第472話、戦勝会とか
エマン王と、大空洞ダンジョン一〇〇階層の取り扱いについて協議した。王族が所有する魔石生成場の管理、警備、そしてモンスターなどの対処などの懸案事項を潰していった。
その後、俺は王都に移動して、エマン王出席のもと、シャッハの反乱鎮圧における戦勝会に出席した。
聖騎士ルインら魔法甲冑乗りや、志願して戦った兵たちを労い、その勇戦をたたえる晩餐会である。
国王陛下のほか、ウィリディス勢では俺とアーリィー、ベルさん、マルカスが出席。他の面々にも声をかけたのだが、ことごとく辞退された。
その理由について、リーレの言葉を借りるなら――
『王国の偉い人とか出るなら、堅苦しい食事会だろ? やだよ、面倒くさい。どうせ身分差が露骨に出るだろうし』
俺だって本音を言えば嫌だよ。王族出席の場なのに、フィレイユ姫殿下が出席しなかった点からもお察しである。
『堅苦しいのは嫌ですわ。騎士様たちの会より、わたくしはここで皆さんとお食事していたほうが何倍も楽しいですわ。――そんなことより! 大空洞ダンジョンのお話を聞きたいですわ!』
そんなことより! この戦勝会だって、ダンジョン攻略の……。まあいいや。
周囲が面倒だとボイコットする中、付き合ってくれたマルカス君は癒やしである。忠臣の鑑だよ、本当。
ベルさんは黒猫姿ではなく、貴族を思わす正装で参加した。浅黒い肌、屈強ながら引き締まった体躯。その堂々たる姿に加え、にじみ出る強者オーラが他を圧倒した。
会に参加したほとんどの者が、どこの御仁なのかと不思議がった。そんな周囲をよそに、ベルさんはエマン王と親しげに酒を酌み交わしているので、周囲も迂闊に声をかけられずにいた。どこかの王族では、というのが、しばらく流れることになる噂である。
俺は、同じく出席させられたアーリィーと酒と食事をとる。男装王女だった頃から、アーリィーは、こういう場は好きではない。
だが今回のシャッハ討伐戦に、ヴィジランティを駆って活躍。魔法甲冑乗りの騎士たちを凌駕する戦績をあげたから、戦勝会の主役の一人として辞退できなかったのだ。
彼女のもとには、そういった魔法甲冑乗りや有力貴族の子弟が話を聞きに集まる。俺には、貴族や上位騎士ら、軍事部門の責任者勢が来て、もっぱらダンジョン攻略に力を発揮した魔法――ダンジョンコアの件は口外しないことになっていたので、俺の魔法ということになっているのだ――や、魔法甲冑、そしてミサイル兵器についての質問などが相次いだ。
賢者様、だってさ。……おだてても何も出ないよ。
そんな貴族たちに釘を刺したのは、エマン王だった。
だが俺との親密さを表すように『自慢の息子だ』などと言っていた。アーリィーと結婚すれば、王位継承権はないが一応王族に組み込まれることになる。義理の息子ではあるが、ここにはいないジャルジーが嫉妬するから自重してほしい。
ただ戦勝会で出された料理は美味かった。ウィリディスでの魔力生成食材と、そこで学んだ料理人たちが作った料理に、参加した者たちは心より食事を楽しんだようだった。
翌日、俺は今度は冒険者ギルドへ顔を出した。
ギルド本部一階フロアは現在修理中。しかし依頼関係は平常通りであり、業務への影響は最低限で済んだ。……精神的に休養が必要なギルド職員もいたので、まったく影響がないわけではなかった。
さて、冒険者ギルドでは、シャッハの反乱事件での犠牲になった冒険者たちの追悼式が行われた。Sランク冒険者であり、討伐にも参加した俺はここでも強制参加である。
アーリィーは王族代表という形だが、実質冒険者ランク持ちなので、冒険者という扱いでもいいだろう。
ベルさんや傭兵のマッドハンターに加え、王城での戦勝会は辞退したリーレたちもまた、戦友の見送りには参加した。
午後は再び王城に戻り、こちらも先の討伐事件に志願し犠牲になった騎士や兵たちの葬儀に参加。
そして夜には、再び冒険者ギルドに行き、こちらも戦友の追悼と生き残った者たちの健闘を称える会が催された。
ヴォード氏が自腹をきって、ウィリディス産の食材と料理を手配。参加した冒険者たちは再びこの味に巡り会えた者と、初めて体験する者が入り交じり、盛大に飲み食いした。
悲しむ時は悲しみ、楽しむ時は楽しむ。明日ともしれない人生を、彼、彼女らは満喫するのだ。
ここでの人気は、ウィリディス勢に集中した。今回も人間形態で参加したベルさんは、例の暗黒騎士の中の人ということで注目を集め、武術大会でもその力を見せつけたリーレなども若い戦士たちが集い、気をよくしたリーレもかなり飲んでいた。
エリサには男どもが群がり、熱烈なラブコールを送られる。橿原は絡まれるのを避けるように、早々にリアナやユナとウィリディスへと帰っていた。
俺は、ヴォード氏、ラスィアさん、クローガといった上位ランク冒険者たちと、周囲の騒ぎをよそに、今後の雑談をしながらお食事。
「今回の代償は大きかった」
しみじみとヴォード氏は言うのである。ちょっと酒のペース速くないですかね……?
