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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第469話、ジン VS シャッハ


 シャッハは元々、前衛型の冒険者だ。大剣を使って、大型魔獣を相手にするタイプで一対一の戦いは得意である。


 一方で武器の特性上、攻撃は大振りとなりがちで、動きの速いタイプや複数の敵を相手にするのは少々苦手にしている。


 ダンジョンコアを得たことで魔法――特に火属性を伸ばしたようだが、本職の魔法使い相手に『魔法』で挑むのは愚かと言わざるを得ない。


 それでもシャッハが初撃を魔法で挑んできたのは、俺が聖剣ヒルドを所有していたからだろう。

 近接戦ができる魔法使い、いや魔法剣士程度に俺のことを認識していたからこそ、魔法使い戦における前衛の基本戦術、とりあえず突っ込んで近接で殴るをしなかったのだ。


 だが魔法が効かない以上、シャッハは得意の大剣を使った戦いを展開するしか手はない。ダンジョンテリトリーにおける魔獣召喚も、俺のDCロッドが相殺している以上、一対一だ。


 シャッハが大剣を構える。真っ黒な刀身、その長さは1メートル半を軽く超えている。炎をまとうその姿は地獄の大剣か。

 前の大剣はエンシェントドラゴンに折られてしまったから、新しく手に入れたのだろう。俺も聖剣を持って対処――はしない!


「!?」


 瞬時に俺が、シャッハの懐に飛び込んだので、奴は目を見開く。


「せいっ!」


 握り込んだ拳、フルグ鋼の手甲がシャッハの顔面を強襲。しかし寸でのところで剣が割り込んで、俺の拳が阻まれた。……ち、一撃で首を吹っ飛ばして終わりにしてやったものを。命拾いしたな、シャッハ!


 大剣で受け止めたとはいえ、シャッハの身体が吹き飛び、祭壇に背中からぶつかった。したたかに打ち付け、シャッハは声をあげ、そして俺を睨んだ。


「何だ、いまの踏み込みは……!?」


 その目に浮かぶのは怯え。明らかに予想外のスピードを見せつけられ、戦慄(せんりつ)する。

 魔物召喚も封じられ、魔法も無効。本来得意のはずの近接戦にも想定外に踏み込まれ、シャッハの動揺は極限に達していた。

 そのまま震えてろ。俺は奴めがけて跳躍し、電撃をまとった脚で飛び蹴りを放つ。


「う、うわぁぁぁ-!」


 慌てて逃げるように電撃キックを避けるシャッハ。そこにあった祭壇が俺の蹴りで砕け、安置されていたダンジョンコアが宙を舞った。


「あ……」

「確保っと」


 俺はダンジョンコアをつかむと、そのままストレージに放り込んだ。これでシャッハの命令は、コアには届かない。通常の声はもちろん、魔力念話も届かない異空間に置かれれば、コアは待機状態になるほかない。


 最大の脅威は、やはり敵の手にあるダンジョンコアである。それさえ排除してしまえば、残されたのは、ただの元冒険者でしかない。


「お、お前っ! ダンジョンコアをどこへやったッ?」


 ヒステリックな声をあげるシャッハ。俺は飛び退いて、距離をとる。


「ここではないどこか」

「な、にぃ……!」


 コアがなければ、もはや彼は大空洞ダンジョンに何の干渉もできない。魔獣召喚もダンジョンコントロールも、自分の手でできること以外は何もできなくなった。


 つまり、彼に手下も軍隊もなく、神殿外の戦いも決着がついたことを意味する。


「さて、シャッハ君」


 俺は無感動な視線を、哀れな元冒険者に投げつける。


「もはや君を殺すことは容易いのだが、正直言って俺は君に対する殺意がいまいちないんだ」

「は……?」

「そりゃこれだけのことをしでかしたのだから、報いは受けるべきだ。だが俺が下すよりも、自分の手で君に復讐したいという人間がいるんだよ」


 ちら、と視線を向ければ、大部屋に駆けてくる靴音が複数。俺が神殿外に繋いだポータルを経由して、やってきたのだ。


「シャッハ!」


 怒号のように響いたその声。冒険者ギルドのマスター、ヴォード氏に、アンフィらAランク冒険者たち。


 娘を殺されかけ、仲間の冒険者生命を絶たれ、または仲間を失った者たちが、殺意と憎悪をたぎらせて、シャッハの前に現れたのだ。


「ひっ……!」


 思わず声にならない悲鳴をあげたシャッハは、大剣を改めて掴むが――


「!?」


 持ち上がらない。まるで地面にくっついたようだ。シャッハが渾身の力を入れて持ち上げようとも、ピクリともしない。俺が、そっと人差し指を剣に向けていることに気づき、シャッハは鬼の形相を浮かべる。


「ジン、きさまぁぁっ!」


 重量アップ。補助魔法だって馬鹿にしたものじゃないんだよ、こういう場合。

 ドタドタと靴音が迫る。ビクリとしたシャッハが大剣から手を放し逃げようとするが、すぐに冒険者たちに取り囲まれた。


「うわ、やめろ! オレに近づくな! うあ――」


 その後、彼の悲鳴が何度も聞こえることになるのだが、俺は冒険者たちの私刑(リンチ)から目をそらすと、大部屋の外へと足を向けた。



  ・  ・  ・



 拷問対象に治癒魔法をかけて延命しつつ、肉体にダメージを与える、というのは、この世界は、わりとある話だと聞く。


 その手の行為をしているのが、貴族や裏社会の組織のみならず、教会関係でも異端者に対してやっていると聞くと、なんとも言えない気分になる。


 冒険者たちのシャッハに対する私刑もまた、治癒魔法で怪我を治しつつ、繰り返し殴打が行われ、正直言って、俺は付き合いきれなかった。


 とはいえ止めるつもりもない。それだけヴォード氏やアンフィたちの怒りと恨みは深い。俺だって身内が無残に傷つけられ殺されたりしたら、私刑に参加しただろう。


 顔見知りの冒険者であるナギが片腕を失った、というのを思い出せば、俺も一発はシャッハをぶん殴っておきたかったと思うのだ。


 帰るまでが遠足という。ダンジョンコア『グラナテ』を確保した俺は、瀕死のシャッハからコアの権限を奪い、ちゃっかり自分の懐にしまい込んだ。


 ヴォード氏はもちろん、エマン王にもダンジョンコアの利用による効果を知られてしまったからなぁ。シャッハの持っていたコアともなれば、冒険者ギルドだって手に入るなら欲しいだろうし、王家だって黙ってはいないだろう。


 誰が所有するかをのんきに見守っていたら、噂を聞きつけたよそ者に盗まれました、なんてこともある。……特に大帝国の諜報組織なんかにコアの所在がバレたら間違いなく手に入れるために行動してくる。


 コアを巡って血みどろの争いは御免被る。それでなくても、かの国との戦争準備で忙しいというのに。

 俺も当事者のひとりだから、関係ないところでやってくれと言っても、絶対に巻き込まれる。

 そうであるなら、初めからなかったことにする。


 つまり、俺がシャッハとの戦いでコアを砕いたと、嘘の報告をするのである。この手の虚偽の報告はバレたら物理的に首が飛ぶレベルであるが、正直に言うと大問題になるなら、マシな方を選ぶ。


 世の中には、知らなければ幸せなこともあるのだから。

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