第468話、敵陣、強襲
「これはいったい何なんだ!?」
シャッハは、映し出された光景に思わず声を荒らげた。
浮遊する単眼こと、アイボールが見ている視界が転送されている。ダンジョンコアを通して、前線――現在、炎の神殿に接近中の二つの物体を見たシャッハは、送り込んだ刺客があっさりと突破されていく様に歯がみする。
戦闘用に特化したゴーレムのようなものが二つ、稲妻のような速さで戦場を駆ける。
ダークブルーと、薄い青色の機体に、迎撃に出た炎狼、フレイムゴーレムが次々に撃破されていく。
ごっそり肉をえぐられる狼。膝を砕かれ、胴を撃ち抜かれたゴーレムが崩れるように大地に突っ伏す。
炎の騎士も、炎トカゲも、敵のスピードに全く追従できない。炎の魔法を放っても、敵にはかすりもしない。それどころか、あっという間に肉薄され、光刃によって瞬きの間に両断される始末だった。
ダークブルーの機体、その頭のゴーグル状の部分に赤い単眼が揺らめく。一つ目の悪魔――シャッハは愕然とした。
あんなゴーレムは見たことがない。あのスピードに射撃武器。あんなもの、人間が敵うものなのか? 魔獣でさえ蹴散らされている現状、考えもなしに当たればやられる……!
こちらが迎撃の魔獣を幾重にも転送している影響で、この未知のゴーレムは、少しずつ炎の神殿への直線コースからはずれつつある。だがそんなもの、時間稼ぎに過ぎない。このままでは、いずれ――
『警告』
ダンジョンコア『グラナテ』が報告する。
『九九階層にて、大型ワーム、神殿直上に到達』
「ワームだと……?」
そういえばグラナテは、ダンジョン内に管轄外の大型ワームが複数、行動をしていると先に報告していた。ただ、その動きは不規則で四方に散っていたため、目的もわからず、また危険もないので放置していたのだが……。
「うろついているワームごときが何だというのだ!? 今は、それよりも――」
『再度警告! 神殿直上より、ワーム、十数体が出現。急降下』
「何だとっ!!」
思わずシャッハは真上を見上げてしまう。だがそこは当然ながら神殿の天井であり、ワームが見えるはずもなかった。
・ ・ ・
うん、まあ、たかだかワームだろうさ。
俺はクリスタルイーターの最後尾をつかみながら、引っ張られていた。
シャッハはこちらの放ったイーターを無視している。そうなるようにダンジョンに散らばらせたのだが。
複数を不規則にばらまいたせいで、こちらに対する警戒の様子はまるでなかった。あまりに何もないから罠かもと思ったくらいだ。
俺が考えた策はこうだ。
クリスタルイーターによるダンジョン天井を破っての、本拠地上方からの急襲。ただ普通に向かわせただけでは、迎撃される恐れがあるので、シャッハから無害判定されなければこの策は使えない。
わけのわからない動きをするモンスターより、目先の敵を叩く――シャッハがイーターたちをスルーしているのがわかった時点で、次の手。
マッドハンターのバーバリアン、リアナのヴィジランティを敵陣深く突入させる。この二機は囮だ。猛スピードで接近しつつ、魔獣を蹴散らしていく二機にシャッハの注意はそちらに釘付けとなった。
その間に、無害を装って一匹のクリスタルイーターをランダム機動させつつ、敵のアジトの真上へと移動させる。俺はその最後尾に密着することで、敵の索敵から逃れつつ目標へと接近したわけだ。……うん、いちおう密着しているけど薄い魔力層を間に張っておいたからベトついてはない。
ともあれ、俺は、奴の本拠地を直上から見下ろしているわけだ!
