第430話、難破船の捜索
ポイニクスは、巡洋艦もどきの艦首甲板に降りた。浮遊石による静かな着陸だ。
ここまで艦から反応はなし。カブトガニもどきへの発砲がなければ、比較的形の残った残骸にしか見えない。というか、あの発砲もこの艦じゃなかったのではないかとさえ思えてきた。
上陸班を編成。俺、ベルさんにユナ、ウィリディスにいたダスカ氏が加わり、シェイプシフター兵が一個分隊ついた。さらに撮影係として、スクワイアゴーレムのブラオ、グリューンが同行する。
浮遊石搭載物には、周囲に風を遠ざける機能でもあるのか、ポイニクスを出て、甲板を歩いている時も、本来感じるはずの強い風はまったくなかった。
俺はDCロッドを使って魔力スキャンをかける。テリトリー化を行い、構造の把握と生命体などを探る。
空に浮かんだ艦艇と聞いて、探索に胸躍らせていたダスカ氏が苦笑する。
「いやはや、相変わらずロマンがありませんね、ジン君」
「攻略本を見ながらゲームをする派なんでね」
「うん?」とダスカ氏はいまいちわからない顔をする。
種明かしを見てゲームをするなんて面白いのか、という人もいるだろうけど、俺はゲームオーバーが嫌いでね。
まあ、現実はゲームと違って死ぬこともあるのだから、用心深さは必要だ。名前こそ冒険者だが、実際は堅実で面白味などない仕事だよ。
DCロッドがスキャンした結果をホログラフ状に表示させる。ポイニクスの測定は外側のみしかわからなかったから、部屋や通路などの細部がわかるマップはありがたい。
「どうだろう、ダスカ氏。ネタバレ知りたい?」
「どうぞ。ロマンなどと言いましたけど、迂闊な者から死ぬのが世の常ですから」
「結構。この艦に生存反応はなし。生き物はいないな」
「なんだ、いねえのか」
ベルさんが、つまらなさそうな声を出した。
「天空人とか、みょうちくりんな化け物とか期待したのによ」
「お師匠、この船が無人なら、さきほどの……カブトガニ、ですか? あれを撃ったのは――」
ユナが首をかしげる。俺は推測を口にした。
「自動制御だろうな。ダンジョントラップの魔法台座とか、ゴーレムみたいなものと思えばわかるだろう?」
「理解しました」
「よろしい。では、中の探索をはじめよう」
俺はDCロッドを手に艦を指し示した。
「そうそう、生命体はいないし、艦の動力も死んでいて迎撃装置の類はないだろうけど、油断はしないでくれよ。魔力サーチにかからない未知の生物とかいたら怖いしね」
「むしろ、オイラはそういうの出てきてほしいね」
「私はごめんですね」
ベルさんとダスカ氏が軽口を叩く。もっともこの二人はどんな時でも油断はしないだろうけどね。この艦がいつのもので何なのかわからない以上、自分たちの常識で判断すると足をすくわれることもあるのだから。
……とはいえ、マップがある以上、探索にさほど面倒はなかった。
動力が死んでいるようで内部は真っ暗。通路や部屋の扉などが壁のごとく立ち塞がった。電気が通らないと極端に重く感じる自動ドアよろしく、人力では動かないほど重々しい扉も、魔力を流し込んで開いていく。
小型のスクワイアゴーレムが、カメラを起動させて撮影する。その映像は、魔力を通じてポイニクスにも送られている。待機組であるアーリィーやフィレイユ姫が固唾をのんで見守っている……と思う。何せ、俺は彼女たちがこっちを見ているのは知っているけど、その姿を直接見ていないからね。
艦内は無人。魔力にひっかからないような未発見の生物などもなく、かといってめぼしいお宝があるわけではない。
「相当古い時代からあるのですね」
ダスカ氏は、ライトの魔法で周囲を照らしながら言った。
「椅子や机もありますが、だいぶ朽ちていますし。生き物の死骸もない。多少ちらかっている部屋もありますが」
「戦闘艦なのは間違いない」
俺は動かないエレベーターとおぼしき箱を諦め、狭い階段を見つける。上部の艦橋に続いているはずだ。
「艦体に被弾や爆発の跡があったからな。通路や部屋があるのをみても乗組員はいたんだろうな」
おそらく艦を放棄して脱出したんだろうけど。居住区画が思ったより小さく、艦を動かすのに元々人数はそれほど必要としていないようだった。自働制御が進んだ文明だったのかもしれない。
俺はここで、シェイプシフター兵とブラオに機関室の調査に行かせた。俺、ベルさん、ダスカ氏とユナは、ゴーレムと階段を登る。
やがて、俺たちは艦橋と思う部屋にたどりついた。外の明かりが窓から差し込んでいるので、魔法がなくても視界はクリアだ。
見たところ、ポイニクスの操縦席より一回り大きいが、席の配置が似た印象だった。まあ、ポイニクスの席配置がどちらかというと艦艇のそれに近いせいだけど。
ところどころに錆が浮かび、汚れも目立つ室内はなるほど年季を感じさせる。いったいいつから放置されていたのだろう。
艦橋中央より後ろにある、おそらく艦長席に歩み寄る。パネルやスイッチの上は埃で層ができているが、その中で半球体が埋め込まれているのが目についた。
索敵用の立体モニター? サイズにすると、ちょうど人工ダンジョンコアと同じくらいだ。素手で払うと埃まみれになるので、魔力を通して払う。すると黄色がかった球体が露わになる。まるで蜜を溶かして固めたような、琥珀色というべきか。
……似てるな、やっぱり。
色は違えどサフィロに。少し考えた結果、モノは試しとばかりに、俺は琥珀色の球体に手を伸ばした。そして魔力を流し込んでみる。
「ジン君?」
「お師匠?」
ダスカ氏とユナが俺を見つめる中、しばし沈黙が艦橋を包む。魔力を注ぎ込んでいるが、とくに反応なし。何もなかったら、ちと恥ずかしいな。
「お?」
ベルさんが声を上げた。俺の手の中で、球体が輝き出したのだ。
唐突に艦橋に機械音が響く。機械音声か、どこかの言葉のように聞こえなくはないが、少々耳障りだった。……うん、もし音声だったとしても、すまん、機械語はさっぱりなんだ。
ユナは身構え、ダスカ氏は音の発生源を目で探す。
「なあ、ベルさん、何だと思う?」
「さあね。このタイミングで鳴るってのは、歓迎のご挨拶ってことかね」
「あるいは拒絶の声かもしれませんね」
ダスカ氏は警戒感を露わに、手にした杖を引き寄せた。
「どうします、ジン君?」
「どうしようね、これ」
苦笑していると、魔力念話、いや魔力通信機を通じてアーリィーの声が聞こえた。
『ジン、ポイニクスが、その言葉がわかるって』
「ポイニクスが? 言葉だって?」
グリューンのカメラを通じて、こちらの状態はモニターしているアーリィーだ。ポイニクスとは、搭載してるコピーコアのほうだろう。それがこの機械音を言葉だと言う。
「なら交信ができるということだな」




