第463話、突入、地下一〇〇階層
最深階層への直通ルートができた。
俺がそう叫ぶと、待機していた一同は最後の準備をはじめた。適度に身体を動かして緊張をほぐしたり、覚悟を決めたりする時間だ。
腕がなるぜ、と言う冒険者もいれば、兵たちに活を入れる騎士もいる。アーリィーは高機動型ヴィジランティに乗り込み、マルカスやサキリスも武器を手にしながら呼吸を整えている。
聖騎士ルインがヴィジランティを動かしながら、アーリィーのもとへとやってくる。
「アーリィー殿下も、前線に出られるのですか!?」
「ボクがこんな格好をしているのを飾りだと思ったかい?」
「しかし、殿下。前線は危のうございます! どうぞ、後方で――」
「前線には出るけど、ボクは支援係だよ。みんなを援護するのが仕事なんだ」
最前線には出ないように、というのは騎士たちが心配する以前に、俺がそう言い含めてある。彼女の身を心配している、というのはあるが、それ以前にベルさんやリーレの超攻撃型前衛と肩を並べるより、一歩下がった方がより活躍できる、というのもある。
「そういうことだから……わかってるね?」
「……ハッ! 我ら王都騎士団、アーリィー殿下のもとには敵を近づけさせません!」
聖騎士は姿勢を正すと、部下たちにもその旨を告げた。騎士団連中が、「応ッ!」と気合いの入った野太い声を返す。
王族が前線に出ると聞いて、テンションが上がっているのかな? そういえばウィリディスでの演習で、アーリィーの評価って騎士たちの中では崇拝に近いとこまでいってたっけ。
「おい、ジン。まだか?」
暗黒騎士姿のベルさんがデスブリンガーで自身の肩をポンポンと叩いている。
「少し待て。いま大気環境をクリアにしてる」
地下深く、飛び込んだはいいが有毒ガスまみれで全滅なんて、目も当てられないからな。誰も行ったことがないと言われている場所だからより用心が必要だ。
それに一階層から地下一〇〇階層までのショートカットルートは垂直の穴だ。まさか飛び降りるわけにはいかない。そんな自殺まがいの降下方法もあるにはあるが、ダンジョンテリトリー化したゴール地点に、ダンジョン内専用の転移魔法陣を設置して、部隊を移動させる。
と、その前に――
俺は待機しているバトルゴーレム――無人型ヴィジランティに合図を送る。
有人機と外見上の差異がないゴーレム・ヴィジランティが抱えていた対地爆弾――エクスプロード爆弾を数発、底に投げ込ませた。
マップに表示されている敵を示す赤点が、点じゃなくて絨毯みたいになっていた。一〇〇階層で迎撃しようと召喚魔獣を集結させているのだ。
せっかく爆弾を落とすだけで攻撃できるのだ。わざわざ待ち構えている場所にそのまま突っ込むことはせず、ある程度掃除してからだ。
ベルさんやリーレがホログラフ状のマップを眺め、エクスプロード爆弾が地下一〇〇階層に落ちていく様を見守る。下の方で立て続けに爆発音がした直後、マップの赤絨毯に穴が開いた。
俺は、転移魔方陣を素早く一〇個を地下最下層に設置。続いて、一階層のここにも同数の魔方陣を置いた。
「設置した!」
「よぉし、行くぞ!」
ベルさんが咆えると、リーレもそれに続いた。というより二人して先を争っているように見える。
「おれたちも行くぞォー!」
ヴォード氏も冒険者たちに声をかけ、大剣を振りかざし、魔方陣へと走った。クローガやアンフィといったAランク冒険者たちが先導し、それに後れまいと中堅や下級冒険者が続く。
『殿下、では先に行きます』
ルインら、王都騎士団のヴィジランティも一機ずつ転移魔方陣へと入り、一気に地下百階層へと転移する。
一〇個の転移魔方陣を使って、人員が次々に送り出される中、俺はダスカ氏を見やる。
