第428話、謎物体からの攻撃
カブトガニっぽい浮遊物からの光弾に、マルカスは操縦桿をまわしたが、ポイニクスは戦闘機のようにひらりとはいかなかった。
遅い……!
オレンジ色の光弾がポイニクスの機体に当たる――寸前に見えない壁に阻まれた。魔法障壁が攻撃を阻止したのだ。
だが、機長席のパネルで、シールド出力を見やり、俺は目を剥いた。
「シールドを半分もっていかれた!」
三、四発が立て続けに障壁を弾いたのだが、構成する魔力をごっそり持っていかれた。
「マルカス、回避機動! ベルさん! こっちへ来い!」
言われるまでもなく、マルカスは必死にポイニクスを操り、敵――カブトガニから逃げるコースをとっていた。
黒猫が機長席に上がってきた。
「悪いがベルさん、機体の障壁に魔力を注いで補強してくれ!」
「あ? どうやって――うぉ!」
障壁に敵の光弾が炸裂したようだった。ポイニクスが揺さぶられ、フィレイユ姫がその場にうずくまる。
「こ、これは大変よろしくないんですの!?」
「シールド出力8%!? ベルさん、そこの赤いランプの前に手を当てるんだ」
「これは?」
「魔力を注いで機体を補強できる装置だよ」
ベルさんが、TF-2ドラケンに魔力を注いで自分用にカスタマイズしてしまった事例を受けて、搭乗員からの魔力を機体に振り分けられる機能を搭載したのだ。ベルさんの無尽蔵とも言える魔力をシールドにまわせば――
「ランプが黄、いや緑になった!」
「ベルさんの魔力をシールドに振り分けるようにしたんだ。これでしばらく持つな」
浮遊物のあいだを、ぐりんぐりんと動き回るポイニクス。そのたびに操縦室も右へ左へと傾く。その間にも後ろから光弾が飛んできて、機体から外れた弾が別の浮遊物にぶつかり爆発した。
俺はコンソールを操作する。
「ファルケ11、緊急発進」
『了解』
ポイニクスが抱えてきたTF-1ファルケ――シェイプシフター戦闘機の返答が聞こえた。待機状態だったファルケはすぐさまエンジンから火を噴かし、ついで固定ケーブルをパージし、飛び出した。
こんな時のためにわざわざ運んできた小型戦闘機であるが、数十メートルの金属の塊に対して、通用するのか、正直微妙である。
だから俺は魔力通信機に呼びかけた。
「ポイニクスより、トロヴァオン5。リアナ、緊急事態だ。掩護を頼む!」
『トロヴァオン5、了解』
通信機から簡潔な返事がきた。
待機させていた増加ブースター装備のトロヴァオンが3機。その指揮は、5番機に乗るリアナに任せている。
TF-3トロヴァオン、その5、6、7番機が1万2000メートルに上がってくるまでにおよそ3分ほど。
「ジン!」
アーリィーがレーダースコープを見やる。
「後ろの敵が、小型の物体を切り離した!」
「なんだって!?」
ポイニクスの機外カメラが捉えた映像をパネルに映し出して確認すれば、おたまじゃくしに羽根が生えたような小型機が、迎撃にきたファルケへと向かっていく。
ファルケ11番機を制御するシェイプシフターも、それを敵と認識したのだろう。正面から電撃弾を浴びせると同時に、小型機もオレンジ色の光弾を発射し、それぞれ交差した。
爆発。
機体を貫通した光弾によりファルケ11は爆発。コクピット部の黒い球形――シェイプシフターが射出されたが……はたして。
「やられたか」
一方の謎母艦から出てきた小型機も片翼をもぎとられ、スピンしながら浮遊物と激突して四散した。
結局、掩護機が上がってくる前の状態に戻ってしまった。ベルさんが吠える。
「くそが、いったい何だってんだ!?」
「さあな。伝説の天空人か、あるいは墓荒らしに対する番人じゃないのか?」
俺はコピーコア『ポイニクス』に戦闘モード移行のスイッチを押した。自衛用装備であるミサイルランチャー1基とサンダーキャノンを2門、ポイニクスは備えている。
「オイラたちは墓荒らしか?」
「むこうはそう思ったかもよ!」
またもシールドに敵弾が当たり、ランプが赤くなる。ほら、ベルさん、頑張って補充!
マルカスは浮遊群の間を抜けるべく、ポイニクスを操るが、この図体なのでかわしきれない。
ユナが振り返った。
「お師匠! これでは敵から逃げ切れません。浮遊帯から出たほうが――」
「あちらさんのほうが遅いという保障はないぞ?」
俺は、マルカスに浮遊群の中を飛ぶように指示する。
「掩護機が来る二分弱、逃げ回れ」
むしろボディの大きさは、カブトガニもどきのほうが上。ポイニクスが抜けられる隙間でも、あっちは通り抜けられずに浮遊物とぶつかることもありうる。
というか浮遊物にぶつかっている。だが小さな岩塊は砕かれ、また金属の塊も弾き飛ばして追尾してくる。
「くそ、もっと大きいやつがぶつかれば――」
カブトガニの姿を映しているパネル。その中で、敵の砲が邪魔な障害物を破壊しているのが見えた。……障害物の激突であわよくば倒すのは無理そうだが、敵の光弾がそっちへそれてくれるなら、このまま逃げるための時間稼ぎにはなる!
その時、ポイニクス上面のミサイルランチャーが煙を噴いた。カブトガニもどきをロックオンし発射したのだ。
ミサイルはコピーコアの誘導で、敵の正面にぶつかり爆発した。が――
「効いてない!」
前面装甲が厚く、抜けなかったようだ。
やばいな。対ワイバーン用のミサイルが効かないとなると、掩護のトロヴァオンが到着しても、カブトガニに通用しないかもしれない。正面は抜けなかったが、背面や推進器系には効けばいいのだが――
・ ・ ・
浮遊群の中で、それは待機していた。
爆発。大気がきしむ。衝撃波が小さな浮遊物を弾き、眠っていたそれを揺り動かした。
震動が振動となり、それに光が灯る。二回、三回と衝撃波が伝わるたびに、それは低い唸りのような音を立てた。
『――移動、体――識別――アンバンサ――確認――』
唸り音に混じり、暗闇の中にポッと別の光が灯った。
『主――……3番、4番使用不能――。1――エネルギー――』
直後、別の音が響いた。重々しく、大きなものが動くような機械音。
『目標、敵性移動体――』




