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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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434/1941

第432話、親子ゲンカ


 浮遊石を数十個、獲得した。


 古代文明時代の遺産と書いて非売品パーツを手に入れた俺は、それを早速、ウィリディスの軍備強化に用いた。


 TF-3トロヴァオン、TF-2ドラケンにそれぞれ浮遊石を装備。長大な航続距離を獲得する一方、余裕のできた魔力を使った魔法障壁(シールド)装置を搭載した。


 増強予定だったワスプ戦闘ヘリ部隊は、急遽予定を変更し、浮遊石搭載の対地攻撃機中隊に変わった。回転翼をやめて、浮遊効果を利用したヘリ以上の低高度航空機としたのだ。


 機体はワスプをベースに開発したので、ワスプⅡとした。同じ蜂科のホーネットにしようかとも思ったんだけど、俺の中ではアメリカの戦闘攻撃機のイメージが強すぎた。


 高空浮遊群にある岩塊拠点は『スカイベース』と名づけた。軽巡アンバルの再生作業が進む中、浮遊する残骸を利用した第二、第三の航空艦の建造を予定している。


 アンバル型の巡洋艦は、どうも当時かなりポピュラーな艦らしく、残骸を寄せ集めたらそれっぽくでっち上げられそうだったからだ。


 残念ながらシップコアは回収できなかったので、当面はサフィロのコピーコアを利用するつもりである。

 が、コピーではシップコアの半分以下の性能しか発揮できないようなので、どこかでシップコアなりダンジョンコアなりを手に入れたい。


 ベルさんがコピーコアの性能を引き上げるコツ、いや魔改造できる術を持っているので、そのあたりも要検討だった。ドラケン・カスタムの魔改造っぷりを俺は忘れていない。


 さて、季節は11の月、アクティス魔法騎士学校の最上級学年の卒業まで残すところ一ヶ月を切った。


 魔法騎士生たちは、卒業後の進路も決まり、その準備を進める時期である。俺やアーリィー、マルカスは気にすることもないが、学校もおろそかにすると体面が悪いので、そちらにも顔を出す。


 同様に冒険者ギルドにも俺とベルさんは顔見せする。ウィリディスに引きこもっていると世間に疎くなってしまうからね。情報収集や噂のたぐいも仕入れておかなくてはならない。

 そんなある日、それは起きた。



  ・  ・  ・



「うっせ、馬鹿親父! 間違い間違い言うな! 今度は本物狩ってきてやらぁ!」


 冒険者ギルドに響くは女の怒号。フロアにいた職員や冒険者が何事かと視線を巡らせば、それに負けないくらいの男の怒声が木霊した。


「まだそんなことを言っているのかッ! おまえにゴーゴン討伐は無理だ! やめてしまえ!」


 ヴォード氏の声だなぁ。俺はベルさんと顔を見合わせる。


 乱暴に扉を閉める音がしたかと思うと、奥から肩を怒らせたルティ――Bランク冒険者で、ヴォード氏の娘が鬼気迫る顔でフロアに出てきた。


 周囲の職員と冒険者たちは、示し合わせたように一斉に顔を背けた。ルティは青筋をたてたまま、大股にフロアを横断するとギルドを出て行った。

 すると周囲から、溜めていた息を吐き出す音が重なった。……何なんだこれは?


 副ギルド長のダークエルフ、ラスィアさんが自身の黒髪をかきながら、フロアへやってきた。そんなお困りな彼女に俺は声をかけた。


「何があったんです?」

「ああ、ジンさん。まあ、いつもの親子ゲンカですよ」


 ため息をつくラスィアさん。俺は周囲を見回しながら聞く。


「いつもの、というのは最近とくに酷いんですかね?」


 もとからあまり仲がよろしくないと聞いている。周りの慣れたような反応からそう推測したのだが。


「ええ、そうですよ。ギルマスは娘さんに危ないことをさせたくないのですが、ルティさんは冒険者に憧れを抱いていますから、そのあたりが噛み合わなくて」

「衝突すると」


 俺が言えば、ベルさんはあくびをした。


「『親の心子知らず』ってやつだな。ヴォードがSランク冒険者だから余計面倒になってるってところだろ」

「そういうことです、ベルさん。ギルマス本人も冒険者なのに、娘には危険だから冒険者を辞めろなんて、説得力がありませんよ」

「経験者だからこその説得力も、親子関係が台無しにしていると」


 ぽりぽりと俺は髪をかく。家庭の事情なら、頼まれでもしない限り口出しするようなものでもない。周囲のそっけない態度も、それだろう。


「ルティが冒険者に憧れている、というのは?」

「彼女は幼い頃に母親を亡くしています」


 ラスィアさんは肩をすくめた。


「その頃のヴォードは冒険者として絶頂期でした。仕事で家を留守にすることも多かったのですが、ひとり残されたルティさんの面倒を見たのが、冒険者ギルドと冒険者たちだったわけです」

「なるほど、彼女のまわりの大人はみんな冒険者だったわけですね」


 そんな環境に育てば、自然と冒険者業に詳しくなり、そっちの道を進むのもあり得なくはないということか。


「Sランク冒険者なんて、ヒーローだもんな。周りは相当ヴォードの肩を持ったんだろうなぁ」

「そのあたりは、ルティの面倒をみていた冒険者たちが、うまく教えたんだろうな」


 留守しがちの親と同じ道をルティが選択している時点で、フォローが行き届いていたと思う。そうでなければグレて、冒険者なんて大嫌い、なんて言うパターンだっただろうから。


「でも今じゃ、ギルドで親子ゲンカするような関係か」


 ベルさんが苦笑した。


「不良娘と親父の会話みたいだったな。ひょっとして反抗期?」

「二十歳過ぎて反抗期って遅くないか?」

「あー、一応まだ18なので、本人の前では気をつけてくださいね」


 コホンとラスィアさんが咳払いした。ルティは身体が大きいせいで、実年齢より上に見られる傾向があるらしい。……へえ、マルカスやアーリィーと同い年なんだ。


「本当はルティさんのことがかわいくてしょうがないのに、ヴォードは不器用ですから」


 ラスィアさんは何度目かわからないため息をついた。


「ギルマスという立場が、余計に難しくしているのかもしれません。周囲の目があるから、親馬鹿になれない」

「そりゃ他のモンの前で、娘だからって贔屓(ひいき)されたら面白くないわな」

「そうですね。ルティさんもそういう甘えは嫌がるタイプですけど、周りがどう思うかは別ですからね」


 Sランク冒険者として、寡黙で威風堂々としていなければならない。もとより、あまり器用ではないヴォード氏は、娘に対してどう接していいのか、その距離感がつかめずにいるかもしれない。

 仕事で家を空けていた旦那さんにありがちな家庭内トラブルに、おまけがついている格好である。


「憧れる娘。それに冷や水を浴びせる父親」

「娘の心配をする父親。その心がわからない娘」


 俺とベルさんは顔を見合わせ、肩をすくめた。

 親子ゲンカは犬も食わないってか。……あれ、夫婦ゲンカは、か。

個人的には、ワスプと聞いてアメリカさんの空母を思い出す人。

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