第380話、ルングの悩み
「ジンさん! 折り入って相談があるのですが!」
そう言って声をかけてきたのは、先日Cランク冒険者になったルング少年である。
悪ガキじみた小柄な魔法剣士は、かつて冒険者パーティーを組んでいたが、今は幼馴染みのクレリック、ラティーユと共に新しいパーティーにいる。
初対面の時のタメだと思われていた頃の彼を思い出すと懐かしく感じる。もっとも、冒険者ギルドでの魔法講座ではルングは常連なので顔を合わせているのだが。
ギルドのホールを歩いていた俺のそばにきたルングの肩を軽く叩いてやる。
「最近調子どう?」
「悪くないッス。……で、相談なんですけど、時間よろしいですか?」
「切実な問題?」
「オレにとっては切実です。あとできれば――」
きょろきょろと周囲を見回すルング。……なるほど人に聞かれたくないような内容だな。
「人のいない場所で」
「わかった。トゥルペさん――」
俺はギルドの受付にいる顔なじみの職員に声をかけた。
「談話室、ひとつ借ります」
あ、はい、とトゥルペさん。
冒険者ギルドの職員でもない俺だが、談話室を借りるくらいは顔がきく。Sランク冒険者は多少わがままを言っても許されるのだ。
あまり広いとは言えない室内へ。簡素な机と椅子、俺とルングは向かい合って座る。
「落ち着きがないな」
俺が指摘すると、ルングはびくりと肩を震わせた。
「い、いえ! その、経験豊富なジンさんに相談したいことがあってですね」
それはもう聞いた。そういえば今日の魔法講義中も、何だかそわそわしていたような。いつもなら質問とか積極的なルングなのだが、今日は一度もなかった。
座り方といい、何だか恋人に告白しようとしているが、うまく切り出せないやつのように見える。……おい。
「告白か?」
「えっ!? なんでわかったんですか!?」
素っ頓狂な声を出すルング君。マジで告白だったか。俺は睨むように彼をみた。
「悪いが、俺は野郎を恋人にする趣味はないぞ?」
「は? いやいやいや何言ってるんですか!? オレだってそんな趣味ないッスよ!」
マジ顔で返された。冗談の類と流せないほど、真剣なようだ。
「落ち着け。本番前からそんなに緊張してどうする?」
おおかた幼馴染みのラティーユだろう。というか、俺はそれくらいしかルング少年の女性関係を知らない。
「あ、オレ、今からかわれたんですね」
「落ち着きがなかったからな。それで、相手はラティーユか?」
「何でわかるんですか!? 魔法で人の心読んでるんですか?」
「そんな便利な魔法はないよ。というか人の心を読む魔法なんていらん。煩わしいだけだからな」
俺は机の上に肘をついて手を組んだ。
「そういうものですかねぇ……。オレは心が読める魔法あれば欲しいッス。好きな子が何を考えているか知りたいですから」
「もしその相手がお前のことを何も考えてなかったらどうする? むしろ心の中で好意を抱いていることを迷惑に感じていたら?」
「や、やめてくださいよ! 脅さないでくださいよ~」
「だから、そういいものじゃないってことだよ。で、ラティーユのことだが」
「本当は読めてるんじゃないですか? もしかしたら他の女の子とかもしれないのに」
「他の女とは?」
「例えば、いま一緒のパーティーにいるルティさんのことかもしれないッスよ?」
「ないな」
「即答!?」
ルティさん、とはBランク冒険者で、冒険者ギルドの長であるヴォード氏の娘である。
「いいから話せ。前置きが長い男は嫌われるぞ」
「……わかりました。ラティーユのことが好きです! 告白を考えています」
「おおー」
「あいつとは幼馴染みでずっと一緒だったんですけど、その、きっかけがつかめないというか。どうやって告白すればいいのかわからなくて……」
「お前、他の誰かから恋愛相談されたことは?」
「ないッス」
「……答える前に質問するが、お前、なんで俺に相談した?」
「ジンさんならわかるかな、と思って。その、お姫様と婚約しましたし、他にも綺麗な女の人とスラスラと会話されているようなので――」
「けしからんな、そのジンという男は」
俺は冗談めかした。
「でも告白の言葉自体はわかってるんだろう? お前、ラティーユのことが好きって言ったろ? それをそのまま伝えればいい」
「は、はぁ……。でもきっかけが――」
普段から傍にいるから、告白のタイミングがつかめない。意識するあまり、声をかけれなくなるというのはよくあることだ。
何せ人は、告白に関して失敗したくないという思いが強くなる。だから普段話せている人間でも、あがり症さながら赤面したり動揺したりする。
「デートに誘え。綺麗な景観が楽しめる場所とか、一緒に見たい、いや見せたい景色でもいい。そういう場所にな。告白するよりはハードルが低い」
それで誘えないと言うなら告白なんて無理だから諦めろ。
「それか、プレゼントをあげるのも手だな。ラティーユが欲しがっているものとか、必要だろうと思うものをお前が選んで渡してやれ。それができれば、きっかけには充分だし、告白の前段階もできるから一石二鳥だ」
用意したプレゼントも渡せないようなら、告白なんて無理だから諦めろ。
「デートかプレゼントですね……?」
「両方でもいいぞ。誠意を見せることが大事だ」
真剣さが重要で、かつそれが相手に伝わらなくてはならない。誰だって不誠実な奴からの告白なんて、嬉しくもないし迷惑なだけだからな。
「後は、そうだな……」
俺はストレージを漁る。
出したのは布製のお守り袋。こちらの世界ではないもので、少々日本的な品だ。昔、想像の魔法の練習で作ったものの残りだ。
さらに小さな紙を取り出し、その紙に魔法文字を刻んだ後、俺はその紙を折ってお守り袋に入れた。
「いわゆる恋愛成就のお守りだ。これがお前に、好きな女性へ告白する力を与えてくれるだろう」
「ほ、本当っすか!?」
ガタンと椅子を蹴るような勢いでルングが立ち上がった。……そうそう、この手の相談してくる奴が必要としているのは、勇気を後押ししてくる言葉や護符などだ。
いざという時の責任転嫁アイテム、といったら言い過ぎか。
「あざっすっ! ……うわ、すげぇ、こんな魔法具があるのか」
魔法具なんて大したものじゃないけどな。当然ながら金はとらんよ。詐欺になってしまうかもしれないからな。
ともあれ、ルング少年の恋が実るのかは、先の話となる。
なお、この一件の後、俺のもとに恋愛成就のお守りを求めに来る者がぼちぼち現れるようになるのだが、これもまた別の話である。




