第426話、再び空へ
新たにリーレと橿原を迎えたウィリディス。
まずリーレの加入による変化。マルカス、サキリス、アーリィーの指導教官が増えた。リアナが格闘術や射撃を教えていたが、ここにきてリーレによる剣技、そして実戦魔法の指導が加わった。
「あたしも、昔、騎士学校に通っていたんだぜ」
と、そんな風には見えない彼女は言うのである。ただ指導は徹底して実戦に即したものばかりで、騎士らしいお行儀のよさは何一つ教えなかったが。
時々、ベルさんと腕試しとばかりに打ち合いするが、この不死身女もまた、魔王様と互角にやりあうものだから相当な化け物である。
彼女は、リアナ、それと半サキュバスであるエリサと良好な関係にあるようだった。何だかとっつき難そうな人間と友だちになるスキルがあるようだ。
あるいは魔獣剣士と名乗り、不死身である身の上と何かしら関係があるかもしれない。
そうそう、味覚障害だったリアナが、最近少し味がわかるようになってきているようだった。最近、食堂で見かけることが多くなった。どうやら精霊の秘薬は、彼女の失われた味覚を少しずつ治していたようだった。
次に橿原。何もなければ普通の女子高生である。だがウィリディスで出される料理――つまり、俺の世界でのそれについて知っている人物である。
結果、ウィリディス食堂のレパートリーが増えることになる。
「両親の代わりに、弟たちの面倒をみてましたから」
そういう橿原の料理の手際はこなれていて、包丁さばきも見事だった。彼女は魚料理に心得があり、あまり海の幸に縁のないウィリディス在住者たちや料理人を驚かせた。
魔力生成で作った魚とはいえ、マグロやイカの刺身には俺も感涙した。
板前! って言ったら、本職の人に怒られますよ、と橿原は苦笑していた。
目下、彼女は麺料理が作れないか試行錯誤している。パスタはあるけど、ラーメンとかうどんも食べたいなぁ。
橿原は、メイドのクロハとサキリスと親交を深めているようだった。拳を握れば圧倒的な力を持つ橿原も普通の女の子であるわけだ。
・ ・ ・
ウィリディスの地の一角に、ポータルの集結点、通称『神殿』を作った。
ディグラートル大帝国や、ヴェリラルド王国への道中にある国に先日、秘密拠点を作ってポータルを繋いだわけだが、その出口を整備したのである。
こちらから目的地へ移動するのがほぼ一瞬で済むわけだが、それは向こう側からも同じである。万が一、敵対存在がこのポータルを使うようなことがあれば、ウィリディスに直通で侵入することを意味する。
そうならないようにポータル出入り口にコピーコアの警備・監視装置もつけた。SS工作員にも、敵に利用されるようなことがないように非常時は爆破できるように指導してはいるが、万が一という事態もある。
神殿についても警備装置やSS兵を常駐させる。各ポータルの出入り口は小部屋となっていて、壁型のゲートを部屋の出入り口とする。
コピーコアの目によって識別し、味方なら自動ドアとしてゲートを開き、敵や不明の存在の場合はゲートを閉じたままにする。一見すると壁にしか見えないゲートだから、よほど注意深くなければ行き止まりと引き返すことになるだろう。
それでゲートを見破り侵入を図るなら、神殿はダンジョンとなって迎撃する。
建物の内装は、ピラミッドとか遺跡を思わせる整った大きな石で組み上げたような感じだ。
今後、さらにポータルが増えるだろうが、その時は地下へ掘り下げていくようにしていくつもりだ。
ポータル部屋のタワー。神殿本体とポータル部屋を分けて、浮遊移動式の足場で行き来するという仕掛けも面白そうだ。まあ、その場合落下したらタダで済まないので気をつけないといけないけどな。
さて、神殿作りがひと段落したら、前回の大帝国遠征ツアーの宿題にとりかかろうと思う。
例の移動中に魔力レーダーが観測した、高高度の謎の浮遊群である。
アーリィーは、浮遊島の話を出した。ヴェリラルド王国ではわりとポピュラーな伝説らしい。古代文明時代に人は空に島を浮かべ、鋼鉄の船を使っていたという。強力な力を持った天空人。
もっとも、前回見かけたのは、島ではなく複数の浮遊物体の集まりのようだが。ただ、それらの伝説の欠片なりでもあるのではないかと思っている。
例えば、エルフから譲り受けた浮遊石とかな。あれを含んでいるか、そのものだとすれば、あんな高空に浮かんでいる理由の説明にはなると思う。ま、行ってみればわかる。
というわけで、準備であるが、今回ポイニクスに搭載した防御障壁発生装置は念入りにチェックする。
機体の上面と下面に取り付けられたそれを見やり、ユナは眉をひそめた。
「シールドですか」
「魔力を流すと装置の魔法文字が障壁を展開する魔法具の発展型だな。本当はトロヴァオンやドラケンにも装備させたいんだけどね」
展開している間、魔力を喰うから見送っている装備だ。
ベルさんが俺の肩に飛び乗った。
「オイラのドラケン・カスタムには装備はないけど、自力で障壁を張ってたぞ?」
「ベルさんは魔力が有り余ってるからね」
戦闘機に乗りながら自分で障壁張ってるとか、よくやるよ本当。俺はベルさんの顎を撫でてやる。
「確認された記録によると、浮遊群が小惑星帯みたいに――と言ってもわからないか、まあ、大小さまざまなものが浮かんでいるから、その中を飛ぶとなると小さな浮遊物を避けきれない可能性もあるからな。シールドは必要だ」
「接近するのですか?」
「浮いているものが何かわからないからな。もしかしたら古代文明時代のお宝かもしれない。だとしたら放置するのももったいないだろう?」
「でもお宝じゃないかもしれない」
ベルさんが鼻を鳴らした。俺は首肯する。
「いないとは思うけど、伝説の天空人とやらがいたら面倒だからなぁ。まあ、その時のために掩護機をつける」
シェイプシフター戦闘機ファルケを1機、ポイニクスの胴体上方に乗せてケーブルで繋いで持っていく。
それ以上の面倒があった場合に備えて、トロヴァオンを3機、試製の増加ブースター装備で空中待機させる。……天空人なんてワード聞かなきゃ、ここまで用意しなかったけどな。
念には念を入れすぎかもしれないが、この世界の人間が届かない高高度だ。地上が知らないだけで、天空人とやらが生きている可能性だってある。
その場合、話が通じるといいけど。通じなかった時の備えはしておかないとな。
「で、ユナよ。お前はどうする? 来るのか? 来ないのか?」
「もちろん、行きます」
銀髪の女魔術師は淡々とポイニクスを見上げる。
「天空人や空飛ぶ物体と聞いて、興味がありますから」




