第441話、レスキュー・ミッション その2
ゴーゴンが出た、とリーレの魔力念話。
『倒してもいいか?』
「愚問だ、やってしまえ」
『おう!』
魔力念話が切れる。魔眼持ちのリーレは、敵の魔眼は平気のようだし、万一しくじってもベルさんがいるから問題ないだろう。
俺を見て、ヴォード氏が聞いた。
「何だって?」
「外にゴーゴンが出たらしい」
「なに? ルティが倒したと言っていたが……」
「た、倒したぞ! 首を落としたんだ、嘘じゃない!」
「嘘とは言ってないさ。ゴーゴンが一体だけじゃなかったってことだろう」
俺は奥を指し示した。
「ルティ、先導を頼む。中の敵を一掃して、囚われている人を救出する」
「ああ! ルング、ラティーユ、お前たちもまだやれるな?」
「「はい!」」
いいお返事。俺たちは洞窟じみた遺跡の通路を奥へと進む。切り出した石の床に壁。天井や壁の一部から木の根が飛び出しているのが、いかにも古い時代の遺跡であることを思わせた。
中を知っているルティに先導を頼んだものの、中はラミアの巣らしいので、いつ敵と出くわしてもおかしくない。
魔力サーチ、前方へ。レーダー代わりの魔力の波を放射。
角をひとつ曲がり、直線へ。
「この先が、大きな部屋になってる。その奥に牢屋があって捕まっている奴らがいる!」
走りながらルティが声を発した。俺は魔力サーチを継続中。狭い通路に反響しまくるが、前方に放射したそれが、明確に生き物の姿をかたどって跳ね返ってきた。……やばい、もう数秒もない!
「止まれ! 敵が待ち伏せてる!」
「え!?」
ルティが振り返る。が、彼女は一歩部屋に踏み込んでしまっていた。
「見るな!」
とヴォード氏。それもそのはず、通路の出口から数メートル離れた場所に、黒い蛇を無数にはやした女型の魔物、ゴーゴンがいたからだ。
とっさに目を閉じるルングやラティーユ。いったい何が起こったかわからないルティが、ゴーゴンのほうへと向きかけるが、そこをヴォード氏ががっちりと抱き留め、その視線を遮った。
直後、風を切る音と共に矢が飛んできて、ヴォード氏の鎧、その肩に刺さった。
「ぐぬっ!?」
「親父!?」
「何が起きたんです!?」
目を閉じているルングが慌てる。ラティーユも同様だ。俺は前に出た。
「じっとしてろ。いま障壁を張った」
ちょっと遅かったが、二の矢以降は障壁が阻止した。矢を撃ったのはゴーゴンだが、その周りにも複数のラミアの反応がある。
「で、でもジンさん!? いつまで目を瞑っていれば?」
「このままだとやられてしまいますっ!」
「落ち着け」
俺はゆっくりと冒険者たちをよけて、前へ。ゴーゴンと対峙する。
そのゴーゴンは、動揺したようだった。俺は揺らぎを感じたのだ。石化かはたまた麻痺か、魔眼を発動しているのに、俺が平然としていることに。……いや、目を閉じているにもかかわらず堂々と前に出ていることかな?
うん、たぶん俺を凝視しているんだろうけど無駄なことだ。――フラッシュ!
光が放たれる。幸い、こっちは全員目を閉じていてゴーゴンを見ていないからな。遠慮なく最大光度で奴の目を焼く。
けたたましい悲鳴が木霊する。手で目を押さえ、のたうつゴーゴン。
「な、何ですか、いまの声!?」
ルングが混乱しっぱなしなので、俺は種明かししてやることにした。
「ゴーゴンだよ。いま、あいつの目を焼いてやった」
「え、ジンさん、ゴーゴンを見ているんですか!?」
「直接目で見ていない。が、周囲の魔力を探れば、やつの位置もわかるさ」
「あ、魔力サーチですか?」
冒険者ギルドでの俺の魔法講義の常連であるルングである。
「少し違う。大気や地面、生物その他に魔力が存在していることは教えたな? だから周囲のものを魔力で置き換えれば、目で見なくても区別が付くというわけだ」
ただ――
「じかに見ていない分、使う魔法が普段よりエグくなるんだけどね」
エクスプロージョン! その対象はラミアたち。彼女たちの体内の魔力を目印に狙いをつけ、さらにそれを触媒に点火。
次の瞬間、ラミアたちは腹の中から紅蓮の炎と爆発に、文字通りの爆発四散した。
ヴォード氏が強く言った。
「ゴーゴンの目を潰したと言ったな、ジン!」
魔眼がないなら、もう直に見ても大丈夫ということだ。手で顔を覆っているゴーゴンめがけて、ヴォード氏が駆ける。手にした大剣ドラゴンブレイカーが一閃、半人半蛇の身体を両断した。
「魔眼さえなければ、ただの雑魚と変わらん」
速攻で仕留めるのはさすがの一言。まあ、ヴォード氏なら、ゴーゴンと目を合わさなくても倒せると思うけどね。
「ジン、他に敵は?」
「この部屋にはいませんね」
俺は魔力サーチをかける。しかし外にいた奴も含めてこれでゴーゴンが三体か。まだ他にもいるのかな?
「とりあえず、救助を続行しましょうか。出てくる敵は、その都度排除で」
「そうだな」
ヴォード氏が同意した。ルティが、ラティーユを呼んで、ヴォード氏を指さした。パーティー内で回復担当のクレリックはすぐに駆け寄る。
「ギルド長、肩にお怪我を……」
「あ? ああ、これか」
今気づいたとばかりにヴォード氏は、右肩に刺さる矢を左手であっさりと引き抜いた。血が付いていたが矢の先端のみで、どうやら少し刺さった程度だったようだ。
「大したことはない。かすり傷みたいなものだな」
「治癒します」
ラティーユが魔法で手当をする。そこへ、ベルさんからの魔力念話が俺の耳に届いた。
『こっちは大方始末したぞ。そっちはどうだ? 手が必要か?』
・ ・ ・
遺跡のラミア勢は一掃された。ゴーゴンは三体。リーレ、ヴォード氏が倒したのと、最初にルティが仕留めたものも首が確認された。
……おめでとう、ゴーゴン撃破だ、ルティ。
囚われていたのは最初に襲われたという隊商関係者が二名、冒険者六名、狩人二名の合計一〇名だった。
全員男ばかりで、うち七人が裸にひん剥かれて意識を失っていた。どうやらラミアたちにやられていたようだ。残る三人も、こちらも意識がなかったが命に別状はなかった。
診断したSS衛生兵が俺に顔を向けた。
「起こしますか?」
「いや、王都に戻るまで、このまま眠らせておけ」
ワスプ・ヘリの姿を見せるわけにはいかないし、ポータルも同様だ。別の意味で騒ぎになるのはごめんだからね。
とりあえず一段落したが、問題があるとすれば……。
視線を転じる。そこにいたのはヴォード氏と、その娘ルティ。




