第392話、異世界(料理を出す)食堂を作ってみた
人の侵入を阻む陸の孤島であるウィリディスであるが、ここ最近、そんな人を寄せ付けないはずの地を訪れる人が増えている。
王城、冒険者ギルド、北方はクロディス城、それとエルフの里ヴィルヤに俺がポータルを設置したためではあるが。
基本的に、ウィリディスの地を訪れることができる者は限られている。主に王族関係者、その護衛、一部冒険者、そして一部のエルフなど。
最近の来訪者は職人系が増えている。ガエアとノーク、魔法甲冑関係者のほか、王族御用達の料理人たちがそれだ。
ウィリディスの上級品質の料理素材に、数多くの調味料や香料。さらに進んだ魔法調理具があるこの地は、料理人にとっても天国だった。
現代風料理の数々は、この世界の料理人たちには衝撃で、俺がメイドさんたちに伝授した一般料理を、これら料理人たちが学んでいた。
最初はウィリディス第二屋敷のキッチンを利用して指導を行っていたが、すぐに料理人の数が多くてパンクしたために、専門の大型調理場兼食堂を作ることになった。
場所は第二屋敷の裏手の斜面を切り開き、半地下式とした。
すっかり定住されているフィレイユ姫殿下や、やってくる王族の方々の部屋からのパノラマを妨げることのないように自然の中に隠している格好である。
ただ食堂は一部天井や壁を開いてテラス席としたことで、太陽の光を充分に取り入れることができ、夜ともなると飾り立てた魔石灯が幻想的な雰囲気を醸し出す。結果、王族もこの食堂で食事を摂ることもあった。
俺もアーリィーとデートがてら夕食をそこで摂ったこともある。隣接する調理場で料理を作るのが、俺やメイドさんから学んだ知識を持った宮廷料理人だけあって、大変美味しくいただいた。
もともと俺よりも、はるかに食材に向き合ってきた時間の長い料理人たちだ。異世界料理を取り込み、より美味しいものへと発展させていくことだろう。
正直、彼らに食材や調味料を提供する一方、俺も自分の作るそれより美味しい料理が生み出され、それを味わうのを楽しみにしている。
さて、作る人がいれば食べる人もいるわけで、マルカスやユナら最初からの住人のほか、ダスカ氏、そして冒険者ギルドからヴォード氏やラスィアさん、さらにエルフの里からカレン女王や側近がお忍び訪問することがあった。
たまたま訪れたエマン王とカレン女王が遭遇してしまい、急遽、会食になったこともあった。
「それはぜひ見てみたかったな!」
楽しそうに言うのは、冒険者ギルドのギルド長ヴォード氏だった。最近、お昼はウィリディス食堂で摂る御仁である。好物はカレーライス。
俺とアーリィーも昼で学校が終わり、今日はこちらでランチを摂っている。
本日はカレーはカレーでもカレーピラフ。見た目は黄色いチャーハンみたいに見える。細かく刻まれた玉葱にピーマン、ウインナーが入っていて、彩りも鮮やかな一品。
もともとピラフのもととなった料理は古代インドから始まったのが、中近東に広がり、東ヨーロッパへと広がったものらしい。
カレーピラフはぴりっと辛いのだが、ヴォード氏は、カレーライスのほうが好みだと評した。好みは人それぞれである。
「国王陛下とエルフの女王の会食か……」
「冗談じゃないですよ。部外者でいられたらそれは見物でしょうが」
「ジン、ふたりの間に挟まれる格好だったもんね」
アーリィーがころころと笑うのである。
「半分くらい、俺の話だったしな」
エマン王の知らない、俺がエルフの里に関わった経緯だとか、カレン女王が知らない、俺のヴェリラルド王国での武勇伝とか、そんな話。
共通の話題、いや共通の知人の話題というやつだ。
「そういえば、王国軍は魔法甲冑とかいうのを作っているらしいな」
ヴォード氏が話を変えた。
