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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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469/1945

第467話、駆け抜ける鋼鉄


 SS兵たちが大巨人を、距離のあるうちにあっさり仕留めたことの動揺は大きかった。

 冒険者たちは、死を覚悟するほど強大な敵と思っていたものが、たどり着くことなく死体となったことに驚愕した。


「すげぇ威力だ……」

「あれは魔法、じゃないよな……? 何だあれ」

「わからん」


 それはクローガらAランク冒険者も同じだった。


「また、ジンの発明品か何かか?」

「でしょうね」


 アンフィは鼻で笑う。正直、半分呆れている。他にどう反応すればいいのかわからなかったのだ。

 一方、魔法甲冑に慣れた王都騎士団の騎士たちは、驚きはしつつも納得していた。ルインは思わず口走る。


「あれが対飛竜用に使われた武器か」


 北方、ケーニギン領で起きた飛竜との衝突の噂は耳にしていた。そこでジンが提供した武器が使われたことも。


「ロケットとかミサイルと賢者殿は言っておられましたな。……あの威力、ぜひとも使ってみたいものです」


 魔法甲冑(シュタール)隊の副長の言葉に、ルインも頷く。


 そんなざわつきが収まらない中、PS用のスーツに着替えたリアナが、ヴィジランティ一号機――ここ最近彼女の専用機となっているその機体に乗り込んだ。


 肩部に広範囲可動を可能とするフレキシブルブースター、バックパックにも浮遊石と追加ブースターを載せているHM型タイプⅠ改装備である。


『こちらセイバー、準備完了』


 リアナの報告。それに答えたのはマッドハンター。


『バーバリアン、了解。セイバー、随伴(ずいはん)しろ。二機一組(エレメント)で移動。援護位置につけ』

『セイバー、了解』


 マッドハンターのバーバリアンが前進する。武術大会で魔法甲冑としてその姿を披露した時に比べ、より精悍さの増したスマートなフォルム。その一機しかない特別あつらえの機体に、魔法甲冑乗りである騎士たちは羨望(せんぼう)のまなざしを送る。


 青白いブースター光を瞬かせながら、バーバリアンとヴィジランティHMが飛び出した。以前は脚部の浮遊ユニットが地面から機体を浮かせて推進させていたが、浮遊石により脚のブースターは姿勢制御やジャンプへと使われる。


 彗星の尾を引きながらあっという間に点ほどの大きさになる二機を見やり、騎士たちは開いた口が塞がらなかった。


「なんと速い加速だ……!」



  ・  ・  ・



 地下一〇〇階層、シャッハが拠点としている炎の神殿。その最深部で、ダンジョンマスターである彼は戦況を見守っていた。


 正直言えば、面食らっていた。

 冒険者どもの集団の足止め、いや撃退を狙った灼熱巨人を放ったものの、あっさりと撃退されてしまった。それもろくな戦果も上げられないまま迎撃されたのだ。


「これがあのジンの力とでも言うのか……?」


 ダンジョンコア『グラナテ』が表示するマップで見ただけのシャッハは、灼熱巨人を撃退したのは、Sランク冒険者のジンではないかと思っている。


 かのSランクの冒険者の実力のすべてを把握はしていないが、冒険者ギルドでの一戦でも、その片鱗は見た。――奴以外に誰が、あれを倒せるというのか。


 もちろん、ベルさんやリーレという化け物がいるのだが、シャッハは知らない。


 次はどんな手で行くべきか。灼熱巨人が思いのほか早くやられてしまったせいで、シャッハは頭を抱える。


 その時、マップ上に新たな反応が現れた。


『警告。目標より、二つの高速移動物体を探知』


 テリトリー内を移動する移動物体。それが何だというシャッハが顔をあげ確認すると、確かに敵を示す光点が二つ、マップ上を猛スピードで移動しているのが見えた。


「いったい何だ……? いや、いまはそれよりも」


 迎撃せねば、とシャッハは口の中で呟いた。移動する光点は、明らかにシャッハのいる神殿を目指しているような動きを見せていた。



  ・  ・  ・



 魔力レーダーに反応があった。

 頭部のゴーグル型のモニターの片隅にそれが映し出され、マッドハンターは目で確認したが、すぐに視線を戻した。

 間髪入れず、リアナの声が魔力通信機を通して耳に届く。


『こちらセイバー、十時方向に敵反応』

「無視しろ」


 どうせ、すぐに視界から消える。マッドは正面を見据えた。


 地表すれすれを飛ぶ戦闘機のようなスピード。赤茶けた大地が前から後ろへとあっという間に流れていく。緩やかな傾斜も、そのまま乗り越え、二機のパワードスーツは足並みも乱れない。


 先ほど、魔力レーダーに反応したそれも、こちらが視認する前に、後方へと置き去りとなった。突然現れたように見えたが、待ち伏せするには離れているので相手にしない。


 それにしても――マッドは自然と口元に笑みを浮かべた。


 僚機としてついているリアナ・フォスター軍曹のヴィジランティHM型。

 このバーバリアンのスピードについてくるのは、さすがジンの作った機体だけはある。だが扱うパイロットの力量に、マッドは心地よい驚きを感じていた。


 ヴィジランティは、ピタリとバーバリアンの左斜め後方に占位して離れない。まるで長年組んでいるペアのように。


 ――強化人間か。


 マッドは心の中で呟く。まるで『彼女』が蘇ったような、そんな気分にさえなってくる。

 新たな警告音が耳朶(じだ)を打つ。現実に引き戻されたマッドは、こちらの行く手を阻むように出現した敵性反応に注意する。今度はちゃんと邪魔をしようというのだろう。


『こちらバーバリアン、正面に敵戦力。交戦を開始する』

『セイバー、了解』


 リアナの返事が、またもマッドの中に、かつての世界を駆け巡った時を思い起こさせる。初めて『彼女』と組んだとき、返事から人間らしさを感じられずに困惑したものだ。


 敵は、炎をまとった狼が四頭。……はっきり言って、パワードスーツの敵ではない。こいつらがよっぽど頭がよくて、こちらの動きに追従できて、器用に関節や装甲の隙間を狙えるのであれば話は別だが。


 バーバリアンをそれぞれの腕で持っている二〇ミリロングレンジライフルを構える。高速移動しながら敵を狙うというのは本来なら非常に難しい。だが搭載されたコピーコアによる射撃システムと、平原地帯であるという地形が、マッドにとって有利に働いた。


 ロックオン。もっとも弾が誘導するわけではないから、あくまで今撃てば、敵がよけない限り当たります、という意味でしかない。


 マッドはトリガーを引いた。高初速の銃弾がライフルから放たれる。危険を察知するフレイムウルフだが、回避する間もなく飛来した二〇ミリの銃弾がその身体の半分を引き裂いた。

 一頭は右前足と後ろ足を半身ごとえぐられ、もう一頭は胴体の後ろ半分をミンチに変えられ地面に激突した。


 次の二頭――マッドは素早くライフルをそちらに向ける。正面から突進しつつあるので、すでにその距離は、顔がわかるほどはっきり見えている。


 それぞれのライフルが発砲。一発が一頭を直撃し四散。だがもう一発は炎狼の耳をかすめ、揺さぶった。


 ――はずした……!


 だがフレイムウルフの命運は尽きた。リアナのヴィジランティがライフル弾を撃ち込み、血祭りにあげたのだ。


 まったく、僚機として誠にもって素晴らしい! 頼もしき相棒に内心で喝采しつつ、マッドは肉片と化した炎狼どもを振り返ることなく、機体を駆け抜けさせた。

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