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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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422/1945

第420話、帝都の空、スカイダイビング


 西の空に沈む太陽。空から地平線の向こうへ沈んでいく太陽というのもいいものだ。地平線に沿って走るオレンジのライン。地上も空も暗くなっているのと対照的であり、独特の彩りを見せる。

 いいなぁ、俺、こういうの好きだ。元の世界にいた頃はビルや高い建物で空が狭かったもんな。


 交代制を組んで、休憩をとっていた面々にも声をかけて、希少な光景を目に焼き付けることしばし、日が沈んで夜となった。


 俺たちの乗るポイニクス長距離輸送偵察機は、大帝国本国の上空を飛んでいる。


 真っ暗な空。俺のいた世界と違い、明々とした照明に乏しい地表は墨汁を塗ったように真っ黒だった。

 操縦席のパイロットはマルカスからSSパイロットに代わっている。ほとんど役に立たない窓からの視界を諦め、魔力を飛ばした反射を着色して表示する暗視パネルごしに外を見る。計器類での確認も忘れず、いつの間にか下降や上昇をしていた事態を防いでいた。


 大帝国出身であるエリサを呼んではみたものの、夜間の、しかも空から見下ろすのはだいぶ勝手が異なり苦労した。


 やはりというべきか、方向に若干のズレがあったようで修正しているうちに余計な時間を消費してしまい、日を跨いでしまった。道中、結構雲が浮いていたからな。もっともここにきて、その雲もかなり減っているが。


