第410話、不死鳥の名を与えられしモノ
浮遊石。この青い物体は、魔力を通して命令を与えると、浮かび上がる代物だ。
それだけ聞くと、浮遊魔法と対して変わらない。だがこの巨大な魔石のような石が凄いのは、接触しているものを魔力を消費させることなく浮かばせる力を持つことと、飛行するために必要な抵抗を限りなくなくす効果があることだ。
本来飛行することが不可能な魔法装甲車デゼルトに浮遊石を載せたところ、まるで風船のように空へと舞い上がった。飛ぶのに効率的なボディでもなく、翼もないのに、である。
さながら気球のようだが、装甲の塊が浮かぶのだから、それ以上の代物だと理解できる。……ぶっちゃけ、どこまでも上がっていくのであの時は焦ったけどね。
それでは航空機に載せたらどうなるのか?
組み上げ途中のトロヴァオン9号機に、無理やり搭載スペースを作って浮遊石を載せてみた。
その結果は劇的だった。
魔石エンジンは元のままにも関わらず、その速度が飛躍的に向上。なにせ低出力にも関わらず最高速度に匹敵するスピードを発揮したのだから恐れ入る。
おそらく機体の重量と空気抵抗がほぼ無視された結果だと思われる。
搭乗したSSパイロットの証言によると、運動性も相当で操縦桿が軽く、機体が過敏なまでによく反応したと言う。
どうやら空気抵抗は完全になくなったわけではなく、舵についても浮遊石のほうで増幅しているようだった。
正直、俺自身も何で舵のコントロールがよくなったのか首を傾げたのだが、実は浮遊石とリンクしていたコピーコアが石にそう命令を発していたことがわかった。
浮遊石はただ浮くだけのアイテムではなかったのだ。
さらに驚くべきは、抵抗の減少により魔力消費量が極端に低くなり、航続距離が圧倒的に伸びた。
例えばウィリディスからエルフの里へ飛んだとき、増槽の魔力タンクをいっぱい積んでも一回補給を必要としたが、浮遊石搭載状態なら、無補給で余裕で往復できる計算になる。
なにこのチート? 古代文明時代の遺物だとすれば、どれだけ発達していたっていうんだ……。
トロヴァオンのE-4型魔力エンジンには、大気中の魔力を吸収してエンジンの魔力の足しにする機能がついている。巡航速度以下で飛行した場合、浮遊石搭載機は、魔力の消費が回復を下回るため、ほぼ無限の航続距離を得ることとなる。
まあ、機体が無限でも、狭いコクピットでパイロットがどれだけ耐えられるかは別問題なんだけどな。
この浮遊石を戦闘機やヘリに搭載すれば……と夢は広がる。
基本的にそこまで航続距離が必要ではないから、移動や運動のために使っていた魔力を武器のサンダーキャノンに回して威力アップを図ることができる。また魔法障壁を機体に張るシールド機能を搭載する余裕も出てくる。
戦力の大幅アップ! ……なのだが、残念ながら浮遊石はひとつしかない。
サフィロに複製できないか解析させたのだが、答えは『不可能』とそっけなかった。
本当に残念だ。
そうなると、この貴重な浮遊石を有効活用する方法を考えるわけだ。
導き出された結論は、重量無視と無限に等しい航続距離を活かす形――観測機器を満載した長距離偵察機を作るという案だった。
敵地を飛ぶ強行偵察機ともなれば速度が重要になってくるが、そもそもこの世界に高度1万メートル以上を飛行できるような存在は確認されていないため、高高度を飛行する限り、安全だった。
ちなみにトロヴァオン9号機は、浮遊石搭載テスト時、高度二万メートルまでの上昇を記録した。エンジンが悲鳴をあげたため、それ以上は試せなかったけど。高高度は凄まじく寒いからな。SSパイロットは平然としていたが、普通の人間が乗っていたらもっと早く寒さに気づいて引き返していただろう。
