表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

385/1934

第383話、高名魔術師がやってきた


 俺がリアナを翡翠(ひすい)騎士団に迎えた後、ヴォード氏らの魔法装甲車レーヴェの試験走行も終わった。

 そのままランチをウィリディス屋敷の食堂で摂ることになった。


 最近は、うちのメイドたちが俺の世界の料理を習得してきたので、彼女たちが食事を作ることが多くなっていた。

 そして昼のメインはカレーライスだった。


「ビーフシチュー……か?」


 初めてみるカレーライスにヴォード氏もラスィアさんも困惑しつつ、しかし漂ってくる独特の香りに誘われ、スプーンで一口。


「!?」


 ガッ、とヴォード氏は二口、三口とスプーンでライスとカレー、一口サイズのじゃがいもやニンジンを共に口へ運んだ。ラスィアさんが口もとを押さえながら目を見開く。


「辛いですけど、これ、美味しいです!」

「ああ、うまい!」


 辛さと熱さが舌で踊る。ヴォード氏も満足げな表情で頷いた。


「これは香辛料か?」

「色々入ってますよ。たぶんヴォードさんが聞いたこともないようなモノがたくさん」


 まあ、どのスパイスもサフィロの魔力生成で製作したものだけどね。


「それでこの辛さなのに、濃厚でスプーンが止まらない味になるのか!」

「ちなみに、ジンさん」


 ラスィアさんが上目遣いで俺を見る。


「これ、お高いのではないですか? いったい幾らするんですか?」


 一般的な香辛料は、この世界では高い。遠い異国より輸入していることもあるのだが、同量の金と同価値なんて、俺の世界の中世と同様なことが起きているから値が張るものという印象が強い。


「さあ? 一般の流通に乗せてないので幾らかなんてわからないですけど、たぶんあなたが思うほどの額ではないので気にしなくていいですよ」

「そうなのですか?」

「遠い異国から取り寄せたとか、そういうのじゃないんで、コストはかかってませんから」

「では、おかわりしてもいいのか?」


 ヴォード氏の皿は、ほとんど空になっていた。綺麗に食べてくれたものだ。


「ご自由に。……マホン」

「はい、ご主人様」


 控えていた茶髪のシェイプシフターメイドに合図すると、キッチンから新しい皿におかわりのカレーライスを用意して運んできた。


「お姫様を妻にとると、一気に貴族みたいになるんだな」


 お代わりを受け取りながらヴォード氏。メイド付きのこの屋敷のことを言っているのかな。


「いや、貴族以上だろうな。何度か貴族の食事に招待されたことがあるが、ここまでうまいものは初めてだ」

「お気に召したようでよかった。まあ、生活レベルが時代を超越しているのは認めますが、特に王族の支援があったとかそういうのはないんですよ。メイドさんも二人を除くと、使い魔ですし」

「使い魔!?」


 シェイプシフターと言ったら反応がどう来るか分からないので使い魔で言葉を濁すが、まあ間違ってはいない。紹介されたマホンが、恭しく頭を下げた。

 魔法使いであるラスィアさんは、驚いた様子でメイドさんを凝視する。


「何と言うか、お前さんは色々とぶっ飛んでるな。いつも驚かされる」

「時々それを楽しんでいます」


 したりと俺は頷いておいた。食後のデザートとして、恒例のカスタードプリンを振る舞えば、初めて食べる甘味に唸っていた。


「王族の方々も嗜んでいるお菓子です」

「王族!?」

「上のお屋敷に。たぶん何人かいると思いますが……挨拶していきますか?」

「い、いや」


 さすがに急に王族に挨拶というのは想定外だったようで辞退された。まあ、王族側でもいきなり冒険者ギルドの長と副ギルド長が挨拶にこられても困ってしまうだろうけど。


 その後、軽装甲車(レーヴェ)の今後の扱いと、こちらで使っている鉄馬を何台か供与することを話し合った。


 なお、話は変わるが、我が翡翠騎士団に加わったリアナであるが、ウィリディスの食事はお口に合わなかったらしい。

 というよりも、俺はこの時初めて知ったのだが、リアナは味覚障害で、味を感じることができないのだそうだ。


 人間が生きていく上で、食欲、睡眠欲、性欲が三大欲求と言われているらしいが、そのうちの一つである食事が楽しめないのは残念である。

 ただ食事は毎日摂るもので、一生ついてまわるものだ。治療できるものならしてあげたい。


 ということで、エルフの里よりもらった精霊の秘薬を一日に数滴、彼女の舌に垂らすことにした。通常の治癒とは異なる方法で回復すると言う水なら、もしかしたら……と思ったのである。

 まあ、ダメで元々。成功すれば儲けものである。



  ・  ・  ・



 アクティス魔法騎士学校に、上等な馬車が乗りつける。


 日曜にも関わらず、出迎えるは学校上層陣。しわの濃い老学校長と上級教官らが並んでいるそこに、二頭牽きの馬車は止まった。


 客車から降り立ったのは、五十代の男。頭髪は後退しているが温和な顔立ち。その服は黒の魔術師ローブ。手に持つは、磨きぬかれた赤いオーブをしつらえた槍にも見える杖。オーブの先に氷の槍のような結晶、さらに杖の下半分がオリハルコンの刀身を持つ剣のように尖っていた。杖というには奇妙だったが。


 アクティス校の学校長は、魔術師に頭を下げた。


「マスター・ダスカ・ロス。ようこそ、おいでくださいました」

「やあ、休日なのにお出迎えには恐縮ですな……ええと」

「ルーカス・ビショフです。マスター・ダスカ」


 学校長は名乗ると、マスター・ダスカと握手を交わした。


「はじめましてビショフさん。いえ、学校長とお呼びすべきですね」

「高等魔術授業の教官への就任に応じてくださり、感謝の極みです」

「いえいえ。……私も静かな場所で余生を過ごしたいと思っておりましたから」

「マスター・ダスカは、連合国の……」

「ええ、大帝国の侵略に対して戦っていたのですが……。恥ずかしながら、戦いに疲れてしまいまして」


 そう言いながら、ダスカはローブのポケットからハンカチを取り出すと、額に浮かんでいる汗を拭った。


「こんな老いぼれに声をかけてくださり、ありがとうございます」

「何をおっしゃいます。あなたが老いぼれなら、私は死に掛けでございます」

「ははは、これは失礼な物言いでしたな。お許しください、学校長殿」


 年上の学校長の自虐に、ダスカも穏やかに応じる。


「あー、そういえば今、高等魔術授業は、ユナ・ヴェンダートが教えているんでしたな?」

「ユナ……えー、それが」


 学校長は口ごもった。ダスカは眉をひそめた。何か嫌な予感がしたからだ。


「私のかつての弟子が何か?」

「まことに言いづらいのですが、マスター・ダスカ。ユナ教官は、いま補助教官を務めておりまして。代わりの者が高等魔術授業を教えています」

「それはまた……」


 ダスカは言葉を失った。天才魔術師の素養ありと謳われたユナ・ヴェンダートは、かつての弟子であった。あの魔法にしか興味のない娘は――思い出したダスカは思わずため息をこぼした。


「それで、いま高等魔術を教えているのは、どなたですかな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

小説家になろう 勝手にランキング

『英雄魔術師はのんびり暮らしたい 活躍しすぎて命を狙われたので、やり直します』
 TOブックス様から一、二巻発売!  どうぞよろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