「武術大会でマッドハンターという傭兵が……ああ、説明はいらんな。何せ対戦してお前が負かせた奴だから」
「口の軽い奴もいたものですな」
魔法甲冑は王国軍の機密だと思っていたのだが。ヴォード氏があっさり口にしたところからして、巷で噂になっているのではないだろうか。
「先日、王都騎士団から冒険者ギルドに、その魔法甲冑の実戦演習をやりたいから、手ごろな場所がないかと相談を受けた」
「へぇ……」
王国軍――というか国王直轄の騎士団である王都騎士団やジャルジー公爵の軍で、魔法甲冑の開発と配備の計画が進められている。
俺がヴィジランティなんてパワードスーツを作ったことで、エルフの職人ガエアが製作していた魔法甲冑も大幅に修正が加えられている。
数機あればいいかな程度で作ったウィリディス製パワードスーツは高コストである。
俺はある程度の量産も考えてはいたが、コピーコア、保有する大魔石に、魔力生成で生み出す魔法鋼材の組み合わせなど、ウィリディスの外で作るのは素材調達から困難を極めていた。
そもそも人工筋肉繊維、コピーコアをどこから手に入れるというのか。
そんなわけで、ガエアはヴィジランティの設計をもとに、一般での量産に向けたモデルを製作中だ。廉価版というやつである。
コピーコアは「出所を探らない」「解析しない」条件で、ウィリディスから販売供給。人工筋肉繊維については限定的な使用に留め、装甲材などもグレードが下がったものを使用する。機体が重くなってしまうから、重量軽減魔法に消費する魔力負担が増えるので、稼働時間が下がる。
現実では、試作モデルより量産モデルのほうが性能がよいとされることが多い。
量産型が低性能なのは創作の世界の話だけと思っていたが、コストと素材という問題の前では止むを得ないということか。
「さて、ご馳走さまだ」
ヴォード氏が口をハンカチで拭うと会計の合図をする。控えていたシェイプシフターメイドがやってきて料理代金の清算。ウィリディス食堂は、お金をとります以上。
「料理人に美味だったと伝えてほしい。それと、土産の菓子パンを頼む」
「かしこまりました」
すっかり常連であるヴォード氏である。
土産菓子はシュークリームだったり、チョコやメロン味のクリームを使った菓子パンだったりする。いつもバスケットいっぱいに購入していく。彼個人が食べるのもあるが、大半はギルド職員たちのおやつである。
そう、冒険者ギルドの職員たちは、ウィリディス食堂に来ることは出来ないが、菓子パンを味わう権利を獲得しているのだ。だから時々、俺がお菓子を持っていくと受付嬢たちから大変喜ばれたりする。
「今日はギルドに寄らないのか? 最近付き合い悪いぞ」
ヴォード氏が困ったような顔で俺を見るのである。……まあ、色々ね。
俺は俺で、パワードスーツのプロトタイプができたことでひと段落したのだが、まだ軽装スーツのほうが仕上がっていない。
軽装スーツ型は付加する魔法効果、その他防御面の調整や装備の選択に難航しており、形としてはできているのだが、まだ完成していないのだ。
何故だかわからないが、フィレイユ姫殿下が、やたら軽装スーツに関心を示されていたりする。
アーリィー曰く、自分のお付きの護衛メイドに着せたいんじゃないかな、とのこと。近いうちに本人に聞いてみるか。
「何かトラブルでもありましたか?」
水を向ければ、ギルマスは顔を険しくさせた。
「トラブルというかな。……最近、王都じゃ『グリグ』とかいう薬が流行っているみたいでな。それ絡みで、面倒事の件数が増えているんだ」
薬? 流行っている、面倒……。麻薬の類だろうか?
「あー、それともうひとつ、これはまだ確証がない目撃情報なんだが――」
ヴォード氏は表情を変えると、逆に小さく口もとに笑みを浮かべた。
「王都にサキュバスが現れたらしいぞ」