「じゃあ、先生。悪いですがお願いします」
「了解です、ジン君。装置を設置するまで、彼らの頭は私が守りましょう」
では、とマスターの称号を持つ魔術師は、転移魔方陣に乗って移動した。
何せ直通通路を作ったはいいが、一〇〇階層までの縦穴と出入り口が接している階層がかなりあった。
どういうことかと言うと、その開口部から、ダンジョンの魔獣が飛び降りてくる可能性があるということだ。
飛行型の魔獣はそのまま空から襲いかかってくるだろう。それ以外の魔獣は大半が高所からの落下で飛び降りたら死ぬだろうが、下で戦っている冒険者や騎士たちにぶつかりでもしたら、間違いなく巻き添え死である。
障壁装置を設置して一〇〇階層の天井に、落下防止の障壁を張るのだが、それが完了するまで、ダスカ氏が魔法障壁を使って頭上の守りを担うのである。
一〇〇階層だけ天井を再生させるという手もあるのだが、シャッハがそれを利用して、地下一〇〇階とそれ以外を分断する可能性がある。こっちはコアを二つ持っているとはいえ、それが慢心となって、取り返しの付かない事態になるのは避けたい。
たとえ一時的とはいえ、その一瞬で戦況が激変することもあり得るのだから。
「願わくば、俺の手が必要になりませんように」
シャッハの保有するコアが悪さしないように、俺は見張っていないといけない。配下の魔獣に戦闘を任せて、ショートカットルートの封鎖や妨害を狙うのは、こちらの攻略隊の退路を断つ意味でも行う価値があるからな。
『ジン』
俺の背後に、マッドハンターのバーバリアンが立った。
『待機でいいのか、俺は?』
「あぁ。悪いけど、君には俺の足になってもらう」
『……つまり、あんたが前線に出張るようなことになった時の保険ということか』
「いまはたぶん乱戦だろうから、君にとってはやりにくいだろうし」
ホログラフ状マップを見やる俺。マッドのバーバリアンは、機動力を活かすためにも少し戦場が広がった方がやりやすいだろう。
初戦の乱戦が一段落すれば、広大な地下一〇〇階層である。動き回れるスペースもできるだろう。
すると転移魔方陣が光り、中から人が出てきた。
「すまない! 負傷者だ!」
冒険者が、腕を失った仲間を支えている。傷を負った冒険者は自身のちぎれた右腕を左手で持っていた。
待機していたシェイプシフター兵がやってきて、ホバーボードを担架代わりに負傷者を乗せると、後方の救護所へと運んでいく。
「運のいい奴だ」
腕があるなら、再生するチャンスはある。もし腕が消滅したり置いてきたというなら、残念ながら止血程度しかできることはない。
マッドが口を開いた。
『救護所があるというのはいいことだ。前の世界にいた頃を思い出す』
「君も救護所の世話になったことは?」
『数えるほどくらいにはある』
その間にも、転移魔方陣が働き、負傷者がぼちぼち運ばれてくる。前線にはシェイプシフター衛生兵が数名送り込まれているので、軽度の負傷ならその場で手当てされる。冒険者の中には治癒魔法使いもいる。
エクスプロード爆弾である程度片付けたとはいえ、あっちは激戦を繰り広げているようだな。ただマップを見ているだけだと実際に何と戦っているのかわかりにくい。
俺は革のカバンからコピーコアカメラを応用した投影機を地面に置く。次に魔力通信機に呼びかける。
「バトルゴーレム中隊・リーダー、こちら指令本部。前線の映像をよこせ」
前線にいる無人型ヴィジランティに呼びかければ、すぐに投影機にホログラフ状の映像が送られてくる。ダンジョンを監視するコピーコアの本業だけあって、映像は非常にクリアだった。
どれどれ、攻略組は何と戦っているかな……?




