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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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457/1946

第455話、復活のシャッハ


「二度は言わんぞ、ドラゴンスレイヤー。娘の顔に二度と治らない傷がつくぞ」


 シャッハが低い声で言えば、傍らの炎人が小さな火を足下に落とした。

 悲鳴が上がった。ルティがその場で倒れ、足蹴にされていたのだ。鎧をまとっているが、炎が直に触れているのだから、もうその背中は火傷では済まないほどの状態ではないか。


「やめろ! ルティから離れろ!」

「だったら剣を捨てろ、ヴォード!」


 シャッハが怒鳴った。


 ルティは人質か。フロア手前の通路から様子を見る俺はそう判断した。なるほど、ヴォード氏が外道と叫んだのはこのことか。娘を人質にされればそうも言いたくなる。


 よく見れば、他の炎人の足下にも同様に火傷などで負傷した冒険者が倒れている。何人か、まだ息があるようだ。複数人を同時に人質に取られている。それでギルマスは動けなくなったんだな。 


 まあいい。この騒動の原因をシャッハとみて、まず奴の配下である炎人どもを無力化しよう。


 俺は目を閉じ、フロア全体の魔力に気を伸ばす。……炎人は一〇体。む? この魔力の色は――いや、今は人質救出が最優先! 行けっ!


 俺は魔力を炎人一〇体すべてに流し込み、同時に暴走させた。次の瞬間、炎人すべてが内側から弾けて吹き飛んだ。


「な――!?」


 シャッハ、そしてヴォード氏も驚愕する。だがヴォード氏はその隙を突くように前に出ようとする。


「おっと! 動くなよ、ヴォード!」


 しかしシャッハのほうが速く、大剣を倒れているルティに向けた。


「それ以上近づいたら、娘を刺すぞ――オオオっ!?」


 シャッハの身体が見えないハンマーに殴られたように吹っ飛んだ。DCロッドを床に刺した次の瞬間、俺がブロック状の魔力の塊を奴にぶつけてやったのだ。

 壁に叩きつけられ、シャッハのマントがはためく。しっかり鎧は着込んでいた。


「な、何だ!?」


 驚くシャッハに向かって、俺はエアブーツで加速し、拳に魔力の塊を集める。銀髪の冒険者はそれに気づく。


「くっ……!」


 俺の拳から放たれた魔力の塊を、ジャンプでかわすシャッハ。風の魔法か、跳躍系の魔法で常人離れした高さと距離を稼ぎ、着地する。


「ジン・トキトモォ……!」

「久しぶりだね、シャッハ」


 以前と違い、今ではランクでは逆転している俺とシャッハである。


「お前のことを探していたんだぜェ、ジン・トキトモ……」


 シャッハは鬼気迫る壮絶な笑みを浮かべる。


「お前にも世話になったからな。探す手間が省けた。とんで火に()るなんとやら、だぜ」

「なるほど、どうやら君は俺も殺すつもりだったようだな」

「そういうことだ、死ねェ!」


 シャッハが叫んだ。……だが、何も起こらない。


「何だ、どういうことだ!?」

「……ちなみに、シャッハ。もう君の眷属は出てこないよ」


 俺の後ろから炎人を呼び出して不意を突くつもりだったんだろうけど。


「もうここは君のテリトリーじゃないんだ」


 俺はストレージから聖剣ヒルドを出す。本来使いたくないこれを引っ張り出す理由、それは最大級の『敵』が相手だと認識する故だ。


「そこで質問だ、シャッハ。君は、ダンジョンコアをどこで手に入れた?」


 炎人をまとめて倒そうとした時に感じた魔力の気配。ギルドフロア全体がダンジョンコアのテリトリー化しているのを俺は見た。炎人が突然現れるからくりはそれだ。だから俺はDCロッドを床に刺して無理矢理テリトリーを中和したのだ。


