第431話、巡洋艦アンバル
ポイニクス搭載のコピーコアの通訳によると、この艦は、アンバル型ライトクルーザーだという。
クルーザーというのは巡航という意味であり、この艦が軍艦とするなら『巡洋艦』というカテゴリーだろう。ライト・クルーザーということは軽巡洋艦か。
俺のいた世界で巡洋艦といえば、航行能力が高く、速度が出る軍艦だ。古くは長距離哨戒や通商破壊、主力艦の護衛などに当たっていた。
さて、こちらの艦は、シップコア『アンバル』を搭載する。シップコアなんて初めて聞いたが、要するにサフィロなどの人工ダンジョンコアの同類らしい。
サフィロ・コアのコピーが知っているということは、少なくともこのアンバル・コアは、同世代かそれより後の時代に作られたものと思われる。
またひとつ、古代文明を知る手がかりかな?
話を戻そう。艦橋の艦長席にあった球形が、そのシップコアであり、俺が魔力を通したことで枯渇していたエネルギーが回復し、俺を艦長として認識したらしい。……サフィロの時もそれやったなぁ。
「つまり、この艦も一種のダンジョンみたいなものだということだ」
いまいち理解できていなかったユナや、カメラの映像ごしに聞いていたアーリィーに俺は告げた。
「魔力を代替に動かせるみたいだから、十分な魔力を投入すれば、この艦――アンバルを魔力生成による自己修復でもとの状態に再生できる」
「このシップコアとは、ダンジョンコアと同じということですね」
ユナが理解を示した。うん、それ俺が今言ったよね。
「もっとも、このデカい艦を完全修復しようとしたら、どれくらいの魔力を消費するのか正直見当がつかない。アーリィーやサキリスみたいに魔力の泉スキルを持っている人間が魔力を注ぎ続けても、数週間、いや数ヶ月はかかるかも」
「途方もないですね」
「もう普通に修理したほうが早いのでは?」
ダスカ氏は言ったが、すぐに訂正した。
「いえ、今の我々の技術では無理ですね」
ちら、と黒猫を見やる。
「でもベルさんなら……」
「オイラは嫌だぞ、こいつを直すために張り付くのは」
「まあ、ウィリディスの魔石貯蔵庫の大魔石をまとまった数を使えば、再生させる時間は大幅に短縮できると思う」
俺は考えを口にした。
「こいつの主砲――プラズマカノンの威力は、その価値がある。大帝国には空中艦隊があるからな」
「なるほど」
ダスカ氏は頷いた。
「おそらくこの古代文明時代の船ならば、大帝国の空中船も蹴散らすことができるでしょう」
実際そこまで言い切る自信は俺にはまだないけどね。しかし、火力については申し分なし。
「幸い、このシップコアが艦を自動で制御してくれる。指示を出す人間がいれば、あとは全部自ら制御してくれるから、人がいなくても動かせる」
「とんでもないですね、シップコアって」
「サフィロだって、同じことができるさ」
凄いは凄いけど、もう似たようなアイテムは持ってるからな。要はダンジョンか、艦艇かの違いでしかない。
「無人で動くとなると、あのカブトガニもどきを攻撃したのは――」
「ああ、この艦が敵を認識して、最後のエネルギーを使って砲撃したんだ」
あのカブトガニもどきは『アンバンサー』というらしい。巡洋艦『アンバル』が所属するテラフィデリティアという古代文明時代の軍勢と戦っていた敵である。
ポイニクスを追いかけるアンバンサー艦を発見した巡洋艦アンバルは、最期まで自らの使命を全うしたのだ。
まあ、俺が魔力を注いで回復させたから、死んだわけではないのだが。
「それにしても、これは大収穫ですね」
ダスカ氏は顔をほころばせた。
「古代文明時代の生き証人ともいうべきシップコアを手に入れたのですから、当時の社会や技術などの調査も進むのではないでしょうか」
「うーん、それについては、どうかな……」
俺はあまり自信がなかった。
