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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第459話、大空洞ダンジョンの変異


 ウィリディスに全機が帰還した。

 地上で待機していたリーレは、俺たちが魔獣集団を掃除してしまったことに不満げだった。


「なんだよ、せっかく出番があるかと待ってたのよ」


 航空攻撃が不十分だった場合、再度、補給して反復攻撃を仕掛けるつもりだったが、一応、地上戦力も待機はさせていた。


 リーレやダスカ氏、サキリス、SS兵ら歩兵部隊にヴィジランティ中隊だ。頭数にすると一〇〇名にも満たないのだが、近接戦を避け距離をとれば、ある程度、炎の魔獣たちに対抗できると思っていた。


「文句言うなよ」


 ドラケン・カスタムのコクピットから降りたベルさんが言えば、リーレは口を尖らせる。


「そりゃベルさんは、戦場で暴れたからいいんだろうけどさ」

「まだ終わっちゃいないさ、そうだろ、ジン?」


 ベルさんが俺にふった。


「そうだな。むしろ今回の出撃は前座。これからが本番だ」


 正直に言えば、地上戦力をこっちで投入しなくて済んだのは温存という意味ではよかった。


「シャッハにお礼参りしないといけないからね」


 正直、頭の痛い問題ではあるが。何せ、シャッハは、どこで手に入れたかダンジョンコアを所有している。今回の炎の魔獣集団の進撃も、ダンジョンコアを持っていればこそだ。

 同じ事を二度、三度もやられたら、正直洒落にもならない。


 ああ、本当に面倒しかない。俺は毒づくのを心の内だけに留めた。



  ・  ・  ・



 ウィリディス屋敷三階の会議室。一度状況を整理しようとしていたところにエマン王がやってきた。


「お義父(とう)さん!」

「ご苦労だったな、ジン。第一報は使いの者から聞いた。スタンピードは阻止したのだな?」

「はい。現状確認されていた魔獣の集団はすべて撃退しました」

「大変結構。さすがは賢者」


 その呼び方はしっくりこないな、と思いつつ俺は首をひねる。


「わざわざ、こちらに来なくても私のほうで伺いましたが」

「戦いから戻ってきた戦士を労うのも王の務めだよ。それに、ここは私も気軽に歩き回れるからな。他に聞かせたくない話もできよう」

「仰せのままに」


 公式の場だったら、膝を突くか頭を下げてでなければ国王と言葉を交わすことはできない。ここは俺の家だ、というのも差し置いても、肩身の狭い思いをしないで済むのはありがたいことだとつくづく思う。


「大空洞からの敵は防ぎ止めましたが、今は斥候(せっこう)を放ち、多方面からの攻撃がないか探らせています」

「お前が言っていた、別働隊というやつだな。まだしばらくは王都も警戒を続ける必要があるか」

「念には念を、というやつですね」


 そこへ開いている扉を軽くノックして、シェイプシフターメイド――緑髪のヴェルデが入ってきた。


「失礼します、マスター。冒険者ギルドよりヴォード様が見えられました」


 ギルマスがここへ? 俺が眉をひそめると、エマン王が俺を見た。


「ここに呼んだのか?」

「いえ、特に呼んでないのですが、おそらくギルドの被害報告か、今回の首謀者への報復行動についての話し合いに来たのではないかと」

「なるほど。……私も同席していいかな?」

「そうですね。今後の話し合いをするなら、どのみち、お義父さんの耳にも入れることになるでしょうし」


 お通しして、と俺は、メイドに伝える。一度下がったヴェルデは、すぐにヴォード氏を連れてきた。

 ギルドのことで怒りが収まらないのか険しい顔でやってきたヴォード氏は、エマン王の姿を認め、膝を付いた。


「国王陛下!」

「うむ、冒険者ギルドの竜殺し、ヴォード。久しいな」

「はっ」

「冒険者ギルドでの騒動はジンより聞いた。ギルドの状況はどうなっているか、聞かせてもらえるかな?」

「もちろんです、陛下」


 俺は、二人にそれぞれ椅子を勧め、ヴェルデに飲み物を手配するよう伝えた。そして休憩中だろうベルさんと、ダスカ氏を会議室に呼んだ。


 ヴォードが恐縮しながらエマン王にギルドの現状を報告していると、黒猫とマスターの称号を持つ魔術師が到着した。


「――ギルドでは、シャッハ討伐のために戦力を集めています」

「人は集まりそうか?」

「王都にいる中堅以上の冒険者はほぼすべてが参加します。下級の冒険者は若い奴らが中心に志願しておりますが、正直微妙なところです。それでなくても最近は上級冒険者の数が以前に比べて減りましたし」

「王都騎士団からも部隊を派遣すべきだろうか……。おお、ベルさん、ダスカ殿」

「ダスカ……? マスター・ダスカか!?」


 ヴォード氏が、ダスカ氏をみて、席を立った。そういえば、ここで会うのは初めてだっけ。さすがダスカ氏、地元の有名人だけあるな、と他人事の俺。

 一同が揃ったところで、会議が始まる。ヴォード氏が口火を切った。


「これはつい先ほど報告が来たのですが、ここ一週間ほどで、大空洞ダンジョンに行ったと思われる冒険者が、誰一人帰ってきていないということがわかりました」

「一人も?」


 それまた首をひねる事態だ。先のダンジョンスタンピード、正確にはシャッハの魔獣集団が、その大空洞から出てきたらしいとなると――


「やられた、と見るべきでしょうね。十中八九、大空洞は、シャッハが支配している。その……ジンが奴と話している時に言っていた、ダンジョンコアを持っているのが本当だとすれば」

「ダンジョンコアを保有!?」


 エマン王が驚いた。俺は頷く。


「ええ、ダンジョンマスターならば、あの手の魔獣集団を操ることも可能です」

「なるほど、シャッハとやらの反乱とスタンピードが結びつかなかったのだが、そういうことだったか」


 シャッハはおそらく大空洞ダンジョンに発生したコアを入手した。炎の魔獣集団を魔力を使って召喚し、それを王都に差し向けたのが今回のスタンピードだ。


「さすがに1千もの魔獣を召喚して使役していたとなると、相当な魔力を消費しているはず」


 俺の言葉に、ベルさんとダスカ氏は同意の頷きをした。


「すぐに先と同じようなスタンピード行動はとれないはずだ。だがダンジョンは魔力が集まりやすい場所でもある。時間を与えれば、シャッハは消費した魔力を回復させてしまう」

「だが、相手はそのダンジョンを操って、外部からの攻撃に備えている」


 ベルさんは、ぺろりと舌を覗かせた。


「ヴォードさんよ、確か、大空洞ダンジョンって、最深部まで踏破されてないんじゃなかったか?」

「ああ、それで間違いないよ、ベルさん。上層階は初心者向けのお優しいダンジョンだが、途中からモンスターの強さも跳ね上がるし、なにぶん深いダンジョンだ。最下層かはわからんが、かなり大きな空間があって炎の巨人がいるとかいう話もある」

「ちんたら時間をかけていられないのに、まともに攻略していったら何日かかるかわからないってか……」


 あーあ、とベルさんが嫌そうに首を振った。ダスカ氏も腕を組んだ。


「しかもダンジョンマスターが、侵入者を妨害しないはずもありませんからね。下手な要塞よりも攻めるのは困難です」


 視線が俺に集まる。ダスカ氏に始まり、ベルさん、ヴォード氏、エマン王も。

 まるで俺が解決策を口にするのを待っているかのように。俺は小さく嘆息した。


「いっそ穴を開けるか。ダンジョンに」

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