第464話、一〇〇階層の攻防
地下一〇〇階層。先制攻撃としてエクスプロード爆弾が投下され、ひしめくように固まっていた巨大芋虫はなぎ払われた。
魔方陣近辺を確保、転移魔方陣を通って、ダンジョン攻略隊が飛び出す。
地下にもかかわらず、ほのかに視界が赤いのは遠くを流れる溶岩か。一〇〇階層の展開地の周囲は見渡す限りの平原、いや緩やかな丘陵地帯。天井の高さは三〇メートルから五〇メートルとかなり高い。これはひとつの地下世界を形成している。
だが、のんびりはしていられなかった。シャッハはすぐに第二陣を投入、転移したダンジョン攻略隊に牙を剥く。
多数のフレイムゴーレム、炎の甲冑をまとった騎士、炎人。さらに炎からスケルトンやゴーストなどのアンデッドが召喚され、押し寄せる。
「なかなか豪勢じゃないか!」
真っ先に飛び出した暗黒騎士姿のベルさんは、その兜の下で笑みを浮かべた。続くリーレもまた同じだ。
「こいつは楽しめそうだな! ベルさんよ、どうだい? どっちが多く倒すか競争するか?」
「乗った!」
超前衛組は、後ろがついてこようが眼中にないらしく突撃した。
冒険者グループを率いるヴォードは、まず肌にまとわりつくような熱気に眉をひそめ、敵の陣容を素早く確認した。
「全員、魔法薬を使用しろ。かなり暑いぞ」
ウィリディス印の魔法薬。クーラーは火山地帯や砂漠などの環境に挑む際に、あれば重宝する。熱による体力低下を抑える効果があるのだ。
支給されたクーラー薬を一飲みしながら、ヴォードは苦笑する。
――まったく、大空洞の地下深くに灼熱世界があるなんて話は聞いていたが……。
それとは別に、攻略隊全員にクーラーを支給するウィリディス――ジンの手配力には恐れ入る。
ヴォードは知らなかったが、ウィリディスではエリサ主導で、魔法薬や回復薬の量産作業がダンジョンコアの助けのもとで進んでいる。これも大帝国戦に向けての準備であることも当然ながら知らない。
冒険者グループが準備している間に、ウィリディス勢――マルカスやサキリス、リアナ、王都騎士団の兵たちも同様にクーラーを使用。その隙を守るようにシェイプシフター兵がライトニングバレットを敵に放ちつつ前に出る。
そしてヴィジランティ部隊も。有人機仕様に乗るルインは声を張り上げた。
『ゴーレムは我々が相手取るぞ! 魔法甲冑、前進!』
有人機ヴィジランティが隊列を組みながらも素早く前へ出る。無人機仕様のバトルゴーレム――ウィリディス内部隊名、B中隊ことブレイブ中隊も、ベルさんやリーレの後に続きつつ、肩のサンダーキャノンで攻撃しつつ敵魔獣に挑んだ。
フレイムゴーレム――岩石の身体にところどころ炎をまとわせた三メートルほどの人工巨人がのしのしと迫る。図体は大きいが動きは鈍い。だが電撃弾を浴びてもびくともしない頑強さで、ヴィジランティを迎え撃つ。
アーリィーのヴィジランティHM(高機動型)は、肩にサンダーキャノンではなくブースターを装備したタイプだ。浮遊石を搭載したおかげで、高い滞空性を誇る。
――射線が確保しやすいんだよね。
味方の頭を飛び越えて、敵陣に銃撃を放つことができる。もちろん、射線が通るということは、敵からも見えているので狙われやすくなるというデメリットは存在する。
「まともな射撃武器があれば、の話だけどね!」
新兵装のマギアカノーネを使う。王国軍の魔法甲冑が装備する魔法杖型の武装をヒントに魔法弾を扱う銃として開発されたものだ。
もっとも、これの使い方は、以前ジンに作ってもらった魔法弩『ディフェンダー』に似ているために、アーリィーにとっては苦もなく操れた。
「チャージング……シュート!」
