第445話、マッドとダンジョン
聖騎士ルインの話をまとめるとこうなる。
ボスケ大森林地帯に実戦演習に行った三号魔法甲冑一個小隊と、随伴のマッドハンターは、そこで未知のダンジョンを発見する。
戦闘になりシュタール隊はマッドの援護のもと離脱に成功したが、当のマッドは魔法甲冑を損傷し、機体を捨てて脱出する羽目になった、ということだった。
損傷部位は脚部。さすがに歩けない、浮遊移動できないでは機体を捨てて脱出もやむを得ない。
シュタール隊員の訓練や魔法甲冑の動かし方など、マッドは教官として実によく仕事をしてくれた。
傭兵ということで、はじめは騎士の中には疎んじる向きもあったが、魔法甲冑を操る実力は本物であり、またその指導も熱心だったこともあり、今では師匠として尊敬を得ているのだとか。
そんな彼が、愛機を置いていかざるを得なかったことを受けて、騎士たちは何とかならないかとルインに相談。ルインもまた、マッドには恩義を感じていたから、機体の回収をしたいと上司に相談した。
だがそこでストップがかかったらしい。
『お前たち、魔法甲冑を動かすのに、いくら金がかかると思ってるんだ?』
使えばパーツは消耗する。満足に動かすためには点検は欠かせず、消耗が激しいパーツは交換する。ウィリディスの魔力生成と異なり、一からパーツの素材を集め、加工する手間、それに関係する人件費もそれなりのものである。
そこへきて実戦演習で機体を壊しました、とくれば、限られた予算でやりくりする魔法甲冑部門の責任者は、渋い顔をせざるを得ない。
何せ、生まれたばかりの新兵器であり、エマン王も期待しているから多めに資金を投じられているとはいえ、それも無尽蔵ではない。目下、機体の増産と、装備一式を揃えるのにお金がかかっているので、無駄な消費は慎むべき時である。
その上司の言葉を代弁するなら、『傭兵の機体を回収するために、シュタールを消耗させ、あまつさえ機体を失うリスクを冒すのは見過ごせない』ということだろう。
部下や自分も含め、世話になったマッドには何とか恩返しをしたいと思っているルインとしては、非常に心苦しい上司のストップ命令だった。
うん、話はわかった。
俺はルインの相談を受け、マッドの魔法甲冑回収を請け負うことにした。個人的に、同年代の異世界仲間ということもある。俺も存外甘いからね。
ということで、俺は、ルインから現地のわかる限りの情報をもらった後、マッドの機体回収に乗り出すための準備にかかった。
さっそく、当人であるマッドに会いに王都の魔法甲冑工房に行けば、エルフのガエア、ドワーフのノークも一緒だった。
「「師匠!」」
エルフとドワーフが俺を見て、気をつけの姿勢をとったので、休めの意味を込めて手を振ってやる。
「やあ、マッド」
「ジン、久しぶりだな」
短めに刈った黒髪の男。すらりとしながらも衣服の下は筋肉質で鍛えられていて、その動作に隙が少ない。
表情は淡々としていて、そのあたりはうちの軍人さんであるリアナに似ている。戦場で多くの死を見て、感情を削ぎ落としたような表情に、虚無的な目をしている。
「魔法甲冑を失ったと聞いた。回収に行くつもりなら、手伝うぞ」
「聖騎士殿があんたに相談しにいくと言っていた」
マッドは、まっすぐ俺を見る。
「いいのか?」
「最近ただ働きが多くてね。酒の一杯で勘弁してやる」
俺が軽く拳を突き出せば、マッドは一瞬それを見た後、無表情で同じく拳を突き出し軽く当てた。
「助かる」
「いいってことよ」
俺は肩をすくめた。ガエアが口を開いた。
「あ、あの師匠! 現地に行くなら、私もお供します!」
「え? なんで」
「魔法甲冑の脚が壊れているという話ですから、私がいけば応急修理くらいはできるかと……」
「心意気は買うが、現地についたらポータルを使って回収するから、その必要はないよ」
危険なダンジョンで修理などしなくても、安全なウィリディスですればいいさ。
というわけで、ウィリディスへ移動する。
マッドはここへ来るのは初めてだったな。まあ、彼は、ロボット兵器が跋扈する未来世界から来ているから、ヘリや戦闘機とそれを収容する格納庫くらいでは驚かないだろう。
……とか思っていたら、そこそこ驚かれた。
「ここだけ異世界だな」
「まあね。何もなければここまでする必要はなかったんだけどね」
「あんたをここまで駆り立てるものがある、と。……それは何だ?」
「大帝国の脅威さ」
「……なるほど」
地下格納庫の一角、パワードスーツやバトルゴーレム、すなわちヴィジランティが並ぶ中、机に置かれたのはウィリディス製の携帯武器。
「これからダンジョンに潜るから、必要かと思ったんだが、マッドの武器は――」
「携帯用の武器は、サンダーバレットとスタンスティック、それとナイフだ」
マッドは、机の上の武器に手を伸ばす。
ライトニングバレットの他、TM-1アサルトライフル、その改造型であるアサルトカービンや、リアナが使うDMR-M2マークスマンライフルを改良したTM-2ライフル、TSR-1スナイパーライフルなどが並べられている。
「ダンジョンだから、使うなら取り回しのいいライトニングバレットか、TM-1カービンがいいかな?」
「そうだな。消音器はあるか?」
「つけられるよ。銃声を気にしているのか?」
「獣は耳がいいだろ?」
「なるほどね」
隠密行動じゃないから、俺はあまり気にしないけどね。
手榴弾や閃光弾なども必要な分だけ持っていってもらう。俺自身は、ストレージがあるし、魔法で何とかなる。
「それで、メンバーは?」
マッドが聞いてきたので、俺は今回の同行メンバーを紹介した。
「ベルさん、リアナ、リーレ、エリサ、スフェラ」
「……」
よう、と黒猫。少女軍曹に、眼帯の女剣士。魔女スタイルの美女が二人。マッドは目だけで俺を見る。
「男は?」
「俺がいるだろう?」
あとベルさんも男だぞ。このメンツを見て、不安をおぼえたのだろうね。そういえば、マッドが直接知っている可能性があるのは、武術大会に出場していたリーレだけか?
「精鋭だぞ」
俺は付け加えてやった。




