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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第457話、トルネード航空団、出撃


 冒険者ギルドのことはヴォード氏ら冒険者たちに任せるとして、俺はウィリディスに帰還した。

 ウィリディス屋敷の三階、会議室に俺が到着すると、主な面々が集まっていた。アーリィーが不安げな声で言う。


「ギルドのほうは大丈夫?」

「相応の被害を受けたが、残っている冒険者たちの士気は高いよ。シャッハに復讐したくてうずうずしている」


 淡々と、特に感情を込めずに俺は答えた。腕を失ったナギや、戦友を亡くした冒険者たちの姿を見ているから、静かに怒りをため込んでいる。


「報告します」


 シェイプシフターの魔女スフェラが背筋を伸ばした。


「王都駐留の監視部隊が、目標を見失いました」

「オブザーバーの追跡は失敗か」

「転移石を用いた空間跳躍を用いたため、それ以上の追跡は不可能でした」


 だろうな。シェイプシフターを振り切るなんて、そう簡単じゃない。


「では次の報告を」

『偵察装備を装備したトロヴァオン、ドラケンからの報告です』


 ダンジョンコア『サフィロ』の声が会議室に響く。


『大空洞ダンジョンから王都へ向けて進撃する魔獣の集団を確認しました。その数、およそ1千』


 へぇ、とベルさんが口を開いた。


「スタンピードって言うから、もっとすげぇ数かと思ったが案外たいしたことないな。オーク軍の時は、その一〇倍くらいいたんじゃね?」

「いや、ベルさん、四桁でも十分多いから」


 アーリィーが苦笑すれば、マルカスも頷いた。


「感覚が麻痺してませんか、ベルさん」


 周りに緩んだ空気が漂い出すが、俺はサフィロに言った。


「敵集団の内容は?」

『大小混成集団です。大型個体はドラゴン種、大ムカデ種、大サソリ種を確認。小型は狼種、亜人種、ほか浮遊型を観測。いずれも火属性を持ち、計算上の戦力は同数の人間の軍隊に換算して、およそ5倍から7倍に相当します』


 つまり、人間の軍隊で見るなら5千から7千程度の戦力を持つ敵ということだ。これにはベルさんも違う意味で苦い笑いを浮かべた。


「前言撤回だな。オークどもよりヤバいんじゃないか」


 ダスカ氏が口を開いた。


「ドラゴン種がいると言いましたが、どういったドラゴンでしょうか?」


 上はエンシェントドラゴンみたいな特S級、下はフロストドラゴンみたいな竜の皮を被ったトカゲまで幅広いのだ。


『サイズからしてフロストドラゴンの亜種、火属性を持つフレイムドラゴンと推測します』

「よかった。上位ドラゴンではなくて」


 ホッとするダスカ氏だが、周囲の表情は硬い。アーリィーが首をかしげた。


「戦力が人間と比較して5倍から7倍って言うのはどういうことだろう?」

「個体の差もあるが、おそらく火属性だらけということも関係していると思う」


 俺に続き、リーレが口を開いた。


「たぶん、くそ暑いだろうな。人間の軍隊が普通に戦おうとしたら、まず暑さにやられちまうんじゃねーかな」

「山火事に飛び込むようなもの、ということですか」

「ダスカ爺さん、いいたとえ!」


 リーレが指さして笑みをこぼした。爺さんって、まあ、55なんてこの世界じゃ老人の範囲なんだろうけど、俺としてはまだ十分若いって認識なんだけどねぇ。


「火属性魔獣の相乗効果で戦場は灼熱地獄の一歩手前。普通に近接戦を挑めば、環境とも戦わなくてはならないか」


 それでいて敵さんは火属性だから、暑さでもピンピンしていると。


「どうするよ、ジン?」


 ベルさんが視線をよこした。


 俺が行って、光の掃射魔法でなぎ払うのが一番簡単なんだけどな。ただ、シャッハの言葉で、とあるダンジョンでスタンピード、というのが引っかかる。大空洞ダンジョンからスタンピードが確認されたが、もし他にもあったら、軽々しく切り札を使うのは悪手だろう。


