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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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445/1940

第443話、夢の航空艦隊


 高度約1万2000メートル上空。浮遊群の中にあるスカイベース。


 その浮遊する巨大なジャガイモ、もとい岩石基地の司令塔に俺はいた。展望窓からは、古代文明時代の航空艦『アンバル』の姿がある。


 いま同艦の再生作業は順調に進んでいる。大気中の魔力を吸引、それを再生のための魔力として供給する装置を作って設置したことで、現在の復旧率はおよそ45パーセントといったところ。何もなければ、来月末には完全再生が完了する見込みである。


 こちらはシップコアであるアンバルにほぼお任せ状態であるが、そのあいだ、浮遊群にあった船の残骸を利用した航空艦再生計画が進められていた。

 司令塔会議室には、俺のほか、ベルさん、アーリィー、ダスカ氏とユナ、そしてリアナがいる。


「大帝国が空中艦隊を保有するならば、こちらは航空艦隊で対抗する」

「航空艦隊……!」


 ダスカ氏が目を見張った。アーリィーが息を呑む。


「それは一体……」

「巡洋艦アンバルを中心に浮遊石を搭載した艦艇による航空機動艦隊だ」


 俺はテーブルの上に、数枚の紙を広げた。


「これは帝都に潜入させたSS工作員がよこした、大帝国の空中艦隊、その艦艇の資料だ」


 シェイプシフター工作員からの敵情、その報告である。


 それによると、大帝国の空中艦隊は全長250メートルクラスのバトルシップ級、全長150メートルのクルーザー級に、80メートル級のコルベット級の三クラスを運用しているという。


 現在、戦艦12、巡洋艦110、コルベット60が就役し、そのうちの半数以上が連合国戦に投入されているという。


「全長250メートル……!」


 アーリィーが驚く横で、ユナが鷹揚な調子で言った。


「アンバルより大きいですね」

「まあね。情報によると、これらの空中艦も浮遊石を搭載している」


 大帝国も浮遊石を使っている。エルフでさえ持て余していたそれを利用し、軍事に取り入れているのだ。


 SS工作員が送ってきた敵艦の設計図面、飛行する写真を見やる。


 俺の世界で言うところの飛行船に似た艦体を持っている。その表面は鉄で覆われ、大砲の砲身が、いたるところから覗いている。


「ただし、古代文明時代の艦艇と比べたら性能は全然及ばない。遺跡から発掘された武器や装備を応用したものを作ってはいるが、アンバルに比べたら問題にならない」


 浮遊石は、あくまで浮かせるだけ。搭載しているエンジンはレシプロ機関だが、質は悪く、空を飛ぶものとしては飛竜やグリフォンにも及ばない。高高度与圧装備もないので、高さも制限がある。

