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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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467/1946

第465話、一〇〇階層の攻防 その2


「ジャイアントセンチピード!」


 突然、地面を割って現れたのは体長一〇メートルを超えている大ムカデだ。悲鳴がした時には、正面にいた冒険者がひとり噛まれて、半身を飲み込まれた。


 無数の足をせわしなく動かすジャイアントセンチピードは、その巨体に見合わず素早い。あっという間にダンジョン攻略隊の中心に入り込んで、移動と噛みつきを繰り返した。

 正面を避けて反撃を試みる冒険者だが、硬い外皮に剣が通らず、またその無数の足で踏みつぶされる者が相次いだ。


 さらにフレイムドラゴンが横に広がりながら、壁のごとく前進する。炎のゴーレムと激闘を繰り広げていた、ヴィジランティ隊にドラゴンが迫る。


「ヴォードさん!」

「おうよ!」


 竜殺しのSランク冒険者こと、ヴォードが大剣を手に、フレイムドラゴンへ駆ける。


「竜退治はおれの専門だ!」


 フレイムドラゴンの口腔にブレスの光。だがそれよりも早く懐に飛び込むヴォードは、ドラゴンブレイカーを一閃。炎竜の首を切り落とした。


「だが、貴様たちは竜以前だな、このトカゲども!」


 狙いはドラゴンのみ、と言わんばかりに次のフレイムドラゴンへ突進するヴォード。


 その頃、パワードスーツ部隊にも損害が目立ってきていた。


 フレイムゴーレムを竜剣で叩き壊したり、サンダーキャノンの連射でそのコアを破壊する一方、ゴーレムの鉄拳の直撃を受けて胴体をひしゃげさせられる機体、腕を吹き飛ばされた機体など、決して無傷の戦いとはいかなかった。


 そこへ炎竜が飛び込んでくる。口から吐き出される炎のブレス。ヴィジランティのコバルト装甲は熱に強く、その高温に耐えたが、肩のサンダーキャノンや腕武器が融解する。また流れ弾となった炎が冒険者や兵士たちを飲み込んだ。


「うわああぁ――」


 炎の吐息で焼け落ちる者、かすめただけで大火傷を負い、のたうつ者。シェイプシフター兵も負傷者を救助したり、前に出て応戦するが、ブレスの前には一撃で消し飛んでしまった。


「うーん……」


 第一〇〇階層の天井に魔法障壁を張り、上から落ちてくる敵を防いでいたダスカは、思わず顔をしかめた。


「混戦ですねぇ。これはあまりよろしくない」


 ジャイアントセンチピードが、こちらへ向かってきたら、と思うとゾッとする。


「元お師匠」


 ユナの声に、マスター・ダスカは振り返る。見れば、銀髪の巨乳魔術師と、六脚型のスクワイアゴーレムのゲルプがやってくる。黄色い六脚ゴーレムはその背中に、魔法障壁展開装置を背負っていた。


「お待たせしました」

「ええ、待ちかねましたよ。さ、ゲルプ。障壁を展開してくれ」

『了解』


 六本足の蜘蛛のようにも見えるゴーレムが、運んできた障壁装置を発動させる。これで、ダスカは上を気にすることなく自由に動けるようになった。


「さて、元弟子よ。前衛は苦戦している様子。ひとつ手助けと行きましょう」

「はい、元お師匠」


 互いに『元』を強調する二人の魔術師。ちょうど、巨大ムカデが進路を変えて、二人のもとに迫る。


「外皮が硬い巨大ムカデですが……あなたならどう仕留めますか?」

「生半可な魔法攻撃は通用しないと思います」


 ユナは淡々と答えた。


「大岩で潰すのはどうでしょうか?」

「悪くはありませんが、ムカデは身体の半分が潰れてもまだ動きますからねぇ……。こんなのはどうでしょう」


 冒険者が避ける中、ジャイアントセンチピードが、ダスカの目の前まで迫る。その凶暴なる牙を見せつけ、あっという間に肉薄する。


「深遠なる闇、渦となりて地の底へと引きずりこまん……ダークネス・ヴォーテクス!」


 今まさに食いつかんと近づいてきた巨大ムカデの頭が、漆黒の円、その渦に突っ込んだ。センチピードの身体が頭から順番に闇の渦に飲み込まれていく。まるで自分から穴に入ろうとしているように周りから見えただろう。


「いかがです?」


 少々自慢げなダスカに、ユナはとくに驚くそぶりもなく言った。


「いまのは、ベルさんの魔法ですよね?」

「あぁ、わかりますか」


 苦笑するダスカに、ユナは容赦なかった。


「ベルさんなら、無詠唱でできますよ」

「私もできますよ。あなたにもわかりやすいようにやっただけです」

「まだわたしの師匠のつもりですか?」

「冷たいですね、ユナさん」


 どこで教育を誤ったのか、とダスカは親のような心境である。


 他のジャイアントセンチピードは……、と視線を転ずるダスカ。背中に翼を生やしたメイドが、別の巨大ムカデの頭部に飛び降り、手にした槍を突き刺すのが見えた。


 ――おお、サキリスさん、やりますねぇ。


 次の瞬間、ジャイアントセンチピードが頭からバリバリに氷結していく。どうやら槍から投入した魔力を氷に変換して凍らせたようだ。

 さすが、ジン君の下で戦っているだけのことはある――ダスカは目を細める。ああいう敵の体内に魔力を送り込んで大物を仕留めるところは、ジンの得意技でもあるのだ。


「元お師匠」


 ユナの声に顔をそちらに向ける。接近する炎人に対して、砂をかけるように振るわれた元弟子の腕。すると燃えさかっていた炎人は、吹き消されたように消えた。


「何をしました?」

「沈黙の魔法を応用して、火を消したのです」


 大気を操作して音の断絶を起こす沈黙の魔法。炎人の周囲に空気の断絶を起こすことで酸素の燃焼ができなくなった炎人は消滅してしまったのだ。


 面白い魔法の使い方だ。現在の彼女の師であるジンがいかにもやりそうではある。先ほどベルさんの魔法云々と言われたばかりなので、皮肉ってやろうかとも思ったがやめた。彼は大人なのだ。

 そうとは知らないユナは言った。


「形勢はこちらに傾いてきたようです」


 フレイムドラゴンは、ヴォードの斬撃やヴィジランティ隊の竜剣(ドラゴンテイル)の殴打を受けて、倒れ伏す。


 最後のジャイアントセンチピードは浮遊するヴィジランティ――アーリィー機のマギアカノーネが放った巨大な氷柱に頭を撃ち抜かれていた。

 地面に突き刺さり、頭を失った巨大ムカデは、それでもなお前進を続けた結果、身体を自ら真っ二つに引き裂くことになった。ムカデは全身に神経があるので、脳を失ってもしばらく動くのだ。

 他の炎人や騎士ら、フレイムウルフなども、冒険者たちがあらかた片付けたようだった。


「ふむ、第一陣は退(しりぞ)けましたか」


 言葉とは裏腹に、ダスカの表情は冴えない。


 相手にダンジョンコアがある限り、目の前の敵をいくら倒しても、おかわりがやってくる。消耗戦になったら、数が限られているこちらが負ける。


「まあ、それはジン君もわかっているんですけどね……」

「元お師匠? 何か」

「独り言ですよ。それより、ユナ君」


 いちいち『元』をつけるの言いにくくないですか? と、ダスカは思うのだった。

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