 そのおかげか、目的の帝都を見つけることはできた。何せ、そこだけ無数の明かりが灯り、目立っていたからだ。


「さすが大帝国の中枢」


 闇を溶かした地表にあって光り輝く都市。さすがに現代の都市に比べては光も少なく薄暗くも感じるが、他と区別が充分につくほどには目立つ。見つかってよかった、本当。


 俺がパネルごしに帝都の様子を眺めていると、エリサが口を開いた。


「あの中心で特に光っているのが、皇帝のいるゴブヘィール城」

「あそこに皇帝が……?」


 ベルさんがひょいと飛び乗る。


「あの城を吹っ飛ばしたら、手っ取り早くね?」

「皇帝がいるならな。どこかにお出かけしていたらどうするんだ?」


 実際、皇帝ひとり暗殺すれば、この大侵略戦争が終わるかどうかわからない。決着がつくならいいけど、後を継いだ奴が侵略を継続するなら結局変わらないしな。

 そのあたりの事情を明らかにするための、情報収集、潜入工作である。


 俺はアーリィーに声をかけた。


「どうだ?」

「いま、測定してる」


 測定席で、アーリィーが機器を操作している。帝都周辺の地形の走査、人の有無などなど。同時にコピーコアが記録をとっていた。


「魔力感知は?」

「ないね。……空から何かが来るって発想がないのかな?」

「このあたりには飛行する魔獣がいないのかもなぁ」


 ベルさんが適当な調子で言う。俺は口元をゆがめた。


「まあ、それを言ったら、ヴェリラルド王国の王都だって、魔力感知による警戒をしているわけじゃないからな」


 俺たちは魔力感知を機械という形で行えるが、それ以外となると魔術師か、その他魔力を察知できる生物頼みとなる。だから対空監視となると昔ながら目視が主流だ。


「空を飛ぶ船を持っているんだから、空にもっと目を向けていると思ったんだがな」


 俺は独り()つ。まあ、この闇の中、相変わらず目で見張っているのなら、こっちもやりやすい。


「降りられそうな場所はあるか?」

「帝都は平地にあるみたい。降りるだけなら帝都の周囲はどこでも降りられそうだよ」


 アーリィーが俺をみた。


「帝都の外に人の反応はなし。さすがにもう夜中だからね」


 街は明るいけどな。俺は帝都周辺の地形を見比べ、降下地点と秘密拠点の場所を決める。目標都市からは距離をとりつつ、近くに森林や丘がある地帯を定める。


「よし、ベルさん、行くぞ。アーリィー、ポイニクスを頼む」

「あいよ」

「了解」


 二人が答え、俺は操縦室を後に……する前にエリサのもとへ。


「じゃ、行ってくる」

「いってらっしゃい。これ、帝都の簡略図ね」


 ひらひら、とエリサは一枚の紙きれを手渡した。彼女の記憶をもとに作らせたものだ。


魔法薬(ヒーター)は飲んだ? 外は寒いわよ?」

「マイナス50度」


 高度1万メートル上空となると、その寒さは半端ない。ポイニクス機内はコピーコアによって環境が保たれているが、普通だったら防寒着や与圧装置が必要なところである。


「そんなに寒いの? あたしはただ、この時期、帝都は雪が降るのが普通だから寒いって言ったんだけど」

「なんにせよ、ヒーターの薬はありがたいよ」


 俺とベルさんは貨物区画へ降りる。そこにはすでにリアナがヴィジランティに乗り込んでいて、シェイプシフター工作員たちと、サキリスがいた。

 いつものメイド服ではないサキリスをみて、ベルさんがホッと声を出した。


「なんだよお前、またずいぶんエロい格好だな」

「え、エロいとか言わないでくださいな……!」


 羞恥に頬を染めるサキリス。彼女の今の格好というのは、さながら全身タイツのみを身につけているようだ。

 もとよりスタイル抜群の彼女が、その身体の線も露な姿ゆえ、何もしなくても性的なにおいを感じさせた。なんだっけ、あのテカテカのラバーなんちゃらってやつ……。


 まあ、致し方なし。なにせ高度1万メートルからのダイブだ。凍るような寒さの中、飛び込むのだから。まさか、メイド服のまま飛び降りるわけにもいくまい?


 サキリスのスーツはSS装備である。ある程度降下したら背中に背負っているように見えるシェイプシフターが翼を展開して、飛行する格好となる。低い高度なら、サキリスは普通に飛行に慣れているので、降下中に意識を失わない限りは問題ない。


「お前さんはいつもの格好だな、ジンさんよ」


 ベルさんの俺へのツッコミ。


「俺は防御障壁と環境コントロールで覆うから大丈夫さ」


 短時間なら火の中、水の中――冗談ではなく、本当に大丈夫だからさ。ベルさんは……心配するだけ無駄だろう。


 暗視付きゴーグルとヘルメットはしていく。あと呼吸用マスク。高高度で普通に息ができると思うなよ。俺の場合は魔法でいらないとは思うけど、念のためしておく。


 何かの間違いでそのまま落下死なんて洒落にもならない。……サキリスが完全にシルエットっぽい黒い人になってるが、仕方ないね。


 さて、機内に戻ってこれるようにポータルを設置。


『ジン、聞こえる? 準備はいいかい?』


 魔力通信機によるアーリィーの声。


「ああ、いつでもいいぞ」

『降下コースに入る。風が相当吹いているから気をつけて』

「了解。打ち合わせどおり、降下ゾーンに入ったら、グリーンのランプでしらせてくれ」

『了解。レッドライト!』


 貨物区の照明が赤に変わる。降下準備の合図。

 これが緑になったら飛べ、である。映画とかで見たけど、実際に特殊部隊上がりのリアナさんの指導によって、皆、手順や操作には慣れたものである。


 ハッチ開放の声と共に後部ハッチが開く。轟々たる風の唸りが耳につき、吸い出されそうな錯覚に陥る。


 ぽっかり開いたハッチが、まるでモンスターの口のなかのように深淵を覗かせる。赤く照らされた室内。俺はマスクをつけると、ベルさん、サキリスと見て、ヴィジランティを見やる。


 それぞれが俺を見ていた。……大丈夫、問題ない。


『グリーンライト!』


 室内灯が緑に変わった。――行け!


 まず先陣きって、レールの上を滑りパワードスーツ(ヴィジランティ)がハッチの外へ放り出された。まるでカタパルトだな!

 俺は、サキリスに頷くと駆け出し、夜の空へと飛び込んだ。


 一機と二人と一匹、そして複数の黒い塊がポイニクスからジャンプしたのだった。

2019年1月1日に、序盤(プロローグ2から12話まで新話追加を含む)の改稿をしました。

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