第458話、草原を炎に染めて
ウィリディスの地下格納庫から飛び出した戦闘機大隊にあって、先陣を切ったのは、トロヴァオン改とドラケン改の混成中隊だった。
いずれも機体に浮遊石を搭載した型で、他の機体に比べ速度に勝り、また航続距離も長い。
とくにドラケン改は、改造前よりミサイルや爆弾搭載数が倍増している。それにもかかわらず、むしろ足は速くなっていた。
俺はトロヴァオンのコクピットにあった。僚機にアーリィーとマルカス。さらに五番機にリアナが搭乗している。ベルさんのドラケン・カスタムとそれに従うドラケン改の小隊が第一陣である。
俺たち第一陣のあとに、改造前の通常型トロヴァオン、ドラケン、ファルケ戦闘機隊が第二陣として攻撃。第三陣にワスプⅡ攻撃機中隊、ワスプ戦闘ヘリ中隊が仕掛ける段取りだ。
攻撃順は機体の速度順であるが、一斉に攻撃をかけて戦場の空を狭くするのを避ける意味もある。ヘリはともかく、戦闘機隊が四方から突っ込んで、離脱時に味方機と衝突とか洒落にならない。
高高度偵察機ポイニクスが上空にあって、攻撃隊を誘導する。観測データは、搭載コピーコア間で送られ、魔獣集団の位置や陣形も俺たちのもとに届いている。
なお、ポイニクスは、覗き野郎がいないか戦場の一帯の監視の任務も与えている。シャッハが高みの見物をしていたり、あるいは野次馬がいないかなどだ。
もし、いた場合の地上班を誘導して、それらを遠ざけたり、望まないお客さんの場合は排除も考えている。……たとえば、どこぞの国の諜報員とかな。
どこまでも続く平原を低高度で飛ぶ第一陣15機の戦闘機。やがて俺の視界にも、赤々とした魔獣集団が見えてきた。
フレイムドラゴンに、ジャイアントセンチピード、ジャイアントスコーピオンなどの大型種。ドラゴンはもちろん、他の種もその表面は赤や紫と火属性系の特徴が見られる。
その周りには赤い毛並みの狼型、ギルドでも見かけた炎人が多数。さらに浮遊する球体――アイボール型の姿もあった。
「トロヴァオン・リーダーより各機へ。敵大型種にはミサイル。爆弾は敵の密集地点に落とせ」
『了解、トロヴァオン・リーダー』
「敵集団の右側から攻撃を仕掛ける。ドラケン・リーダー。トロヴァオンは敵集団の前を叩く。そっちは後ろの連中から頼む」
『りょーかい! ドラケン、オレ様に続け!』
ベルさんのドラケン・カスタムとドラケン改が、俺から見て左方向へ機首を巡らし展開する。俺には7機のトロヴァオンが続く。
「トロヴァオン第一小隊は先行する。第二小隊は、追い打ちよろしく!」
『了解、トロヴァオン・リーダー』
リアナの五番機、SSパイロットの六番機、七番機が控える。
兵裝、誘導弾。コピーコアによるロックオン。まずは比較的身体が大きく狙いやすいフレイムドラゴンから。
操縦桿の発射ボタンを押し込む。トロヴァオンの胴体下ミサイルベイから、空対地誘導弾が発射される。
AGM-Ⅰ――この対魔獣用ミサイルというべき空対地弾は、ワイバーンをも仕留めるAAM-Ⅰと同等の破壊力がある。トカゲの延長であるフレイムドラゴンなら直撃すれば撃破できるだろう。
僚機も次々にミサイルを放った。ロケットによって火を噴きながら飛ぶAGM-Ⅰはあっという間に魔獣集団に飛び込む。
狙われたフレイムドラゴンが反応して首を巡らしたが、できるのはそこまでだった。AGM-Ⅰが鱗と厚い肉を貫通し、爆発した。
内側から持ち上がる力によってその身体を引き裂かれたドラゴンが、衝撃波と肉片を撒き散らす。
魔獣たちが一斉に咆える中、俺たちトロヴァオンが飛び抜ける。そしてすれ違いざまに、今度は対地爆弾を投下する。
誘導機能を持たない爆弾は、集団の中に落下するとその力を解放して、周囲の魔獣たちに襲いかかった。
正直にいえば誘導できない自由落下型の爆弾を、高速で投下しても狙った場所に当てるのはよほどの腕前がなければ難しい。さらに高度を高く取って投下した場合は、命中率はさらに低くなる。