一〇〇階層の不可侵の床をワーム種特有の通過能力で穴を開ける。そこで俺はDCロッドで、さらなるクリスタルイーターを複数体、魔力生成召喚。ワーム集団は、敵神殿めがけて逆落としをかける。
一緒になって降下しているからまだしも、端から見たらおぞましい光景だろうな。巨大ミミズが滝のように降り注いでくるなんて。素面だったら俺だって逃げるね。
敵の本拠――神殿と思われるその建物は、ピラミッド型に積み上がった石材できていた。東側に入り口と思える通路がある以外は、真上から見る限りは一〇〇メートル四方の正方形に収まっている。地下に建物が続いているならともかく、地表に見える部分だけだと割とこぢんまりしている。
そうこうしている間に落下したクリスタルイーターたちが、べちょりと石材の上にぶつかる。だが一匹たりとも死なないのは、普段からダンジョンの天井や床を突き抜けても、そのままダイブを続けるワーム種だけはある。
イーターは俺に与えられた命令に従い、すぐに神殿の石材に穴を開け始める。石材なんて何のその。ダンジョンの階層さえ食い破る彼らは、天然のドリルも同然だった。固い物を破ることで、この宝石喰いどもの右に出るものはそうそうないだろう。……やっぱり、それが大挙して押し寄せてきたら、怖いわこれ。
みるみるイーターの身体が神殿内に侵入を果たしていく。
天井の一角が崩れ落ちるのを尻目に、俺はDCロッドを適当にそのあたりに刺して、テリトリー干渉を仕掛ける。シャッハによる魔獣生成の妨害である。少なくとも、突然背後や床から炎人が出てくるような状況は回避だ。
そのとき、下の方で連続した爆発音が響いた。……この音は、爆轟だな。シャッハが、イーターを迎撃しているのだろう。
はてさて、この神殿らしい建物に、いまどれだけの手下がいる? いざとなったら魔力を使って魔獣を召喚する手が使えるが、いまそれに妨害をかけた。あらかじめ出していたものを除けば、奴に増援はない。
だがこっちはダンジョンコアを使わない転移手段として、ポータルがあるんでね。
俺が青い魔力リングを形成すれば、こちらは味方がやってくるという寸法だ。俺はイーターたちが開けた穴によって崩れた炎の神殿の天井部分の空洞から、内部へと侵入を図る。
ダンジョンコア持ちと対決するにあたって、今日はおめかししてきた。いつものマントの下は、いつものローブとは違うぞ。
「ジン、トキトモォ……!」
怨念がこもってそうなその声。
「シャッハ」
二階層分、穴を抜ければ、そこは祭壇のある開けた大部屋。内部は全体的に赤い石材が用いられていた。魔法照明の明かりは普通なので、光のせいで赤いわけではない。
小さな教会並みというべきか、そこそこ広い。シャッハと、赤く輝く球体、そして無数のクリスタルイーターの焼け焦げた死骸があった。
「お前自ら乗り込んでくるとはなァ……。しかもいきなり本陣をついてくるとか」
「いちいち付き合っていると、君を待たせると思ってね。面倒を省いたのさ」
俺は、シャッハの前に降り立つ。
「単刀直入に言おう。降伏するなら、今のうちだぞ」
「誰がお前などに降伏するか! デトネイション!」
シャッハのかざした左手の先から、業火がほとばしる。凄まじい熱量を持った火球をしかし、俺はそのまま一直線に駆け抜ける。
「属性ひとつだけでは、対策されたらまったく無力だぞ」
爆炎を無傷で突き抜ける。火属性無効の魔法具はすでに装着済みである。うちのSS兵は炎に弱いし、シェイプシフター装備を使うサキリスもいるからね。火属性防御の魔法具は準備済みだ!
「くっ、グラナテ!」
シャッハの声に反応し、ダンジョンコアがあらかじめ展開していた浮遊型球体から、ファイアボールを連続して放つ。
だが残念。それも火属性。いくら当たろうが俺には効かない。
「どつきあいと行こうじゃないか、シャッハ!」




