第456話、王都冒険者ギルド、壊滅す?
冒険者ギルド襲撃事件。犯人はAランク冒険者のシャッハ。
何故このような凶行に及んだかは不明。だが俺も含めて、一部の冒険者に殺意を抱いているのは明白だった。
例のエンシェントドラゴンのいたダンジョンの件。それ以外に俺は彼との接点がなく、先に殺された三人との共通点は今のところそこしかない。
エルフの里でもらった精霊の秘薬により、すでに死んでいた冒険者以外は一命を取り留めた。
死亡15名。すべて冒険者だった。最初の爆発が、彼らのそばだったことも大きい。なお怪我人は死亡者のほぼ倍。
ギルドスタッフは数人の怪我人がいたものの、秘薬を使うまでもない程度で済んだ。解体部門はフロアの爆発から離れており、また避難も迅速だったため被害はなかった。だが受付嬢やフロア勤務者は精神的なショックが大きかったようだった。
「ジン、ありがとう。お前がいてくれたおかげで、ルティが死なずに済んだ」
ヴォード氏がその巨体を傾け、俺に頭を下げた。いや、気にしなくても……なんて言えないわな。何せ一人娘の命がかかっていたのだから、無理もない。
「おれは不甲斐ない。ルティを守ることさえできなかった……」
「最初からいたわけじゃないから仕方がありませんよ」
ウィリディスにいる間に騒動があって人質をとられたのだ。はじめからその場にヴォード氏がいれば展開もまた変わっていたはずだ。
「そうだとしてもだ。肝心な時にそばにいられなかったことが、悔やんでも悔やみきれんのだ」
「この借りは、シャッハに返してやりましょう」
「当然だ」
屈辱を怒りに変えて、前を向いてもらうしかないだろうな、今は。
ラスィアさんが無事なギルド職員と、新たにギルドにやってきた冒険者たちに指示を出し現場をコントロールしている。
「借りと言えば、お前にも返さないといけないな」
ヴォード氏が言った。
「あの駆けつけてくれた医者たち――」
「衛生兵です。専門の医者ではなく、あくまで包帯を巻いたり、薬を使う程度の」
「使った薬の代金は、あとで知らせてくれ。ギルドで補填する。冒険者やギルドの救援、感謝する」
「薬代については請求するつもりはありません」
「いいのか? 魔法薬といえばそれなりに高額だろう。あれだけの効き目だ。代金を請求しないとお前のところが大損だぞ」
「……請求額を聞いたら、ギルドが潰れるかもしれませんがよろしいですか?」
俺は他人事のように言った。訝るヴォード氏は首をひねる。
「そんな高価な薬なのか、あれは?」
「ガルフのお袋さんを救ったアレは覚えてますね?」
狐につままれたような顔をするヴォード氏。心当たりはあるはずだ。
「まさか――」
「クローガが言ってましたね。ウン十万する代物だって。さっき確認したら二一本が使われたそうです」
相当な額ですがよろしいか? 暗にそう目で伝えたら、ヴォード氏はぶるりと身震いした。
「この件は、保留だな」
「それが賢明だと思います」
「……あの秘薬を二一本も」
それだけ今回の被害がやばかったってことだ。ただの傷ではない。重度の火傷となると治癒魔法でも難儀するのだ。
「そんなに秘薬を持っているお前たちが恐ろしい」
そっちですか。俺は肩をすくめる。視線は、そのエルフの秘薬で助かった冒険者たちに向けられる。
「でも、いかに精霊の秘薬を以ってしても治せないものもあります」
「あぁ。そうだな」
ヴォード氏も重苦しいため息をついた。
シャッハの爆発魔法や炎人による重傷者には、アインホルンのメンバーをはじめ、ルティとパーティーを組んでるルングなどもいた。ルングやアンフィは火傷が主で、精霊の秘薬で完全回復できた。あの悪ガキじみた少年冒険者は、誠に強運だ。
一方、アインホルンの刀使い、ナギは一命を取り留めたが、代償が大きかった。
精霊の秘薬二度目の使用者にして彼女もまた強運であるが、利き腕である右腕を失ったのだ。
シャッハに斬りかかったナギは、奴の召喚した炎人の不意打ちを受け、その右腕を包まれ焼き溶かされてしまった。切り離されてしまった部位が残っていれば、まだ再生の見込みがあったのだが、溶かされてしまってはどうしようもない。
剣士にとって、利き腕を失うということがどれほどの痛手か。そのナギも、助かったという表情ではなく、今にも死にそうなほど沈んでいた。剣士としては実質、死亡したと同義だからだ。
そのナギにアンフィが何事か話している。次第にナギの目に光るものが見えはじめ、ついにはアンフィの胸に飛び込んで泣いた。慟哭がフロアに響き渡る。
「あああぁぁぁ――!」
「悔しいね。……悔しいよ、ナギ」
かけがえのない戦友を優しく抱きしめながら、アンフィの目にも光るものがあった。
「つらいな」
ぽつり、とヴォード氏が言葉を漏らした。
これが冒険者だ。その仕事は極めて危険であり、引退までに五体満足でいられる保障はない。
未熟な者は、数回の依頼のうちに命を落とし、熟練者もひとつの油断や相手によっては身体の一部を失うこともある。
頭ではわかっている。覚悟していると皆言う。だがそれが実際に身に降りかかったとき、その代償の大きさに打ちのめされる。
「ヴォードさん」
声をかけられた。見れば、Aランク冒険者のクローガと、武術大会で決勝に進出した冒険者であるガルフ――悪魔に取り憑かれていた少年剣士がやってきた。
「この惨状は……」
「ラスィアに話は聞いたか?」
「ええ。行方不明だったシャッハがやったらしいですね」
クローガが眉をひそめれば、隣にいたガルフが、俺にぺこりと頭を下げた。以前に比べて顔色よくなったんじゃないかな、ガルフ君。
彼は母親を俺が所有していた精霊の秘薬で救われたことがあり、敬いの視線をよこす。
「ギルドが襲われた理由は何です?」
「さあね。理由はわからない。ただ昨日までに殺された三人を含めて、古代竜騒動に関係した冒険者を優先的に狙っていたように思える」
俺が言えば、ガルフは目を見開いた。
「じゃあ、オレやクローガさんも、標的だった……?」
「可能性はある」
「それで、ギルドの対応は?」
クローガが今後の話を振ってくる。ギルマスであるヴォード氏は頷いた。
「もちろん、シャッハをこのままにしておけない。仲間たちを傷つけ、ギルドを破壊した奴は、冒険者うんぬんは関係なく、討たねばならん!」
殺された冒険者たち。身体の一部を失った者やその仲間たち。彼、彼女らは、この惨事を引き起こした元Aランク冒険者への復仇に燃えている。
「そうでなければ、腹の虫がおさまらん!」
同意するように頷くクローガとガルフ。
俺はそんな冒険者たちを横目に見つつ、考えにふける。
シャッハは去り際に言っていた。
オレの城、大空洞ダンジョン、と。そしてとあるダンジョンでスタンピードが起きているとも。
まるで大空洞ダンジョン以外からダンジョンスタンピードが起きているみたいな言い方しやがった。かく乱か、単に間違えたのか。本当に別ダンジョンからか。面倒な言い回ししたな、あいつは。
恨めしく思いつつ、俺は衛生兵らを帰すと共に、ウィリディスから飛び立った偵察部隊の報告を待つのだった。




