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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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388/1934

第386話、師弟談話

 

 昼までの授業が終わり、俺たちは青獅子寮地下ポータルを経由してポータルへ戻った。ダスカ氏をウィリディスに招く。彼からは最近の連合国と大帝国の戦況や情報を話す約束となっていたからだ。

 ついでにランチにご招待。……誰だよ、ガッツリステーキなんて献立に入れたの?


「オイラだよ」


 しれっとベルさんが答えた。急な昼のステーキは、黒猫大魔王のオーダーだったらしい。


「美味ですね。なによりこのタレが肉の味を引き立てている」


 ダスカ氏は、結構なボリュームのある肉をぺろりと平らげていた。


 ちなみに何の肉かとメイド長のクロハに聞いたら、本日の再現肉はフロストドラゴンだったらしい。霜竜のステーキ……霜降りではない。


 屋敷を見たいというダスカ氏を案内。キッチンの調理魔法具、家具、適温に保たれた室内、その快適ぶりに舌を巻いた。


「よくもまあ、ここまで住み心地がいいように(しつ)けたものですね」


 ダスカ氏は俺がDCロッド――ダンジョンコアを所有していることを知っている。まあ、ここを建てたダンジョンコアは、人工コアのサフィロだけどな。


「もし部屋に空きがあれば、ここに越したいのですが」


 俺の家はアパートやマンションじゃないんだぞ。


「部屋がなければ、近くに適当な家を建てる許可をもらえませんか?」

「ダスカ師匠の家は?」

「師匠はやめてくださいジン君。私は王都出身なんですが、国を離れる時に家は処分しました」


 戦争に加わる、ということで帰ってこれる保障がなかったからだった。身辺整理は済ませていたということだ。


「それで来年から、学校で教官をやるということで、今部屋を探していたところなんですよ」


 荷物は――ああ、収納魔法つきのバッグ持っていたな、ダスカ氏。

 まあ、ダスカ氏は俺の英雄時代を知り、死線を潜り抜けてきた仲だ。また連合国に対して俺が抱いている心境も理解している。なら、いいだろう。彼なら隠し事もないしな。


「ベルさん?」

「オイラも異論はねえよ」

「なら、決まりだ。よろしくダスカ氏」

「こちらこそ、ジン君」


 戦友同士の握手。


 その後、アーリィーや家人たちに正式にダスカ氏を紹介。アーリィーやサキリスはダスカ氏に直接会ったことはないものの、名前は知っていて大感激していた。さすが地元の有名人。


 ダスカ氏には地下格納庫を見せ、そこで戦闘機群を披露した。


「ついにここまでやったのですね」


 魔石エンジンで空を飛ぶ乗り物に、興奮を抑えながらダスカ氏は言った。彼は俺が魔法車を作ったことは知っているので、驚きはしたが驚愕まではしなかった。


 直後、アーリィーとマルカスが乗るトロヴァオンが格納庫から発進し、ウィリディスの空へと飛び上がった。


 少し遅れてドラケンが一機、飛び立つ。乗っているのはベルさんではなく、リアナだった。ウィリディスへやってきた元軍人は、そのキャリアを活かし、アーリィーたちに空中戦の手ほどきをするのである。


 この世界での飛行時間は圧倒的にアーリィーやマルカスが上にも関わらず、リアナはドラケンを手足のように乗りこなしていた。

 そして赤子の手を捻るように二機のトロヴァオンの後方に回りこんで、撃墜判定をプレゼントした。


「大したものですねぇ」


 のほほんとした調子でダスカ氏が空中戦を見上げる中、俺は冷たい汗を背中に感じた。……やばいな、リアナ。俺、空中戦であいつに勝てる気しねぇ。


 うちで互角にやれるとしたらリミッター外したシェイプシフター戦闘機か、ベルさんのドラケン・カスタムくらいじゃなかろうか。


 ウィリディスの兵器をダスカ氏に見せつつ、大帝国の兵器についての説明を聞く。


 それが終わったら、魔術師先輩を空き部屋のひとつに案内して、しばしの休息。夕食時に歓迎会を開くことになった。


 皆を集めての一次会は、フィレイユ姫殿下も参加しての食事会。ちゃっかり姫殿下は、地元出身の大魔術師に、魔法を教えてほしいという希望を伝え、指導の約束をとりつけていた。