「!?」


 驚愕するシャッハ。だがそのわずかな間をついて、俺は瞬時に距離を詰め、ヒルドを振り下ろす。シャッハはカエルのようにとっさに跳び、ギリギリで回避した。


「何だよ、やっぱお前、底が見えないなぁ。タネがばれちまったのなら、しょうが、ない!」


 俺の肉薄した再度の一撃を避けるシャッハ。


「かー! 少しは話させろよ、短気な奴め。ここは分が悪そうだから、引き上げる、ゼ!」


 爆轟(デトネイション)


 爆発が起きる。音速を超えた衝撃波があたり一面を吹き飛ばす。小規模だったが、魔法障壁を張らなければ俺もやられていた。シャッハとの間に距離ができてしまう。


「どこで、って質問だったな? だったらオレの城である大空洞ダンジョンの最深部に来るんだな」


 大空洞ダンジョン……! あのダンジョンにコアがあったというのか。俺はシャッハの言葉からそう推測する。


「とはいえ、そこまで来ることができるかなァ? そうそう、今、とあるダンジョンでスタンピードが起きてるんだゼ! 早く何とかしないと、この王都も危ないかもねぇ。ハッハッハ!」


 再びデトネイションの魔法を使うと、爆炎を囮にして、シャッハは姿を消していた。俺は魔力念話を、ギルド近辺に待機させているシェイプシフターに飛ばした。


『オブザーバー、聞こえるか?』

『聞こえてます』

『いま冒険者ギルドから逃走した魔術師風の冒険者を追跡しろ!』

『了解』


 王都の要所に配置している見張り専門部隊。ただ見守るだけだから傍観者(オブザーバー)。命令しない限り、観察が任務である。この手の観測要員を王都の要所に配置しているのだ。


 冒険者ギルドの正面入り口が綺麗に吹き飛んでいた。大きな穴が開いていて、野次馬の姿がちらほら。俺はそれらを無視して、ヴォード氏らの安否を確認しようと振り返る。

  

 と、そこへ複数の足音が通路から聞こえた。ベルさんとリーレ、リアナにエリサ、そしてシェイプシフター兵らが到着したのだ。


「敵は!?」


 開口一番、リーレが問うたが、「もう逃げたよ」と俺は答えた。


「負傷者の手当てだ。急げ!」


 シェイプシフター兵、特に救急キットを抱えた衛生兵たちがフロア内に散る。俺はSS兵の分隊長を呼ぶと、入り口を封鎖するように命じた。野次馬たちに作業が中断されるのは面倒だ。


 ヴォード氏の膝の上に、ルティがうつ伏せで倒れ込んでいた。背中が酷く焼けている。ルティの声は弱々しく、火傷が深いのか今にも死にそうだ。


「ルティ……」

「親父ぃ……そんな死にそうに見えんのかあたしは。……感覚がなくて、よくわかんねぇ……んだけど」


 はいはい、そんな暇があったら、さっさと治療する。

 とはいえ、俺に火傷治療の深い知識があるわけではない。重度の火傷の場合、治癒魔法も効果がないくらいは知っている。そうであるなら、もはや精霊の秘薬しかあるまい。


「エリサ!」


 白衣の看護師が、二人の元に膝をつくと持ってきた革のバッグから秘薬の入った試験管のような瓶を取り出し、まずルティの火傷に振りかけた。


「んあ?」


 水がかかった感覚がわかったのだろうか? 感覚がないとか言っていたが、もう効果を発揮し始めているのかもしれない。エリサはルティの身体を横にすると、瓶に残る秘薬を口に流し込んだ。


「これでたぶん、大丈夫」

「たぶん?」


 ヴォード氏が言えば、エリサは「大丈夫よ」と答えた。SS衛生兵たちも、倒れている冒険者たちに手当てを施していく。


 ベルさんと、DCロッドを回収したリアナが俺のところにやってきた。


「何があったんだ? こいつはよ」

「色々よくないこと」


 俺は自分の顎を撫でた後、たっぷりとため息をついた。


「それも現在進行形でな」

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