が、俺たちが運んできた無誘導爆弾は、広範囲を吹き飛ばすエクスプロード弾であり、もとは敵部隊の中に放り込んでまとめて吹き飛ばすために作られた。つまり、ある程度の範囲内に適当に放り込むことを前提に作られているのだ。
いわゆる数を揃えるためにコストを抑えた結果である。
だが威力は、内蔵魔石の魔力すべてを投じたエクスプロードの発動により強烈な爆発が周囲を飲み込み、そしてなぎ倒す。
アイボール、狼型が紅蓮の炎に飲み込まれる。炎人は、爆発の中心にいた個体は吹き飛んだが、比較的爆発の外にいた者は倒れる態度で被害はないようだった。
先行する第一小隊に続き、第二小隊も突入。ミサイルと爆弾を使ってさらなる出血を強いる。
敵集団の後方もいくつもの火球が生まれ、飛び抜けるドラケンの姿が見える。
一撃離脱。第一撃の戦果を見るべく、一度距離を取る。
「トロヴァオン・リーダーより、ポイニクス。今のでどれくらいの敵が減った?」
『こちらポイニクス。大型十五体を含む一〇〇体以上を巻き込み撃破した模様』
観測任務中のポイニクスよりの報告。ほっ、と魔力通信機からベルさんの声がした。
『今ので十分の一削ったってか? こりゃオレ様たちだけで半分くらいやれるんじゃね?』
「だといいんだがな……」
トロヴァオンのコクピットから地上の敵集団を見やる。先ほどまでの集団が、ばらけ始めている。エクスプロード爆弾での範囲攻撃も、初撃に比べると効果が薄くなるだろう。
『ポイニクスより攻撃隊へ。先の戦果報告に誤りあり。撃破判定はおよそ七〇』
戦果が下方修正された。やはり爆発範囲の中にあって、外側にいた個体の被害が少なかったようだ。
『どういうこと?』
アーリィーの声。俺は答えた。
「敵は火属性持ちだからな。爆心地に近い奴は衝撃波で倒せても、離れた奴には効果が低かったってことだろう」
要するに相性が悪い。とはいえ、倒せない敵ではない。
「トロヴァオン・リーダーより各機、反復攻撃だ。第二陣以降のために、減らせるだけ敵を減らせ!」
機体を翻し、俺は再び敵魔獣集団への爆撃コースを取る。魔獣たちが威嚇の声をあげているようで、口を開けてこちらを睨んでいる。だが当然ながら聞こえない。
対空能力のない地上戦力など、航空機の敵ではないな。
聞こえない咆哮のお返しに、ミサイルと爆弾をプレゼントする。地上に紅蓮の炎が渦巻いて、真っ赤な華が咲く。
地上に具現化した嵐に巻き込まれ、吹き飛び、または焼き尽くされる獣たち。肉が飛び散り、元の姿がわからないほどバラバラになる。
まったく、航空攻撃に一方的に蹂躙される魔獣という光景も珍しいが、あの場所にいたくないものだな。
俺たち第一陣が対地兵裝を撃ち尽くし離脱した後、通常型トロヴァオン、ドラケン、ファルケ中隊らの第二陣が突入し、地上の魔獣どもを狩り立てた。
三分の二ほどがこの世から消滅した頃、ワスプ隊が到着した。地上を這うように高速で進むワスプⅡ部隊が満載してきた対地ロケット弾を撃ち込み、30ミリ機関砲で地上を掃射する。
ワスプⅠ戦闘ヘリ部隊も、やや離れた場所でホバリング飛行しながら、こちらも対地ロケットやミサイルで、炎の魔獣の屍を量産していった。
結論から言えば、用意した対地爆弾やミサイルで魔獣集団を全滅させることはできなかった。爆発に比較的耐性のある魔獣が相手だったという相性の問題と、大ムカデにロケット弾が通用しなかったことも影響している。まあミサイルは効いたのだが。
残敵については機関砲で掃射できるレベルであり、事実そうなった。
この戦いにおけるウィリディス側の被害は0。やはり魔獣側に対空用の攻撃手段がなかったのが原因であり、一方的な戦闘となった。
シャッハの送り出した魔獣集団は全滅。そのためにこちらが消費した主な対地兵裝は、ミサイル164発、無誘導爆弾164発、対地ロケット弾304発であった。
※ドラケンの表記について。ベルさんのカスタム仕様と、浮遊石搭載型ドラケンは別の型であります(念のため)。