「犠牲者も多かった。これがたった一人の元冒険者によって引き起こされた」
シャッハが今回の事件を引き起こした理由は、実にお粗末なものだった。
すべては自分という存在を世に認めさせるため。のし上がっていく上で、エンシェントドラゴン事件でそれまで築いてきた名誉を失い、その汚点をこの世から消したかったようだった。後ろ暗い事実を知っている者を皆殺しにすれば、失態も消えると思ったらしい。
どうしてそういう思考になるのか、俺にはわからない。恥をかいたから、その恥を知る人間を殺せば解決とか、まともな人間の考えではない。……もう、まともじゃなかったんだろうな、たぶん。
なおシャッハは、冒険者たちの私刑の末、死亡した。彼の遺体は王城に運ばれ、王国軍に引き渡すことになっていると言う。
まあ、仮に生きていたとしても、王国に弓を引いたのだ。処刑は免れなかっただろうけどな。
「おれはギルマスを退くべきかもしれんな」
ちら、と俺を見ながらヴォード氏は言うのだ。責任を感じているのかもしれない。だがそこで俺を見るのは勘弁してくれ。
「後任なら辞退しますよ」
俺はそっけなく言い放つ。
「近いうちに、彼女と――」
隣に座るアーリィーに視線を向ける。
「結婚しますので。王族関係者が、ギルマスを務めるのは冒険者という社会的立場上、よろしくないのでは?」
冒険者は国家の私兵にあらず。独自性を持つ組織が、実質、軍の配下に置かれるのは、あまり好ましいことではない。実際そうなれば、冒険者たちはこの王都ギルドから離脱してよそに移るだろう。
王族の一員になるのを嫌がっているくせに、こういう時に王族という言葉を盾に断る。さすが俺、汚い!
真面目な話をしている横で、アーリィーが赤くなってうつむきながら、ちびちびとお酒を口に運ぶ。どうやら結婚という言葉に照れているらしい。……そんな可愛らしい嫁の姿に俺も顔が熱くなってきた。
そこでクローガが、先のダンジョン攻略で見せた兵器のことを聞いてきた。王国軍の扱いということになっている魔法甲冑のことや、巨人を倒したロケットランチャーなどなど。
「あれが冒険者でも持てる武器なら、大型魔獣の討伐が相当楽になると思うんですよ。ねえ、ヴォードさん?」
「そうだな」
まあ、そうだろうな。冒険者でも、ロケットランチャーの需要はあるだろう。実戦で効果のほどを示したから。多少お高くても、上位冒険者あたり使いたいという者もいるだろう。彼らは魔獣討伐という名目上、色々な武器を使ってきたから、ロケランもそのひとつというわけだ。
ただ、これ、王国側からストップがかかりそうな武器なんだよなぁ。飛竜狩りで、ジャルジーにアピールしたわけだが、その彼もロケランの扱いは慎重だった。
何せ、この武器、城門や防衛拠点潰しにも使えるから、権力者にとってはそれが出回ることはあまり好ましくないのだ。
とはいえ、俺のいた世界に比べて危険な大型魔獣というのが、そこそこ跋扈している世界である。自衛兵器として、ある程度の使用は認めざるを得ないだろうとは思う。……レジェンダリーウェポンで武装する冒険者が存在を許されている世界だからね。
そうそう――俺は、比較的おとなしく酒を飲んでいたアインホルンのアンフィへと顔を向けた。
「ナギの失った腕についてなんだが……治せるかもしれないって言ったら、話を聞く?」
「え……?」
アンフィは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になるのだった。