「サフィロだって当時の人工コアだけど、自分がやれること以外の情報に乏しいからな。そのサフィロの通訳によればこのアンバルは艦艇を動かすことに重点を置いた簡易型コアらしいから、船のことはともかく、それ以外は望み薄かもしれない」
まあ、やるだけやってみるつもりだけどね。
ベルさんが首をひねった。
「それでジン。このアンバルをどうするんだ?」
「もちろん、直すよ」
俺は即答だった。
「ポータルでウィリディスとつなげられるからな。大魔石を持ってきてこの艦の機能を復活させる。そのついでに」
艦橋の窓から見える浮遊群を見やる。
「この一帯の調査もしよう」
・ ・ ・
ウィリディスとアンバルを往復する日々が始まった。
大魔石を複数持ち寄り、コアであるアンバルに接続。魔力を送ってアンバルに魔力を蓄えさせる。車のバッテリーが上がった時に、別の車から電気を分けてもらうのに似ている。
そうやってアンバルが艦を少しずつ再生させるのを見守る一方、艦が寄り添っている巨大な岩塊に拠点を作る。
いつものダンジョンコア工法で、テリトリー化した岩塊をくり抜く。仮設の会議室と休憩所、航空機用の小規模格納庫と、運んできた浮遊物を回収するための大倉庫をこしらえた。
なお、フィレイユ姫殿下から浮遊群とそこに眠る古代文明時代の軍艦の話を聞いて、エマン王やジャルジーがポータル経由でアンバルを訪れた。
もっとも作業の初期であるから、アンバルはいまだ超技術の塊ながら朽ちた遺跡のようなものだった。それぞれ別のタイミングで来たのだが、驚きつつもどこか夢物語のように感じたようだった。まさかこの艦艇が動くようになるとは微塵も思わなかったのだ。
ま、俺としてはそれでいいんだけどね。彼らには内緒で、浮遊群から有用なものを回収していたから、そっちがバレると立場上よろしくなかったわけだけど。
ジャルジーに提唱したグリフォン計画。プロペラ機の開発計画を聞くときの彼の期待値の高さを見ていると、密かにより高性能な代物を作っている俺は後ろめたささえ感じていた。
さて、アンバルの魔力回復と再生を交代で監督しながら、俺は仲間たちと浮遊群の発掘作業を行う。初日のようなアンバンサーの遺産と遭遇することもなく順調だった。
ポイニクスで飛び回り、浮遊する残骸から浮遊石や古代の金属や道具の残骸を回収する。
とくに岩塊をのぞけば、浮いている物にはどこかに浮遊石やそれに類する装置があった。なければ浮いているはずがないのだから、当然といえば当然だ。
ある箱形の建物を回収した時などは、中に40個ほどの浮遊石を発見した。どうやら建物ではなく、古代文明時代の輸送船の艦首カーゴブロックだったらしい。まさに大収穫だった。密かにガッツポーズ!
その後も、大小無数の浮遊石を発見。さっそくトロヴァオンやドラケンに浮遊石を載せれば、作業効率も上がった。
その頃には浮遊群を形成していた残骸も半分以下に減ってはいたが、せっかくの資源であるのだから有効活用させてもらおう。
とはいえ、まずは軍事に利用しなくてはならないことに、少し物悲しさをおぼえた。大帝国のことがなければ、もっと他のことに使えたのだけどな。
・アンバル級ライト・クルーザー:アンバンサー戦争後期における、テラ・フィデリティア航空艦隊の量産型軽巡洋艦。
長期化した戦争による人的資源の不足を補うべく、シップコアと呼ばれる制御システムを搭載した無人艦(有人艦として使用が可能なようになっており、事実、末期の有人型軽巡洋艦もアンバル級とほぼ同型)。
なお、アンバル級の無人艦には艦名は与えられず、番号で識別された。
今回、ジンが発見した艦は、A-95(アンバル95番艦)。タイプⅠ型が96隻建造され、武装強化型のⅡ型が180隻以上、建造された。
・武装:6インチ連装プラズマカノン4基(8門)、艦首ミサイル発射管4門、旋回式三連装ミサイルランチャー2基(6門)、4インチ高角光線砲16基(32門)




