第442話、不器用な者たち
「ゴーゴン、倒したぞ……」
ルティが、うつむき気味に冒険者ギルドの長であるヴォード氏に言った。
親子の対面を遠巻きに見守る俺。斧使いである娘の言葉に、父ヴォードは「あぁ」と短く頷いた。
沈黙。あまりに淡泊な反応に、ルティは拗ねる。
「それだけかよ」
「無事でよかった」
真顔でヴォード氏は言った。何というか硬い。感情がこもっていないようにも見え、ルティはますます機嫌が悪くなる。
「なんだよそれ……。いつもみたいに怒鳴らないのかよ」
「……心配していた」
棒読みではないが、ふだんのヴォード氏とは思えないほど硬かった。
「だから助けに来たってか?」
「いや。助っ人として頼まれた。だから来た」
「そうかよ……」
ぷい、とルティがそっぽを向いた。
なんでそこで正直に話すかな。俺はじれったくなる。素直に助けに来たって言えばいいのに。
ベルさんがいつもの黒猫の姿でやってきて、俺と同じく遠巻きに冒険者親子を見やる。
そんなギャラリーをよそに、ヴォード氏は口を開いた。
「無茶だけはしてくれるなよ」
「あ? いつもの説教かよ?」
「そうではない」
ギルドマスターは、そこで踵を返した。
「よくやったな」
「へ……?」
思いがけない言葉だったのか、ルティが固まった。じわじわと顔が朱に染まってきたのは、夕日のせいではないな。
ヴォード氏が俺たちを見た。注視していた手前、こっちも少し気まずくなる。
「ジン、帰りは?」
「いつでもいいですよ」
ポータルを冒険者ギルドにつなげば、わざわざ徒歩移動しなくてもすぐに帰れる。
頷いたヴォード氏は、チラとルティへと顔を向けた。
「それと……時間がある時でいいから、どうやってゴーゴンを仕留めたか、聞かせてくれ」
「お、おぅ……」
困ったように自身の灰色の髪をかくルティ。ヴォード氏が俺たちのもとへとやってくる。
「何なんだ今のは?」
ベルさんが皮肉げな調子で見上げる。ヴォード氏は険しい顔だった。
「これでも色々言いたいことはあったが我慢した」
「いつもの調子でお説教はしなかったってか?」
よくできました、と褒めるべきなのかねこれ。俺は苦笑した。
「まあ、自分の都合で、頭ごなしに言わなかっただけ、よかったんじゃないですか」
少なくとも、苦労に対してねぎらい、そして彼女の話を聞くと言葉にした。
他の冒険者が相手なら、普段のヴォードさんは簡単に話を進められるのにねぇ。娘相手だと勝手が違うにもほどがある。不器用ではあるが、少し歩み寄りの姿勢は見せられたんじゃないかなと思う。
ま、後は親子で何とかしてくれ。家族の問題に過剰に干渉するものでもないしな。
・ ・ ・
「いやあ、ジンさんたちのおかげで命拾いしました。ありがとうございまッス!」
ルングとラティーユが、改めて俺と仲間たちに感謝を示した。
聞けばラミアたちの巣となっていた遺跡近くには、石像がいくつもあったと言う。おそらくゴーゴンに石化されたんだろうと言う。ラミアの餌として不足と判断された者たちの末路か。
「オレも石にされちゃうんじゃないかって、ぶっちゃけびびりました!」
「助けられてよかったよ」
「ほんとッスよ。オレ、麻痺したとき、あのままやられちまうかもって思って――」
「ラミアどもに、大事な部分をやられちまうってか?」
ベルさんがからかうように言った。聞いていたラティーユが気まずげな顔になる。雌しかいないラミアは他種族の男をさらって子供を作る、という話を思い出したのだろう。
「何言ってんスか!?」
あからさまに動揺するルング。こいつも童貞か。
「そ、そんなことより! ジンさん、マジすげえっス! 目を閉じたまま敵をやっつけちゃったんスから」
「見たら石化しちまうかもしれないからな」
なあ、と俺がベルさんに同意を求めれば、そうだな、と黒猫は淡泊な返事。ルングは興奮を露わに言った。
「どうやったら、あんなことできるんですか?」
「魔力を感じられるなら、さほど難しくないけど、まずはそこまでが難しいかもしれないな。やり方を教えるのはいいけど、わかるかなぁ――」
そんな調子で、俺たちは冒険者ギルドへ帰還した。ああ、もちろん、ルングたちには、ワスプ戦闘ヘリのことは口外しないように言っておいた。
さて、ゴーゴン討伐の成功を報告、ラミアの巣も壊滅させたが、ここで一悶着。
ルティたちが受けた依頼の期限が過ぎていたため、報酬関係は引き継ぐ形で依頼を受けた俺が受け取ることになっていたのだ。
あれだけ苦労したのにびた一文、報酬が支払われない事態となってしまい、三人――とくにルティの落胆は半端なかった。ゴーゴンを実際に一体仕留めているだけに。Aランク魔物の討伐だけあって額も結構あったのだ。
依頼条件について、俺は半分をヴォード氏に渡すという約束をしていたので、俺が受け取るはずだった残り半分を、ルティたちに渡した。
俺たちはノーマネーだけど、その程度の報酬の一度や二度取り逃したくらいで困るようなことはない。つい先日、王国側から魔法甲冑の装備系で報酬を受け取ってるからねぇ。……まるで武器商人だな、こりゃ。
そのせいかは知らないが、ヴォード氏も俺が提示した報酬を辞退した。
「いいんですか?」
「おれは頼まれただけだ。お前が半分くれるとは言ったが、おれはもらうとは言わなかった」
「……そうでしたね」
正式な書面に残したわけではないし、ヴォード氏がいいと言うなら俺も強制できないね。ということで、ルティたちパーティーは、ゴーゴン討伐依頼の報酬を全額受け取ることとなった。元々の依頼は彼女たちだしな。
「何か、複雑」
ルティは難しい顔をしていた。討伐依頼を放棄したわけではなく、時間切れによる解除というケチがついたのが、すっきりしないようだった。根が真面目なんだろうね
「それじゃあさ、駆けつけてもらった礼もあるし、あたしが奢ってやるよ!」
豪快にルティは誘った。……あ、なんか、ヴォード氏と被った。
「まあ、いいんじゃないか」
そのヴォード氏は他人事のように言えば、ルティは腰に手を当て眉をひそめた。
「何言ってんだよ、親父ぃ。あんたも来るんだよ」
「おれも?」
「んだよ、ゴーゴン倒した時の話聞きたいっていったのあんただろ?」
じぃー、と視線を向けられ、ヴォード氏は一瞬目を泳がせたが、わかったと頷いた。
かくて、冒険者ギルドのマスターとその娘の親子関係が改善方向に向かった。……まあ、その後も喧嘩というか口論はあったのだが、少なくとも着実に、お互いの距離を縮めていることは、周りからもわかるのだった。