さて、俺は長距離偵察機の設計を行う。正直、浮遊石を載せるならどんな形でも問題ないが、いちおう形としては飛行機の体裁を整えておく。構造計算や細部の作りなどは、サフィロが補正してくれるので、俺は外面と必要な能力、そして配置を行った。
画を描くのは得意でね。もっとも浮遊石にとってみれば形はどうでもいいらしいから、例えば巨大ウサギみたいな形でも飛ぶのだけど。
ウィリディス第三格納庫内で、魔力生成されたパーツが次々に生み出され、それを人工コアが組み上げていく。
まるで機械化された自動車工場でパーツをはめ込んでいくさまに似ている。違うのはメカニカルなアームはなく、パーツが勝手に浮いて、それぞれ収まるべき場所へはまり、接続されていくというところだ。
ダスカ氏は折り畳みの椅子に座り、その様子を見ながら苦笑していた。
「本当に、サフィロの力というのは凄まじいものがありますね」
誰もが欲しがるはずだ、と老魔術師は言うのである。ユナは首を横に振った。
「確かに欲しくはありますが、あそこまでコアの力を引き出すのは、お師匠でなければ不可能です」
「確かに。仮に私がダンジョンコアや人工コアを所有したとしても、こんなの思いつくはずがない!」
コクリとユナは頷いた。二人の視線を感じながら、俺は作業を続ける。ホログラフ状のパネルを操作するだけだけどな。
偵察機としながらも、同時に輸送機としての機能を持たせる。浮遊石が一つしかないから、色々使えるようにしようという考えだ。
先にも言ったが、高高度で敵がいないということも、そういう余分な部分を追加する考えを後押しした。もし高高度にも敵がいるなら、余剰は削ぎ落として、速度や運動性に性能を振り分けるんだけどね。
とはいえ、防御装置、いわゆる魔法障壁は装備させる。もしもの備えだが、低高度を飛んでいる時に狙われる可能性だってあるからな。
機体はかなり大型化した。長期での空中任務に備えてトイレや簡易キッチンも装備したためだ。
速度を制限すればほぼ無限の航続距離があるとはいえ、中の人間はそうはいかない。高高度での飛行に備え、与圧処置、外装や装備の凍結対策も行う。
長さと幅は40メートル越えの大型機である。
偵察特化なら、もう少し小さくできただろうけど、高高度から地上を撮影、観測したり、索敵用の機器や地図作成のための機材など色々載せることを考えると、余裕はあったほうがいい。
機体の外側が組み上がると次は内装に手をつける。待機していたSS整備員が、俺の指示に従い、魔力伝達線の配置や各種装備、機材を載せていく。
「ジン君」
ダスカ氏が俺を呼んだ。
「この航空機には、どんな名前をつけたんですか?」
「ポイニクス」
不死鳥、いわゆるフェニックスである。ポイニクスは確かギリシャ語だったと思う。
名前について、ちょっと思うところがあって、これまでのTF戦闘機シリーズも、頭文字が異なるものを選んでいたりする。
TF-1ファルケはF、TF-2ドラケンはD、TF-3トロヴァオンはT。略号で書いた時に分かりやすくするため、という考えで、今回の汎用偵察機もポイニクスでPとした。
フェニックスでもいいかな、と思ったんだけど、ファルケとちょっと響きが近いからなと敬遠した。
なお、不死鳥は、国によってPかFになる。フェニックスもPだったと思うが、Fで始まる国がいくつかあったと思う。
閑話休題。
ウィリディスの豊富な魔力や貯蔵された魔石資源をどんどん使うことで、大型の偵察機は、日を跨ぐことなく完成した。昔の個人魔力でコツコツやってたら、何日かかったかわかったものではない。
TR-1ポイニクス。
長距離偵察ならびに観測任務を行う専用の機体は、動作テストを行った後、搭載した機材の試験を行いながら実際に飛行する予定だ。
それが順調にいけば、近いうちにディグラートル大帝国本国、その帝都を偵察する。




