第461話、シャッハという男
トップを目指した。
それが周囲を見返す唯一の方法だと思った。
親父は貴族だった。もっともそれを知ったのはつい最近で、それまでは「らしい」ということしかわからなかった。というのは、オレが幼い頃にその家を追い出されたからだ。
妾の子だったらしい。とにかくオレが覚えていることは、貧しい生活と姉貴のこと。
姉貴は美人だった。優しくて、とにかくよく働いていた。苦労をかけている。幼心にもそれはわかった。ただ、本当の姉なのかはわからない。でもオレにとっては唯一の家族だったんだ。
だから姉貴を助けるために、そして生きるためにオレも働いた。だがガキの頃からまともな職につけるはずもなく、ゴミあさりのようなことをして日銭を稼いだ。
そんなんだから冒険者になるというのは必然だったかもしれない。いい先輩に恵まれ、剣を学び、オレはメキメキと頭角を現した。
順調にランクを上げる一方、その邪魔をする奴は裏で細工をして蹴落とした。のし上がることに飢えていた。
そしてオレは十分稼げるようになり、姉貴に楽させる――そのつもりだった。
だが、姉貴はまるでオレがAランク冒険者になるのを待っていたかのようにこの世を去った。王都のスラムで襲われ、暴行された末に死んだのだ。
何故、姉貴がスラムなんかに寄ったのか。事件を調べた結果、姉貴を襲ったのは冒険者三名で、それを雇ったのが親父の妻だったのがわかった。親父好みの美人に育った姉貴を見かけたその女は、親父が惑わされ手を出すのではと考え、先んじて葬ったのだ。
何だそれは。そんな理由で、姉貴が殺されたというのか!
オレは憤慨した。怒り狂った。殺してやる!
憎悪に駆られて屋敷に踏み込んだ時、王都はちょうど反乱軍を迎え撃つべく兵を派遣した時であり、警備は手薄。親父も仕える騎士たちも出払っていた。憎い親父の妻に復讐したオレだが、その後捜査の手が及ぶことはなかった。
反乱軍騒動で王都を出た王国軍は大敗し、親父と騎士たちもそこで戦死したからだ。結局、うやむやのうちに事件はそのまま闇へと葬られたのだ。
その後、オレは女に雇われ姉貴を暴行した冒険者を、それぞれダンジョンで始末した。ここでもオレに捜査の手は届かなかったが、一時ソロでのダンジョン攻略制限がかかった。まあ、オレの知ったことではないが。
その後のオレは、Sランク冒険者を目指し、ひたすら依頼に打ち込んだ。王都中にオレの存在を知らしめるために。見下された環境、貧しかった日々を忘れるために。
Aランク冒険者であるオレは、周囲から持ち上げられ、また女どもも寄ってきた。輝かしき未来、いやそれは現実だ。オレはさらに突き進んだ。
だが、それも終わりを告げる。
アイツ――エンシェントドラゴンと遭遇したことで。
愛用の大剣を折られ、命からがら生還したオレ。だが積み上げてきた地位、名誉、プライドは、圧倒的な力の前に踏み潰された。
気づけば、オレはエンシェントドラゴンから逃げた冒険者の烙印を押されていた。ちやほやしていた奴らは離れ、またもオレは見下される日々に逆戻りした。
失意のオレは逃げるように王都を離れ、気づけばダンジョンをさまよっていた。だが神はオレを見捨てていなかったらしい。ダンジョンの深部で、ダンジョンコアを見つけ、手に入れたのだから。
ダンジョンマスター。魔力と引き換えに、あらゆることが可能になるというダンジョンの主。その力を持ってすれば、ダンジョンはおろか、より大きなモノを手に入れることだって可能だ。
王に匹敵する力を手に入れたのだ!
オレを嘲り、見下してきた奴らを遙かに凌駕する力を手に入れた。これまでの不幸を払いのけ、世界への仕返しさえ夢ではない!
世界はオレの前にひれ伏し、崇め奉らなければならない。それがオレの復讐だ。
そのためには、オレの汚点を消さなくてならない。
古代竜討伐の際、オレを見ていた奴をまず消さなくては。上位ランク冒険者たち。ああ、そしてそいつらが他の冒険者にオレの話をしていただろうから、冒険者ギルドでまとめて始末しないといけないな。……まてまて、確か王都の住民の中でも知っている奴がいるのではないか?
なんてことだ! 王都もまた滅ぼさなくてはならないか!
かくて、オレはダンジョンコアを使い、大空洞ダンジョンを掌握。古代竜討伐に参加したAランク冒険者たちを血祭りにあげた。顔見知りもいたが良心は痛まなかった。こいつらがオレのために何かしてくれた覚えもないしな。
古代竜討伐に参加した冒険者を始末するついでに冒険者ギルドにも一撃を与えた。残念ながら邪魔が入ってしまったが、炎の魔獣を使役し、編成した軍勢を王都に差し向ける二段構えの作戦を立てていた。
まとめて王都もろともまとめて始末する、はずだった……。
だが誤算があった。
何だかよくわからないうちに、魔獣軍団が壊滅させられてしまったのだ。正体不明の空飛ぶ機械魔獣の襲撃。
しかし、ダンジョンコアがある限り、魔獣は揃う。
ここは地下百階層を誇る大空洞ダンジョンである。その深部にいる限り、外部から邪魔が入るとこともなく、軍団を再建できる――
だがまたしても、予想外のことが起こる。
ダンジョンコア『グラナテ』が、緊急事態を告げる。
『警告! ダンジョン上層で侵食を確認。テリトリーが減少しつつあり!』
「なんだと!?」
どういうことだ!? 何が起こったかよくわからないオレに、グラナテは説明した。
何者かがダンジョンをテリトリー化しつつあり、大空洞ダンジョンの支配権を奪おうとしている、と。
そんなことが可能なのか? オレは疑問に思ったが、今はそれどころではない。
「阻止しろ、グラナテ!」
『防衛行動……阻害不可能。敵の投入魔力に押され、侵食を阻止できません』
ダンジョンコアの魔力を上回る力で押している、だと……!? 信じられない!
紅玉のコアは、魔法によるダンジョンの全体図を表示した。
上層から、ドミノ倒しのように各階層の床の一部が消滅し、穴が開いていく。まるで巨大なネジがダンジョンに食い込んでいくかのように。
「いったい、何なんだこれは!?」
・ ・ ・
さて、シャッハの奴は今頃、泡を食ってるだろうか?
大空洞ダンジョン第一階層。俺はDCロッドとサフィロの力を使って、大空洞のテリトリー化を行った。
だが当然ながら、このダンジョンはすでにシャッハの保持するダンジョンコアのテリトリーである。
テリトリー化を試みれば、すでにテリトリー化しているコアの魔力と衝突することになる。そこで俺が用いたのはシンプルな策だ。
ひとつのコアで足りないなら、二つのコアを使えばいい。
1+1は2という子供にでもわかる話だ。数の暴力という名の力押しである。
そうやって無理矢理テリトリー化したエリアを、素早く俺は『除去』する。
結果、ダンジョンの床が消滅し、下の階層とつながる。今度はその階層の床をテリトリー化し、これも除去。
それが大空洞ダンジョンに穴を開けたトリックである。
第一部登場キャラクター紹介を、第二部前、ベルさんのおまけ話の後に掲載しました。