収束した魔力を光線として放つ。一筋の光がフレイムゴーレムの胴を突き刺さり、表面を削る。剣を振るように銃口をずらせば、光線が糸を引くように走り、ゴーレムの胴体を引き裂いた。身体を分断され、崩れ落ちるフレイムゴーレム。
アーリィーは、高いところにいるのを利用し、後続の敵魔獣にビームによる攻撃を続ける。炎の騎士が、スケルトンが、光によって切断されていく。
そんな様子を横目に、サキリスはニヤリと笑みをこぼす。
「さすが、アーリィー様。わたくしも負けていられませんわ!」
「あまり前に出すぎるなよ、サキリス」
ホワイトオリハルコンのハンマーと盾を持つマルカスが正面を見据えたまま言う。
「お前のSS装備、火に弱いのだからな!」
「そんなの、ご主人様によって対策済みですわ、ご心配なく!」
耐火のペンダント――火やそれに関係する属性の攻撃を防ぐ魔法具を身につけているサキリスである。シェイプシフター装備のバトルメイドは槍の穂先に電撃を集め、正面の炎人に浴びせる。
SS兵たちもライトニングバレットで周囲の敵を攻撃。マルカスは前に出つつ、炎の甲冑をまとった騎士のような敵に挑みかかる。
「燃えさかる炎、我の身体を巡り、力を増せ――パワー!」
身体強化の魔法を唱え、マルカスは筋力を増強。向かってきた炎騎士に渾身の一撃をぶちかました。炎騎士の鎧がひしゃげ、後方へと吹っ飛んでいく。生き物だったら、致命傷に等しい一撃だ。
一方、ベルさんはデスブリンガーで敵の屍を量産。リーレもまたグローダイトソードで炎人を引き裂き、フレイムゴーレムの足下に滑り込むと、その関節部分を両断して地面に突っ伏させた。
「なあ、ベルさん! ゴーレムは一体で二匹分のカウントでいいか!?」
「一匹は一匹だ!」
炎騎士の首を跳ね飛ばし、返す刃でスケルトンの頭蓋を真っ二つに裂く。
「それよりスケルトンは一匹に数えていいのか!? ちまちま復活してるみたいなんだが」
「じゃ、アンデッドはカウントしない!」
「ケッ! 寄るな骨野郎。骨折り損のくたびれ儲けじゃねぇか!」
突出する勢いで道を切り開く二人組。それに触発されたのが冒険者たちだった。
飛び込んでくる炎狼を、華麗に飛び上がってかわすアンフィ。
「爆ぜろ!」
魔法剣の先端が、フレイムウルフの背中をかすめる。だがそれで十分だった。次の瞬間、炎狼の背中が盛り上がり、爆発四散した。飛び散る血肉を無視し、アンフィは咆える。
「邪魔をするなぁっー!」
目の前に炎騎士が数体、壁のように立ち塞がる。アンフィの背後で、ウサギ耳フードの少女魔法使い、ブリーゼが短詠唱する。
「アイスブラスト! ……アンフィ、冷静に」
氷の塊が炎騎士に突き刺さる。普段なら猪突猛進型のアンフィを諫めるのは、剣士のナギの役目だが、その彼女はここにはいない。
そんなアインホルンの女リーダーを見やり、クローガは盾で炎人の攻撃をいなし、氷属性を付与した剣で、その胴を切り裂く。
「ガルフ、お前は大丈夫か!?」
「問題ない、クローガさん」
歴戦の上位冒険者は、魔獣を次々に葬っていく。一方で、中堅や下級冒険者たちの中には負傷者が相次いだ。
炎の騎士の鎧は硬く、また剣にファイアエンチャントが施されていて、並の防具では防ぎきれない。
炎人は防具がないが全身燃えているせいで、近接攻撃がしづらく、また抱きついて燃やそうとするため、下級冒険者たちはびびってしまっていた。他にも一般的な魔獣よりワンランク上の敵に苦戦を強いられる。
しかも、ここからさらにシャッハは増援を送り込んできた。
フレイムドラゴン、さらにジャイアントセンチピードが、攻略隊の集団に飛び込んできたのだ。




