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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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423/1945

第421話、秘密拠点作り


 いやはや高いの何のって、猛烈な風を感じながら、落ちていく感覚。


 ヒーターの魔法薬と防御障壁、その内側に環境コントロールの魔法を使って俺は降下する。暗視ゴーグルで見てなかったら、これ高さがわからなかったかもしれんな。そのままいつの間にか地面に激突とか、ヤバイな。


 帝都が視界の端に映る。降下地点は結構、距離があるから、向こうからの目視でも見えないだろう。


 さて、みるみる高度が下がる。俺より先行するは、リアナの乗るパワードスーツ『ヴィジランティ』。

 両肩に増加ブースターを搭載した高機動機は、小刻みにブースターを使って降下しつつもその姿勢を保っていた。さすが降下経験があるだけのことはある。


 サキリスやベルさんは……こっちは直に空を飛ぶ経験があるためか、姿勢に乱れもない。人選に間違いはなかったな。


 それにしても、SS工作員たちな……。


 黒い球形が落下していくさまは、降下というより落下だ。物理耐性が高いシェイプシフターだけど、この高さで地面に激突したらどうなるんだろうか。潰れるのか、はたまた平然としているのか。興味深くはあるが、せめて綺麗に降りてくれよ。


 さて、飛び出した高さも高さだから、結構長く感じた降下時間。地表は雪が積もっていて真っ白だった。だが夜の側だとほんと見えないわ。


 リアナ機は背中、肩、そして脚部のブースターを使い、勢いを少しずつ落としつつ地表に落下する。それでも結構なスピードだから、見てるこっちとしては不安になる。もう、地面が近いが……。


 と、ブースターを最大で噴かしたのが見えた。降下速度がみるみる落ち、地面に衝突寸前にほぼ静止状態。雪を吹き飛ばしつつ着地。


 俺も浮遊魔法でコントロールし、ゆっくりとタッチダウン。低い高度での浮遊や飛行は、こちらも経験豊富なんでね。


 ベルさんも難なく雪原に――飛び込んで、その小さな猫姿が雪の中に消えた。埋まったのかな?


 サキリスは、その身体を覆っていたSS装備が変化し、いつものバトルメイド衣装に悪魔の翼を背中に生やした状態で、上空を旋回しながら降下していた。


 そして肝心の工作員たちは、パラシュートを開いたスライムみたいな状態で次々に、俺たちのまわりに降り立った。


 オーケー、ここまでは特にトラブルなし。俺は魔力を波動として飛ばして、周囲を魔法で索敵する。……人や生き物の反応なし。


 SS工作員たちがスライムから、人型に化けて、周りを警戒する中、俺のもとに、ヴィジランティ、ベルさん、そしてサキリスがやってきた。

 俺は方位磁針(コンパス)を覗き込み、方向を割り出す。


「向こうが帝都。ここから西だ。南西方向に森がある。そこに拠点をつくる。――斥候(せっこう)、行け!」


 SS工作員のうち二人が、俺の指示を受け、その姿を狼に変えると雪の上を駆けて行った。……積雪はおよそ10センチか。ま、靴先に浮遊かけて歩くからこっちは負荷はないんだけどね。


「こちらも移動する。……リアナ、ヴィジランティはどうだ?」

『問題なし』


 パワードスーツの魔力通信機越しに、簡潔な報告が来る。着地の衝撃で足回りがいかれたりするかもと心配だったが。あと、寒さでトラブったりとか。


 闇の中、暗視ゴーグルをつけて移動。空からも確認したとおりに森があり、その手前から帝都の明かりが彼方に見えた。

 さて、森に入ったすぐのところで、人がいないか確認した後、DCロッドを取り出す。


「それじゃ、作業を始める。見張りよろしく」

「あいよ」


 ベルさんが一度、森の外まで戻ると、魔力を飛ばしたサーチをかける。サキリスは羽根で木の上まで上がって高所から監視。リアナのヴィジランティや、SS工作員らはそれぞれ死角となる場所を埋めるように配置につく。


 ダンジョンテリトリー化を開始。そして杖を操作し、地面に穴を作る。範囲を指定して、その土砂を撤去。ダンジョン石で床と壁と天井を覆う。サフィロと違って、内装に使える素材は限定的だが、屋敷ではないので関係ない。


 部屋の配置はすでに決めてある。敵地であるわけだから、拠点設営は素早く終わらせるに限る。降下する前に敵性の存在は確認できなかったとはいえ、帝国兵はもちろん、現地の人間と接触するようなことは避けないといけないのだ。

 一般人ひとりと出くわすだけでも、かなり危険。自然と作業の手が早くなる。


 待機所、作戦室、ポータル室、倉庫、捕虜が出来たときのための牢、他に空き部屋を二つほど。全体としたらこぢんまりとした拠点である。


 必要な家具などは、ポータルを経由して運び込むとして……そうそう、魔力通信機と、それを繋ぐ魔力伝達線を置かなきゃな。他に拠点の動力用に、周囲の魔力を吸引してエネルギーに変換する装置と、充電器をストレージから出す。

 工作チームのリーダーを見やる。


「設置は任せるぞ」

「承知しました」


 シェイプシフターたちは、さっそく装置を伝達線と(つな)ぎ、動かせる状態にセッティングをする。俺はそのあいだに、ポータル室に行き、ウィリディス行きのポータルを設置する。


 出入り口については、さすがにウィリディス屋敷と直通にすると、敵がやってきたりすると危ないので、専用のポータルルームを作る。来る前に、一応、仮置きをしたのだが、帰ったらちゃんとしたものを作らないといけない。


 ポータルが繋がったのを確認したのち、SS工作チームに後を任せて、俺は表に戻った。擬装して、パッと見、地下への出入り口などが見えないようにする。


「リアナ、サキリス。戻るぞ」


 俺は声をかけつつ、森の外のベルさんのところまで歩く。雪上に、ちょこんと座って地平線を眺めている黒猫。


「終わったか?」

「ああ、あとはシェイプシフターたちに委ねる」


 俺の後ろから、ヴィジランティと、舞い降りたサキリスがやってくる。


『異常なし』

「静かな夜でしたわ」

「何もないのが一番だよ」


 万が一、発見されたりしたら足を運んだことが無駄になるからね。


 大帝国の中心である帝都の近くに、秘密拠点を作るという目的は果たした。俺はポータルを出して、空中のポイニクス機内に繋ぐ。

 そのまま雪上から帰還。ポイニクスの貨物区画。シェイプシフターの杖こと、魔女姿のスフェラが待ち受けていた。


「おかえりなさいませ、(あるじ)さま」


 ただいま、と声をかけ、俺は機体の操縦室へ駆け上がる。機長席にいたアーリィーは、俺が戻ってくると安堵の表情を浮かべた。


「おかえり、ジン。拠点はできた?」

「もちろん」


 答えながら機長席まで歩くと、安心したのかアーリィーは小さくあくびをした。何だかんだで、深夜も三時をまわってる。俺も眠くなってきた。


「お疲れ。一眠りしてきていいよ、アーリィー」


 うん、と頷いたお姫様は限界だったのか、目元をごしごしとこすりながら席を立った。その背中が可愛らしく見え、俺は彼女が暖めていた機長席に座るのだった。

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