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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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429/1943

第427話、高高度飛行浮遊群


 ポイニクスが飛翔する。高度1万2000メートル。


 前回、大帝国を目指していたときに発見した浮遊群とほぼ同高度である。雲の上の空は、深い海のごとく青かった。


 操縦室には、機長席に俺とベルさん、操縦席にはマルカス、副操縦席はSSパイロット。航法席にユナ、測定席にアーリィーが座っていた。

 そして本日は、ダスカ氏のほか、もうひとりゲストがいた。


「雲の上はこんなにも広々としていますのね」


 フィレイユ姫殿下である。ポイニクスに乗っての空の散歩を大変お気に入りとしている姫君は、今回の浮遊群探索に同行したのだった。


「おとぎ話と思っていた浮遊島を探しにいくなんて、ロマンですわ……!」

「まだ浮遊島かはわからないよ?」


 アーリィーが妹姫に苦笑した。……前回探索の時、最初に浮遊島の名を出したのは彼女だけどな。

 俺は機長席のそばの仮設席のフィレイユに声をかけた。


「何もないことを祈りますが、万が一のことがあったらポータルを使ってウィリディスにお戻りください」

「はい、ジン様」


 お姫様は素直に頷いた。


「やはり危険なのでしょうか?」

「わかりません。だから、いざという時の話をするんですよ」


 そもそも高高度に浮遊する何かがあるというのが、普通では考えられない話なのだ。俺のいた世界では決してありえない事象。魔力があって、魔法のある世界だからこそとも言えるが、そっち方面ではわかっていることよりわからないことのほうが多いのだ。

 航法席のユナが航路図をみながら言った。


「お師匠、まもなく浮遊群を発見した空域に到達します」

「アーリィー。魔力レーダーに反応は?」

「まだ。……待って。正面、反応あり」


 パネル上の魔力レーダースコープを見つめていたアーリィーが声を上げた。


「数増大中。前回とほぼ同じパターンだね。無数の反応あり。針路0-0-0。高度は1万2000、変わらず」

「マルカス、そのまま前進。目標に近づく」

「了解」


 操縦桿を握るマルカスが応じた。仮設席に座りながらフィレイユ姫が顔をほころばせた。


「ワクワクしてきましたわ」


 ポイニクスは巡航速度のまま、浮遊物が無数に浮かぶ空域へと向かう。俺は機長席のコンソールについている望遠カメラの操作キーを押す。まだ肉眼では見えないが、搭載カメラの望遠モードなら――


「見えた」


 俺が呟けば、ベルさん、そしてフィレイユ姫が立ち上がり、パネルを覗き込んできた。

 蒼空に漂う黒い点がいくつも浮かんでいる。拡大してみると、小惑星帯を思わす大小さまざまなものが漂っているが、表現するなら、ゴミ箱の中身をぶちまけたような有様だった。


 岩の塊も見えるのだが、金属的なパーツや、建造物の一部といった明らかに人工物が、瓦礫(がれき)となっているのが目に付く。大きいものだと百メートルを軽く超えていて、数十メートルクラスのものが多く漂っている。


 何でこの大きさのものが浮いているのか疑問だが、これらもどこかしろに浮遊石のような浮遊装置をどこかに抱えているのだと思う。でなければ、とうに地上に落ちてるだろうしな。


「まるで戦場跡みたいだな……」


 飛行機、いやSFで見るような宇宙船の一部のようにものが浮かんでいる。天空人とやらの遺産か、はたまた古代の超文明のものかは知らないが、それらはかなり発展していたのかもしれない。


 望遠カメラに頼らずとも、目視できる距離にポイニクスは接近する。操縦席の窓から見える浮遊物の群れを、みな言葉なく見つめている。


「障壁の出力をあげろ。マルカス、通れそうな場所から浮遊群の中に侵入しろ」

「了解、団長。……障壁は大丈夫ですかね?」


 マルカスが不安げな声を出した。俺は浮遊物へと視線を向ける。


「こっちが低速でいく限り、細かなやつは大丈夫だ。……だからって大きいものに当たりにいくなよ?」

「了解です」


 操縦桿を操り、マルカスはポイニクスを突入させた。


 瓦礫(がれき)、岩塊、建物……? 視界の中を流れていくそれらを見やる。ベルさんが口を開いた。


「明らかにドンパチやらかした跡があるな。あの筒みたいな形のやつ。内側から爆発があって真っ二つになったように見える」

「こっちの箱型は、砲撃を喰らったみたいに穴がいくつかあるな……」


 ファンタジーの空飛ぶ船、というよりSF寄りな船っぽい。軍艦の砲塔らしきものがついた艦艇らしき残骸も見受けられる。

 空の墓場、と以前ベルさんが言っていた言葉が、なるほどしっくりきた。


「墓場、か」


 俺が呟けば、フィレイユ姫が手を合わせて物憂げに言う。


「お空の上で戦争があったのですね」

「古代文明時代の遺物」


 ユナが見上げた先を、円盤じみた瓦礫を通過する。


「お師匠、何か手頃なものを回収して、持ち帰りませんか?」

「そうだな」


 調べて、必要なら持って帰ろう。浮遊石の力で浮いているものなら、牽引用のワイヤーを打ち込めば、ポイニクスでも数十メートル程度の物体も引っ張ることができる。浮遊石以外の理屈で飛んでいるものについては無理だが。


「どれがいいかな……?」

「岩の欠片持っていっても面白くないぞ」


 ベルさんが浮遊物を吟味(ぎんみ)する。


「あの、いかにもな金属の塊にしておこうぜ。船っぽくないけど、船っぽいやつとか」


 どんな金属で出来ているか、それだけでも収穫だろう。


「よし、マルカス、右前方に浮いている丸いカブトみたいなやつに近づけ」


 了解、と操縦席からの返事。遠めからでも結構大きかったが、長さは5、60メートルくらいあるか。前から見ると角などのない丸い兜に見えたが、近づくと、どこか生物的な――シッポのないカブトガニのような形をしていた。色は白と灰色、紫色のラインが入っている。


「……なんか、別世界の生き物っぽい」


 正確には異星人の、というかエイリアンっぽいデザインだと思った。船体表面に若干の亀裂が見えるが、比較的状態はよさそうだった。

 兜の視界確保用のスリットに見える溝が、艦橋とか操縦室のたぐいだろうか?


 その時、測定席から警報が鳴った。


「魔力サーチ? なんかよくわからないけど、魔力のようなものを当てられた!」


 アーリィーが測定席のパネルを睨みつけた。マルカスが叫ぶ。


「団長! 目標が動き出した!」


 ぞくり、と妙な気配が背筋を撫でたように感じた。


 魔力サーチに似た何かをぶつけられた。電波、いわゆる本場のレーダー波だろうか? 何より例のカブトガニが動き出したということは――


「シールド出力最大! 警戒態勢!」


 それは本能に近い。まだ敵と決まったわけではないが、身構えていた。


 だがそれは間違いではなかった。 

 カブトガニのてっぺんにある装置が回転したかと思うと、オレンジ色の光弾を連続して吐き出したのだ。

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