第390話、パワードスーツを作ろう
リアナが加入後、ウィリディスでの軍備やその能力について、さらに精鋭化が進んでいた。
ウィリディスでの航空戦技訓練――ドラケンを操るリアナに、模擬空戦を挑んだ我らがトロヴァオン小隊であったが、残念ながら一歩及ばなかった。
なお、うちのエースであるベルさんとは現在四戦して二勝二敗のタイであったりする。リアナの存在は、ベルさんにとってもいい刺激となっているだろう。
そのリアナであるが、王都の魔法甲冑工場を見たことで、パワードスーツないし人型の機械歩兵が必要と訴えた。
「というより、わたしは元の世界ではそちらが専門だった」
狙撃ができて、戦闘機も操れて、ロボット兵器のパイロットだった、と。……いやはや君、スペック高すぎないかね。特殊部隊ってのは敵地潜入して何でもやるようなところだったのかねぇ。
17歳という普通に軍人としてありえない年頃。強化人間だからと、幼少の頃から軍で作られた存在らしいリアナではあるが――どう考えてもよろしくない環境だったんだろうとお察しする。
訓練後の反省会がひと段落した後、俺、ベルさん、アーリィー、マルカスは、リアナの人型兵器必要論を聞くことになった。
「最大の理由を挙げれば、先日の工場視察でジャルジー公に説明したとおり、オーガや大型魔獣に対した際の交戦能力の向上にある」
航空機の支援が望めない状況下で、歩兵が持つ武器で対抗できない場合に備えるのである。ぽん、とアーリィーが手を叩いた。
「確かに、オーガとかが出てきた時に、毎回戦闘機を呼ぶわけにもいかないよね」
「室内だったら、いくらトロヴァオンでも掩護できないもんなぁ」
マルカスも同意した。リアナは、とうとうと続けた。
「通常、ひとりで持ち運べない重装備を単独で持ち運び、運用できるメリットがある」
「重いものを運べるというのは認める」
俺は、機械人形のように微動だにしない少女軍曹を見た。
「だが、重火器の使用というのであれば、人型でなくても戦車やその他車両でもいいのではないかな?」
重機関銃や携帯弾数が少ないミサイルランチャーを運ぶより、戦車砲をもった戦車なら火力も上ではないか。
「お言葉ですが団長。人型兵器は、車両などが進入できない地形への進出が可能です。また車両では対応できない起伏が激しい地形での位置取りが可能になる点も見逃せません」
もっともではあるが、それは人型兵器の大きさや重量にもよるから、現状何とも言えないな。
「いいじゃないか、ジンよ」
黒猫姿のベルさんが首を捻った。
「人型の兵器って、要するにゴーレムみたいなもんだろ? そりゃ場所は選ぶけど、使えると思うぜ?」
「まあ、そうだな」
青藍などのバトルゴーレムもそれなりに活躍してくれている。戦場にいると自然と頭数に入れているしな。
作るのは俺なんだろうけど……。バトルゴーレムの有人機仕様として作ってみるか。
それに、大帝国では、大規模なゴーレムを投入した野戦戦術が、かつての連合国を圧倒していた。対抗する意味でも無駄にはならないだろう。
「わかった。パワードスーツを作ってみよう」
もちろん、要検討ではあるのだが。
・ ・ ・
要するに服を着るようなものだ。
外側に装甲をまといながらも、動けるように身体の関節や稼動部位に柔軟性を持たせる。むろん防御力を高める装甲の分、重量が増すので、中の人間が動かすことができるように作らなくてはいけない。
ということで、いくつか作ってみる。
脚部と腰、そして背中部分で構成される、主に移動面のみを追及した試作型。仮名称『ハイエアブースター』。
エアブーツの浮遊機能を持たせつつ、加速機能を強化。だが足だけの加速だと身体がついてこれないので、背中部に瞬間的加速を行うブースターを取り付けた。
浮遊で地面より浮かび、背部ブースターが圧縮空気の爆発を加速に使用して、高速移動や大ジャンプを行う。……元の世界でロボットものに触れている俺からしたら、人型兵器にブースターつけて、というのはある意味お約束だろう。
ダミー人形ならぬシェイプシフター君にハイエアブースターを装着させて飛ばしたところ、一瞬のブーストで50メートルを瞬きの間に通過した。
これは従来のエアブーツの加速よりも断然速い。
俺が、また何か作っていると聞けば、ウィリディスでは野次馬がやってくるもので、フィレイユ姫殿下や、ジャルジーが見物にきた。
「人が吹っ飛んでいきましたわ!」
「……この加速、魔法甲冑にも活かせないものか」
前者は見たままの驚きを露わにし、後者は難しい顔で開発中の魔法甲冑に採用できないか考える。
「あのジャンプがあれば、敵の迎撃の間もなく高い城壁も超えられるのでは」
「可能だろうね」
一瞬ではなくブーストを継続すれば、もっとスピードも出るだろうな。
「だが、おそらく人間のほうが空気抵抗に耐えられなくなる。少なくともヘルメットなしだと目も開けていられないだろうし、変顔をさらすことになるだろうね」
そういえば、俺の世界でもジェットパックとかそんなのがなかったっけ。
さておき、開発中のパワードスーツは、ガエアの魔法甲冑同様、装甲をつけるつもりでいる。その試作一号には、前面に飛来する矢の直撃に耐えうる装甲を装備させる。
で、その装甲を人が着込むわけだが、当然、全身鎧を着た人間が俊敏に動けないのと同様、このままでは重量で身動きとれなくなる。
俺やユナが製作するのを横で、ダスカ氏が興味深げに観察する。
「ジン君、この重量問題をどう解決するのですか?」
動けなければただの的だ。
これに対する回答は――
その1、装甲に軽量化魔法を施す。
その2、人工筋肉を装甲の内側、関節などに貼り、中に乗り込む人間をアシスト、筋力増強により重量物を持ち上げる。
「おそらくガエアの魔法甲冑も、装甲は魔法で軽量化していると思う」
俺は、マッドハンターの魔法甲冑を思い出す。ガエアから細部を聞いていないので推測だが、彼女はあくまで鎧の延長と言っていた。あくまでプレートメイルの防御力に、俊敏さと移動速度を与えた代物だろう。
だがそうなると、あの背中に積んでいた武装、ファイアボールポッドとサンダーキャノンの重量はどうクリアしたのだろうか?
重心が後ろに偏るから、まっすぐ立つだけで、軽量化魔法だけでは不足。中の人間には相応に負担がかかるのではないか。……あれもパワーアシスト的な魔法か仕組みが採用されているのかもしれない。
「こっちは軽量化魔法と人工筋肉の二つで、問題を解決する」
どちらかだけでも動けるようにはするけどね。
「ジン君、その人工筋肉とは何なのですか?」
「生物の筋肉を、他の素材に置き換えたり機械的に作ったものだな。別に何かの動物の筋肉を使ったとか、そういうものでもない」
たしか、特殊なナイロンが人工筋肉繊維の素材に使われている、と言う話を小耳に挟んだことがある。何でも熱を加えることで、曲げたり伸ばしたりするので、より生き物の筋肉に近いものになるとか何とか……うーん、うろ覚え。
正直言うと、俺にもそういうのがあったとしか知らない。
だから人工ダンジョンコアであるサフィロに、そういう素材はないかと相談した結果、適当なものを用意してもらったというわけだ。
まあダンジョンコアさんにかかれば、人工筋肉どころか、登録されている魔獣の本物の筋肉だって作れてしまうのだが。
いっそ、本当に生体部品を使ってみるか、などと思ったが一から研究している時間もないので今回は見送りである。




