仕様も書かれている。


「まあ、パワードスーツについて、プランはそんなところだ。だが俺が考えているメインは、戦車なんだ」

「戦車……」


 マッドとリアナが俺を注視した。

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