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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第417話、遠征目的


 商業ギルドで、ディグラートル大帝国の地図を購入することができた。パルツィさんが商人の紹介、購入の仲立ちをしてくれたので、思いのほか早く手に入れることができたのだ。わざわざギルドへ足を運んだ甲斐はあった。


 冒険者ギルド経由で、ポータルを使ってウィリディスへ。

 アーリィーをはじめ、主要な面々を会議室に招集し、いよいよ大帝国帝都への工作部隊潜入作戦の決行を告げる。


「今回の作戦の目的は、シェイプシフターの工作員を帝都に潜入させることにある」


 長距離大型偵察機ポイニクスで、高高度より大帝国領空へ侵入。帝都近くにSS工作員が降下。俺もそれに同行し、秘密拠点を設営する――


「ジンも降りるの?」


 アーリィーが目を丸くし、マルカスは身を乗り出した。


「団長が行くなら、我々も!」

「いや、あくまで秘密拠点と言っても、移動用ポータルと魔力通信機器を設置するだけだ。ダンジョンコアを使って手早くやったらポータルで帰るから必要ない」


 潜入した工作員たちが、遠く離れたヴェリラルド王国、いやウィリディスに素早く報告を送るために必要な拠点である。


「エリサには道中のナビを頼みたい。地図はあるから、必要な時に大帝国のことを解説してくれると助かる」

「わかったわ」


 緑髪の魔女、もとい白衣の天使さん姿のエリサは、朗らかに頷いた。以前より明るくなったように見えるのは、衣装のせいだろうか。


「ポイニクスにはポータルを作ってるから、何か所用があったり、体調不良でもウィリディスに戻ることもできる。……アーリィー、マルカス、俺たちは一応明日も午前は学校だからね」


 俺は一同を見回した。


「長い飛行になるから交代しながらやっていく。まあ、危険なことはするつもりはないから、ちょっとした社会見学みたいなものだ。気を楽にとは言わないが、適度な緊張感を持って仕事についてほしい」


 機内にポータルがあって移動が自由なら、緊張感を持ち続けるのは案外難しいかもしれない。最悪、ポイニクスの運用は、全員シェイプシフター兵で運用するのもありだ。


 何事も経験である。いずれ帝都でドンパチやることになる可能性も考えれば、アーリィーたちが付近の地形を直接見ておくことは無駄ではないだろう。


「スフェラ、整備員たちにポイニクスの整備とチェックは抜かりなくやるように伝えてくれ。例の降下ポッドも搭載しておくように」

「かしこまりました、(あるじ)さま」


 魔女型シェイプシフターは頷いた。


「何か質問は? ――ない? では解散」


 俺が告げると、それぞれが席を立つ。と、その前に。


「リアナ、それとサキリス、ちょっと来てくれ」


 俺が声をかけると、軍人さんと金髪メイドがやってくる。ベルさんがその様子を眺め、呼んでないがアーリィーが俺のそばに残って話を聞こうとする。


「リアナ、君は人型兵器で高高度からの降下って経験ある?」

「あります」


 即答だった。結構結構。


「ヴィジランティの強化ブースターユニット装備だけど、あれで高高度から降下に耐えられるだろうか?」


 戦闘用パワードスーツであるヴィジランティには大ジャンプや加速用のブースターを搭載しているが、それとは別に高機動用の追加ブースターポッドを作って、現在運用試験中だったりする。


「問題ないと思います」


 リアナは顔をあげた。


「降下試験を今回実施するのですか?」

「実戦でそういう使い方をする可能性もあるからね」


 要するに空挺降下。飛んでいる飛行機から戦闘員を飛び降りさせて、任務に当たらせる。俺のいた世界だとパラシュート降下する空挺隊が有名である。

 もっとも、今回の作戦は、パラシュートこそないがSS工作員たちを、高高度を飛行するポイニクスから降下させるので、一種の空挺作戦と言える。


「了解しました。早速、降下する機体の選定とチェックを行いたいのですが」

「ああ、任せる」


 では、と敬礼と共にリアナは退出した。サキリスが待っていた。


「サキリス、君はこの中で一番シェイプシフター装備の扱いに慣れている。そうだな?」

「はい、ご主人様」

「ということで、高高度からのスカイダイビングに君も付き合ってもらう。ちょっと試したいSS装備があるんだが、詳しくはスフェラに聞いてくれ」

「え、は、はい! お供いたします!」


 指名されると思っていなかったのだろう。しかしサキリスは光栄だと言わんばかりに顔を紅潮させて頷いた。アーリィーが少し羨ましそうな顔をした。


「君には、空からナビを頼むよ。俺がいない間、ポイニクスは君に任せるから」

「わかった」


 アーリィーが頷いたので、俺はその髪を撫でる。


「観測データの収集は大事な役割だからね。指揮も頼むぞ」


 うん、とお姫様は目を細めた。ベルさんが小首をかしげる。


「またぞろ、新しいことを試すのかい?」

「せっかくの機会だからね。やれる時にやらないと」

「大変だな」

「なに他人事みたいに言ってるんだ? ベルさんもスカイダイビングするんだよ」

「オイラも行くのかよ?」

「行かないつもりだったのか? 相棒」

「あーあ……空の上って寒いんだぞ」

「知ってるよ」


 俺は黒猫の首根っこを捕まえると、抱きかかえて作戦室を後にした。 



  ・  ・  ・



 明日に備えて、と言っても、とくに普段と変わらない。学校とその後の遠征を考えると、疲労を溜めないように早く寝るくらいか。


 俺はアーリィーとウィリディス食堂で夕食をとっていた。晩秋も近いとあって、夜ともなると寒いので屋内席だ。穏やかなオレンジの魔石灯が列をなして照らす室内は、不思議な暖かさで視界を満たした。


 チキン南蛮、うめぇ。鶏肉の揚げ物はたまらない。まあ、それはともかく、明日、ポイニクス内で食べる弁当の話をする。


「機内でも簡単に食べられるおにぎりにするつもりなんだけど」

「おにぎり!」


 アーリィーは目を輝かせた。ウィリディスでは米食も普通に出るので、アーリィーも全然大丈夫な人間だ。ただ、マルカスをはじめ、米よりパンが好みな人間も多いけど。


「具材は何がいい?」

「しおか、焼きおにぎりがいいな!」

「うーん、焼きおにぎりはどうかな……」


 俺も好きだけどさぁ。


 かつて長時間空中任務に就いたパイロット向けの航空弁当というものがあったが、日本海軍では巻き寿司とかおいなりさんを食べていたという。


 香ばしい醤油で味付けされた焼きおにぎりは……アツアツで食べるのがオツではあるが、航空弁当としてはどうなのか。


 そういや、うちの面々は梅干や昆布が、ちょっと苦手な人が多いんだよな。好きだと言って食べてくれるのが、ベルさんと最近加わったダスカ氏しかいないのが寂しい……。


「兄貴、アーリィー!」


 その時、ジャルジー公爵の声が食堂に響いた。

 お、来たな――俺は小さく手を挙げ応える。今日は来ないかもと思っていたよ。

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