第466話、次の手は――
第一階層で戦況を見守っていた俺は、魔力念話で最下層からの報告を受けていた。
シャッハの放った魔獣集団の迎撃は退けた。
ウィリディスの主な面々は健在だが、シェイプシフター兵が8名、敵の火属性攻撃で消滅した。
王都騎士団に貸したヴィジランティは半数以上が損傷し、そのうちの四機が戦闘不能状態で後退している。無人型ヴィジランティも二機が損傷激しく動けないほどやられたが、それ以外はまだ戦闘可能状態にあった。
だが騎士や兵士たち、冒険者グループの被害は大きく人数の上では半分が脱落した。負傷者は大空洞ダンジョン外の救護所に運ばれたが、戦死者も少なくない。ダンジョンの最下層に放り込まれたら、そうもなるか。
『で、ジンよ。このまま連中に付き合う気はないんだろう?』
ベルさんの念話。このやりとりはウィリディス勢の主な面々は全員聞いている。
『オレ様は別に構わないんだがな』
『……』
ベルさんは元気だ。人的な被害とは別に、生き残っている者たちもそれなりに疲労しているだろう。
『シャッハにとって嫌なのは、こちらが進撃してくることだ』
だから奴がとる手段は、こちらの戦力をショートカットルートの出口周辺から前進させないこと。適度に魔獣を投入して消耗戦を展開しつつ、自身の魔力の回復に努めていると思われる。
こちらがショートカットルートを作ったようなダンジョンコアの力押しをしてきた場合、シャッハがとれる対策は少ない。
だが何をするにも魔力が必要だから、その回復は彼にとって最重要。余計な部分に魔力を使わず、彼もまた魔力を一点に振り向けてくるだろう。
『今回の場合、消耗戦は愚策だ。だがそれに付き合うように見せかける』
こちらがショートカットルートの守りを固めれば、敵は消耗を狙って魔獣を送り出してくる。そうやって奴の目を引きつけている間に、敵の本拠地へ精鋭を突撃させる。
『お、いよいよ、親玉退治か?』
リーレの声には笑いの成分が混じっていた。腕が鳴るのだろう。
『ダンジョンコアのスキャンで、シャッハがいるだろう場所の見当は付いている』
ショートカットルート出口から、西方におよそ一〇キロにある神殿状の建造物。この地下一〇〇階層自体、かなり広い。平原に丘陵、溶岩の川、小山や崖などがある。そんな全体からみれば、こちらが確保しているエリアなど砂粒分程度に過ぎない。
一〇キロ、とマルカスの否定的な声。アーリィーの声がきた。
『距離がありすぎるよ。こちらが敵のアジトに向かえば、迎撃されるんじゃないかな?』
『そうなるだろうね。間違いなく』
俺は肯定した。ダンジョンコアにより、一部を除けばシャッハのテリトリー。そこを行けば、こちらの動きはすぐにわかる。
かといって、こちらがテリトリー化を図って道を作れば、そのルートからどう進んでくるかも敵にバレてしまう。
では一〇〇階層だけ全体をテリトリー化すれば、とも思うのだが、他の階層に比べて格段に広いここを抑えるためにコアの魔力を使うのは、何かあったときに対処できなくなりそうで怖い。ダンジョンコアを持つ者と直接ぶつかる時は余力がほしい。
『一応、シャッハの気を散らそうと、仕掛けはしてある』
『仕掛け?』
『クリスタルイーターを覚えてるか? あれをダンジョンに十数体、バラまいた』
エルフの里の騒動の際、ダークエルフ軍が使った宝石喰いのワーム、クリスタルイーターである。あのとき、その死骸を複数確保した俺は、中の魔石や宝石などを回収するついでにDCロッドに使役魔獣として登録した。
モンスターの中で、ワーム種はダンジョンの不可侵の壁や床を突き抜けて潜ることができる。こっちが放った魔獣だから、シャッハのダンジョンコアもそれを把握して、報告しているはずだ。
ベルさんが聞いてきた。
『それで、イーターどもはどうなった?』
『スルーされてる』
『ダメじゃねぇか!』
囮にもなりゃしない、とごもっともなことを言われた。今のところ、クリスタルイーターたちはダンジョン内の壁や床を掘り、魔石や鉱物を喰らいながら、階層を上に行ったり下に行ったりを繰り返している。
『まあ、無視されてるなら別にいいんだ』
俺が言えば、誰もわからなかったのか、疑問符を浮かべるような間が流れた。
『リアナ、いるか? 第二ラウンドだ。仕事を頼みたいが、ヴィジランティに乗る体力は残っているか?』
『はい、団長』
少女軍曹の声はいつも通りだった。特殊部隊出という彼女のこと、長丁場の任務は慣れていると聞いている。
「『そっちに専用のHM型を送る。バーバリアンと合流しろ』。……ということでマッド」
俺は振り返ると、TPS-2バーバリアンに乗るマッドハンターを見た。
「出番だぞ」
・ ・ ・
先手を打ってきたのは、シャッハだった。
地下一〇〇階層にいるダンジョン攻略隊に向けて、赤い体の大巨人を五体、送ってきたのだ。
これまた炎属性を持っているのだろうか。真っ黒な全身ながらその身体のラインはマグマのような赤。ゴーレムのようにも見えるが、生き物のようである。
歩くたびに振動が伝わってくる。そのあまりの巨体に、冒険者や騎士たちは青ざめた。
フレイムゴーレムやドラゴンは確かに大きかった。だが高さが違う。その手は、人間程度ならばでつかんで握りつぶすなど余裕で、つまるところやや猫背ではあるものの、その背の高さは軽く10倍も差があった。
パワードスーツでさえ小さく見える相手である。普通に戦えばどれだけ犠牲が出るかわかったものではない。
ベルさんやリーレが、どう料理してやろうか考えている間、他の者たちは恐怖に駆られたが、そんな中でシェイプシフター兵が五人、肩に筒状の武器を担いで前に出た。
味方から一〇メートルほど出た彼らは、横一列に展開すると、片膝をついて担いできた筒――対大型魔獣用ロケットランチャーを構えた。
後方噴射に、まず冒険者たちは驚く。近くにいたら巻き込まれていたと肝を冷やすが、その間にも放たれた槍のようなロケットは炎と煙を引いて、大巨人めがけて飛翔した。
狙ったのは股より下。その巨体と横並びだったことが災いし、大巨人たちはとっさにかわすこともできず、膝やすねにロケット弾を喰らう結果となった。
パッと花が開くように赤いものが飛び散り、肉をえぐったそれは、大巨人たちの足を止めた。ワイバーンですら直撃すれば四散する威力である。膝を砕かれた大巨人は立つこともままなららず、苦悶の声を上げる。
倒れた衝撃でまたも地震が起きる。しかし大巨人は這ってでも進もうとする。
五名のSS兵は、背負ってきた予備のロケット弾をランチャーに装填。何事もないようにテキパキと準備を終えると、再びランチャーを構え、発射した。
今度は巨人の頭が標的だった。機動力をそがれ、または這っていた大巨人にそれらをかわす余裕などなく、ロケット弾がその脳天をかち割り、破裂した。




