第382話、軍人さんがやってきた
休日の冒険者ギルドは、平日に比べて訪れる冒険者は少ない。
が、魔獣に日曜などないし、休んでいる暇のない冒険者もまた世間がお休みでもお構いなしで依頼の受注や消化、魔獣の解体などを任せにくる。
冒険者ギルドの職員もまた平日より少ないとはいえ、仕事をしている。
俺はベルさんとユナを連れてポータル経由で冒険者ギルドへ行った。
本日はギルド製作の魔法車レーヴェの走行テストの日である。ちなみに、レーヴェは獅子という意味だ。ずいぶんと勇壮な名前をつけたものだ。
魔法装甲車に比べると軽装甲車といったレーヴェだが、王都内を走るのは道幅や人のとおりを考えると無理があるので、広いウィリディスで走らせることになる。
ついでにヴォード氏やラスィアさんをウィリディス屋敷に正式に招待して、ご飯でも一緒に、という流れである。屋敷が完成したら招待してくれ、と言われていたのに、なかなか機会がなくてね……。
ギルド一階ホールに行くと、少ないとはいえ冒険者たちの姿があった。休憩所で飲んでいる者や掲示板を見ている者、二階の武具店へ行く者などなど。
「おい、ジン」
ベルさんが口を開いた。黒猫はユナの巨乳に挟まれる格好で抱っこされている。……普通ならしまらないのだが、猫の姿だと違和感がないという役得感。
「リアナがいるぞ」
「ん?」
俺も視線を辿る。フードを被った女――カメレオンコートをまとう異世界転移者の軍人、リアナ・フォスターがこちらに近づいてくる。
17歳。元特殊部隊所属の三等軍曹にして強化人間。金髪碧眼の少女であるが、人間的な感情や表情に乏しい。肩に担いでいる道具の入った袋は楽器……ではなく、彼女の得物であるマークスマンライフルだろう。
王都開催の武術大会以後、王都を離れていたが、戻っていたようだ。
「よう」
軽く手を挙げれば、彼女はコクリと小さく頷いた。
「用があったから来たんだろうが、いちおう聞いておく。何か用か?」
「装備のメンテを依頼したい」
フードの奥のリアナの表情は、機械のように変化に乏しい。
「わたしの装備、特殊だから」
「なるほど」
実体系の銃弾を放つ銃なんて、俺が知る限りこの世界では唯一だもんな。でも魔法銃はともかく、実体弾系の銃は俺作ったことないぞ?
「鉄馬はどう? そっちも元気か?」
リアナには浮遊型鉄馬を要求されたので一台進呈したのだが。
「それなら壊れた」
「壊れた?」
おっと、穏やかじゃないな。
「何で壊れた?」
「角猪の突進を受けた。胴体から真っ二つ。角猪一頭と引き換え」
どういう状況でそうなったのか理解できないが、角猪が鉄馬の横っ面に突っ込む画は思い描けた。たしかに直撃したらスクラップだろうな。
「新しい乗り物を所望する」
リアナは淡々と言った。俺は肩をすくめた。
「報酬はある?」
「同じ異世界人のよしみで安くしてくれると助かる」
「……はいはい」
初めて会った頃は、もっと人の皮を被ったロボットみたいな少女だったのに。この世界にいる間に、少しは人間らしくなったらしい。
「同じく異世界から来たよしみだ。君もこれから、俺の家に来るか?」
「それが必要なら」
彼女は同意した。俺がリアナと話している間に、副ギルド長のラスィアさんがきて、ユナと魔法車の話をしていた。俺はそれを顎で指し示す。
「冒険者ギルドで魔法車を作ってね。元軍人からアドバイスとかもらえると嬉しい。あ、それと大帝国の連中が攻めてきた時に備えて準備しているんだが、それについてもコメントをくれると助かる」
何せリアナは、俺がいた世界より未来寄りの世界から来ている。装甲車はもちろん、戦闘機やヘリなどについては、この世界の誰よりも詳しいだろう。
「承知した」
「でも、ウィリディスで見たものは口外無用な」
まあ、無口なリアナなら心配はないだろうけど。
・ ・ ・
そんなわけで、俺たちはウィリディスに戻ってきた。
ヴォード氏は即席の運転講座を受けたあと、自分の手でレーヴェを運転。広いウィリディスの地を、障害物に悩まされることなく走っていた。
大柄な彼でも座れる余裕の作りである。ヴォード氏は自らの手で車を動かすことに大変感動しているようだった。
助手席にはユナが乗り、運転についての助言と、どこか変な場所へ行かないようにナビを担当した。後ろの席にはラスィアさんが乗っていて、我らがギルマスが子供のようなテンションでいるのを微笑ましそうに見ていた。
かつてパーティーを組んでいた三人。その雰囲気の邪魔をするのも何なので、俺はその間にリアナをつれて、ウィリディス屋敷を経由して、格納庫区画へと向かった。
近未来的な地下格納庫。この時代にそぐわない光景も、未来世界の住人であるリアナにはむしろ普通だろう。
そう思っていたのだが、目の当たりにした彼女はしばし固まっていた。
ワスプ戦闘ヘリ、ドラケン戦闘機、トロヴァオン戦闘攻撃機が駐機されているのを眺め、それぞれ説明を求めると、シェイプシフター兵が携帯するライトニングバレットや対魔獣用ミサイルランチャーなどを確認していった。
「素人が作ったにしては上出来」
「……それはどうも」
褒められてるんだろうか。リアナの淡白な言い回しに、俺は反応に困る。
「ジン。ここには人型兵器はある?」
「それはバトルゴーレムとか?」
「青藍は見た。有人仕様」
ああ、要するにロボットアニメとかにあるような、パイロットが乗り込む型の人型機動兵器みたいなののことか。
「いや、有人仕様はないな」
「そう……」
少し残念そうに見えたのは気のせいか。
「バトルゴーレムを参考にすれば、作れなくはない?」
「うーん、まあ、考える必要はあるけど、できないとは断言できないね」
やってみれば出来るかもしれない。俺はリアナを見た。
「それで、ここの事でプロの助言はいただけるかな?」
「……いくつか指摘できるし改善点も提示できる。けれど」
けれど?
「頼みがある」
「……聞きましょう」
「わたしをここで雇ってほしい」
「就職希望?」
いや翡翠騎士団なら入団になるのかな。
「わたしは軍人。それ以外の道は知らない」
リアナは格納庫の兵器群を見回した。
「この世界にきてから、軍という環境については諦めていた。けど、ここは、わたしにとってはホームに近い」
「……ここは軍じゃないんだけどね」
何だか軍備持っているけど軍ではないと言っている某組織みたいな言い分だけど。
まあ、大帝国とドンパチやる気配濃厚なご時世。近代的軍隊の経験者がいるのは心強い。
「ようこそ、ウィリディスへ。歓迎しよう」
俺が笑むと、リアナはブーツの踵を鳴らして敬礼した。……本場の軍隊式敬礼を初めて見た。
裏話:リアナは元々、ロボット兵器乗り。強化人間設定はその名残り。