 続いての二次会は、俺、ベルさん、ユナ、そしてダスカ氏の弟子だったというラスィアさんを冒険者ギルドから呼んでの飲み会となった。関係深い者たちだけの集まりでダスカ氏を歓迎した。


「そういえばダスカよ。お前さん、相変わらず童貞なのか?」


 だいぶ酒の入ったベルさんが、容赦なく言い放った。ちなみに今は人間モードだ。


「ベルさん、私もこの歳ですから、そうそう嫁に来たいという奇特な女性はいませんよ」

「人間の寿命は短いからなぁ。お前さん、いま幾つだっけ?」

「55ですね」

「あと10年生きれば御の字か」


 この世界の一般的な人間の平均寿命は、俺のいた世界に比べて短い。環境が寿命を縮める。魔獣云々もあるが、冬ともなれば寒さに震え、食生活も現代ほど豊かでない世界だ。


「でもどうだろうか。このウィリディスの整った環境と食生活なら、もう20年はいけると思うけど」

「歳の話はやめにしませんか!」


 と声をあげたのはダークエルフのラスィアさんだった。

 エルフの寿命は長いが、ダークエルフは実際のところどうなんだろう? 気にはなるが、ラスィアさんは歳の話は忌避しているところがあるので突っ込めない。 


「まあ、人間でいえば、完全に行き遅れだもんな……」

「ベルさん、いま何か言いましたかー」


 にこりと笑顔でベルさんを見るラスィアさん。ベルさんは意地悪く唇を歪めた。


「なあ、ダークエルフの結婚適齢期って幾つなんだ?」

「っ……!?」

「なあ、ジン。人間の適齢期は早いんだよな?」

「寿命が短い分、早くはなるね」


 俺は、黙々と赤ワインを呷っているユナへと視線を滑らせる。


「たしかユナは22だっけか? どうなんだ、結構ヤバイ?」

「……」

「まあ、一般的に20過ぎた女性で未婚だと遅いほうでしょうね」


 ダスカ氏はちびちびと酒を飲んだ。ベルさんが声を上げて笑った。


「はい、55の童貞がそんなことを言っておりますが! どう思うね、アーリィー嬢ちゃんと結婚するジンさんよー」

「そういえばまだ婚約しただけなんだよな」


 いつ結婚式を挙げるかとか、まだ話し合ってもいない。アーリィーは何も言わないけど、子供が先にできて、現代で言うところのできちゃった結婚とかになっちゃうのかな……。


「そういうベルさんはどうなんですか?」


 ラスィアさんが挑む。未婚者ばかりである今、わからないのはベルさんだけであるが。


「オレ様はハーレム囲う立場の人間だからな。ヤリまくりだぜ~。妻は……何人いるんだっけか。昔のことで忘れた! がははっ!」


 この人の場合、本当にそうだんだろうな、と思う。だがラスィアさんとユナは、魔王様のことを知らないので疑っているような目を向ける。

 だが豪快に笑うベルさんに突っ込む気が失せたのか、ラスィアさんはアルコールを含んだ熱い吐息をついた。


「私は、ユナが心配だわ。そろそろ、誰かいい男性みつけたほうがよくないかしら?」


 完全に自分のことを棚にあげてますよね、ラスィアさん。


「わたしは、そういうのに興味ない」


 ユナは、すっぱり言い切った。類まれな巨乳の持ち主である彼女が本気を出せば、なびく男は少なくないだろう。が、性格で弾かれる可能性は否めない。


「でもラスィアも大概だと思うの」


 だいぶ酒が入ってきたユナは、半眼で姉貴分のダークエルフを睨む。


「さも自分は知ってますって顔してるけど、異性との経験、ないじゃない」

「!?」

「処女! このダークエルフ、処女!」


 ベルさんがゲラゲラとはやし立てた。おい、勘弁してやれよ。


「そういえば――」


 ダスカ氏が天井を見上げた。


「昔、結婚させられそうになったのが嫌で故郷から逃げたんでしたっけ、ラスィア」

「ああーっ!? 師匠、なんで知っているんですか!?」


 勢いよく席を立つラスィアさん。え、結婚が嫌で逃げたの? ラスィアさんが?


「知ってるも何も、あなたが以前、話したじゃないですか。お酒に酔って」

「……」


 ラスィアさんがドスンと席に座ると頭を抱え出した。酒癖あまりよくないみたいだな、この人。

 ウィリディスの夜は更けていく。

更新日が「いいにくの日」だったのは偶然。

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