 そうなると、ウィリディスの主力をぶつけるしかないわけだ。大帝国に向けて準備していた戦力、蓄えつつあった弾薬を使って。


 まあ、本番に向けての予行演習だと思って、今回の消費には目をつぶるしかあるまい。戦訓が得られる機会は貴重だ。


「王国軍に動員をかけて戦ったとしても、個体差から大きな犠牲は免れない。下手したら王都まで攻め込まれるかもしれないし、そうなってからだとこっちもやりにくい。そうであるなら、先手をとって、ウィリディスから攻撃を仕掛ける」


 トルネード航空団、出撃だ!



  ・  ・  ・



 ウィリディス格納庫では、トルネード航空団に全力出撃がかかり、その準備が慌ただしく行われた。

 トロヴァオン、ドラケン、ファルケ各中隊の戦闘機大隊のほか、ワスプⅠ戦闘ヘリ中隊、新鋭のワスプⅡ地上攻撃機中隊も、対地兵装を満載する。


 戦場観測にポイニクスがすでにSSパイロットの操縦によって飛び立っている。偵察機には敵集団の位置や動きを、随時(ずいじ)知らせるという役割がある。


 俺は、白亜屋敷に赴き、エマン王に事態の報告をする。相変わらず、こっちはもう行動を始めているが、さすがに王都に危機が迫っているのに話を通さないわけにはいかない。


「元冒険者の反乱、とでも言うのか?」

「動機については不明ですが、冒険者ギルドは襲撃され、いま王都に向けて炎の魔獣集団が進撃しつつあります」


 フムン、とエマン王は机に肘をついた。


「炎の魔獣集団……」

「こちらの推定ですが、数は1千ほどですが、戦力計算ではその5倍から7倍の規模の兵力に相当します」

「それだけの兵を緊急動員するのは無理だ」

「はい、閣下」


 何だか癖になってるな、部下みたいに振る舞うのが。


「王都の騎士団や兵、さらに王都から徴兵しても3千ほど集まれば御の字でしょうな」

「魔獣相手に素人がどこまで役に立つ?」

「立たないでしょうね、特に相手が火属性魔獣では」


 魔獣というだけで怖いのに、火の中に突っ込めと言われれば、訓練された兵だって怖じけづくのが普通だ。


「そこで、対大帝国戦に向けて準備していたウィリディスの戦力を投入します。王都から離れている現状なら、目撃者も極わずか。むしろやるなら今をおいて他にないかと」

「大帝国にお前の用意している戦力について悟られるのはまずい」


 エマン王は眉をひそめ、視線を窓の外に向けた。冬のウィリディスの景色が見えた。


「この国を守るための大事な戦力、いや切り札だ。噂になるのもよくない」

「承知しています。しかし、現状、ジン・アミウールの影を気取られるのがもっとよろしくないと考えます」


 ジン・アミウールは死んだ。大帝国には衝突までそう思い込んでもらわなくては。

 俺の生存を知っているといないとでは、連中の投入兵力の数や対策も大きく異なる。好き好んでハードモードで戦うつもりはないのだ。


「私にできることは? いや、やらなくてはならないことは、と言い直すべきかな、ジン」

「王都に警戒態勢を取らせることでしょうか」


 俺は静かに告げた。


「王都の守備隊に犠牲を強いるような戦いはするつもりはありませんが、我々が敵集団を相手している間に別働の攻撃があった場合、すぐに救援には行けない可能性があります」


 いまは目の前の敵に全戦力を投じる。数の問題ゆえ、他に問題が起きても対処ができない。そのときは、自力で火の粉を払うなり時間稼ぎをしてもらわなくてならない。


「あいわかった」


 エマン王は頷いた。

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