 あくまで迎撃の届かない高さから、地上に爆撃を仕掛けて一方的に叩く兵器だ。


 だから大帝国の戦艦級が束になろうとも、正面からの砲撃戦ではアンバル一隻で駆逐できるし、ウィリディスの高速戦闘機群すら阻むことができないだろう。


「この世界の技術レベルでは確かに脅威だが、アンバルが再生を終え戦力化すれば、こちらの優位は揺るがないだろうね」

「それは朗報です」


 ダスカ氏が相好を崩した。


「大帝国の圧倒的な軍事力には不安しかなかったのですが、安心できる要素がまたひとつ増えた」

「とはいえ、油断はできないけどね。彼らが召喚や遺跡発掘で、恐るべき兵器を作り出す可能性はあるから」


 もっとも、SS工作員たちを潜り込ませているので、真に脅威とあれば、本格投入される前に優先的に潰すつもりだ。


「話を戻そう。こちらの浮遊群から回収された艦艇の残骸……これを利用した航空艦を使ってアンバルの他にも艦を作る」


「あのガラクタな!」


 ベルさんが、茶化すように言った。俺は口元を笑みの形に歪めた。


「スクラップだって使いようさ。俺の国の言葉で言うところのもったいない精神ってやつだ。ともあれ、ベルさん言うところのガラクタを再生させて艦隊を編成する!」


 艦隊とは、軍艦二隻以上の集団のことを言う。アンバル一隻では艦隊とは言えないが、もう一隻、同様の軍艦があれば、それは艦隊と言える。


 回収された残骸、使えそうと判断されたものを厳選し、魔力生成でパーツを再現。補修や交換、不足部分を継ぎ接ぎする。


「今のところ、アンバルと同型の巡洋艦を一隻、再生させるつもりだ」


 艦首、艦中央と機関付きの後部をニコイチでつなげる。内部の機械はほぼ形だけなので魔力生成で再生させる必要があるが。

 ただ再生させてもシップコアがないので、形は再現できても性能については、その能力を十分に活かせない。それでも大帝国の空中艦よりはマシである。


「で、二隻目。同じく回収したアンバル級の船体中央と後部を再生させたものに、拾いものの輸送船の前部分をくっつける」


 艦首部分があれば、これも巡洋艦として再生したかったんだけどな。形が残っているアンバル級の艦首付き船体前部はひとつしかなかった。


 前半分がカーゴブロック、後ろ半分が巡洋艦というキメラである。上から見れば艦首がハンマー、船体が柄のようになるか。


「こちらは前部の輸送艦部分を利用して、物資輸送や、あわよくば航空機運用能力を持たせられたら、と思っている」


 航空機運用の巡洋艦、もしくは戦闘ヘリなどを運用する強襲揚陸艦か。


「強襲よーりく艦?」


 アーリィーやユナ、ダスカ氏まで聞き慣れない言葉に困惑している。人形のように表情を崩さないリアナは理解しているだろうが、顔に出してくれないので、まるで俺ひとり夢物語を語っているみたいでつらい。


「三隻目――」

「まだ作るのかい?」


 ベルさんが目を細めたので、俺は微笑した。


「空母、すなわち航空母艦が欲しい」


 航空機を多く搭載する軍艦。俺の世界でのそれは海上を行く(ふね)だった。浮遊石の力を借りれば、空を飛ぶ航空母艦として航空機部隊を運用することが可能だ。移動する航空基地と思ってくれればいい。


「いまのドラケンやトロヴァオンは、浮遊石で航続距離が無限だけど――」


 アーリィーがその細い指を顎に当てた。


(ふね)に載せるっていうことは、ポイニクス同様、パイロットの休憩のためだね」

「そういうことだ。あと爆弾や誘導弾(ミサイル)の補給所でもある」


 いくら航続距離を伸ばしても、中のパイロットが数時間も狭いコクピットに押し込められてはストレスや疲労がたまる。


 過去の大戦を振り返っても、長距離の行き帰りが長いために集中力を欠き、疲労を重ねたパイロットが次々に戦闘で命を落としたと言う。本来ならやられるような相手でもなかったのに、という回想録を昔何度か読んだ。


「それで、空母とはどういう艦なのですか?」


 ダスカ氏の問い。俺は、空母を描いたイラストを見せた。


「ほう……ずいぶんと平らなのですね」

「のっぺりしてる。艦橋(ブリッジ)はどこだ?」


 横から見れば箱形、上から見ると長方形の盾のようにも見えるそれ。俺はその艦首先端部分を指した。


「ここが艦橋だよ。正直言うと、うちの航空機は浮遊による垂直離着陸機能があるから、滑走路は不要だ。だから、適当な場所に艦橋を生やしてもいいんだけどね……」


 正直、大きなモノを作るわけで、時間や労力を考えれば、手間が少ないほうがいいというのが本音だ。

 そうならざるを得ない理由。それは浮遊する残骸の中には空母らしきものはなかったことに起因する。

 もし空母が必要というなら、一から建造する必要があるのだ。


 だが正直、そんな暇はない!

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