第372話、全軍、突撃
精霊宮前に進出してきた青色エルフを後退させた俺は、コピーコアに機体の操縦を任せ、飛び降りた。
トロヴァオンが飛び上がった後、複数のプロペラブレード音が耳朶を打った。
『こちらワスプ。精霊宮、上空に到着』
魔力念話で聞こえるヒンメル君の声。TH-1ワスプ戦闘ヘリが、ヴィルヤに姿を現した。うち三機は腹に兵員輸送コンテナを抱えている。
『ワスプ・リーダーより2。地上掃射開始』
了解、ワスプ・リーダー――コンテナを運んでいない二機のワスプが飛行しながら、機首の魔石機関砲を唸らせ、地上のダークエルフ兵を引き裂いていく。
さらにスタブウイングに懸架してきたロケット弾ポッド――魔石屑と火薬を詰めたロケット弾を立て続けに放ち、敵主力部隊の戦力を削っていく。
その間に、コンテナを抱えた三機のワスプが魔石機関砲で周囲の敵を制圧しながら、精霊宮の前に着陸した。
コンテナのドアが開き、ライトニングバレット装備のSS兵が降り立った。
兵を降ろし終えたワスプ二機はコンテナを切り離して身軽になると、他二機のワスプと同様に地上掃射に加わる。獰猛なる捕食蜂は、地上のダークエルフを血祭りにあげていく。
なおワスプ五番機はコンテナを抱えたまま精霊宮の上空から退避する。この場にいない三番機のもとへ行くためである。
俺は、それらワスプ中隊の活躍を観戦する。……本音を言うと、市街戦って怖いんだよな。
ソマリアを舞台にした某映画で、ロケットランチャーの餌食になる軍用ヘリを見てるから。ダークエルフにロケランはないだろうが、何かしらの魔法で仕掛けてくる可能性はなくはない。
「ジン殿」
エルフの魔術師ヴォルと、近衛のアリンが俺のもとにやってきた。……目の前で起きていることが信じられないって顔してるぜ、ヴォル殿よ。
「これは、その……どう言ったらいいのでしょうか」
「ウチの軍隊だよ」
俺は苦笑した。本当は別の目的のために作ったんだけどね。
エルフの皆さんに披露する形になってしまったのは、まあ仕方ない。ドワーフの避難民にもデゼルトを見せたが、人の命がかかっている時に見られたくないから使わないというのもよくないと思う。
……確か、旧海軍で世界でもビッグ7に数えられた日本の超弩級戦艦が、震災救助のために外国に隠していた最高速力を発揮して物資を積んで被災地へ駆けつけたって話もあるらしい。
閑話休題。
さて、ここからどう出てくるよ? 青色エルフさんよ……。
・ ・ ・
まったく何だと言うのだ。
アトーは思わず天を仰いだ。
計画は完璧だった。
対エルフ戦に限れば、何一つ失敗はない。一番怖い弓に対して最初から撃たせないようにしたし、個別で射撃にさらされる場面では矢に対する魔法具を持たせることで、ほぼ敵の得意技を封じることに成功した。完全なる勝利。
ここまでミスはない。エルフを追い詰めた。しかし我が軍は敗北しようとしている。謎の飛行する鉄の魔物が飛来したことによって!
正体はわからないが、どうやらあれは乗り物のようだ。扱っているのはエルフではないが、こちらにだけ攻撃してくるところからして、エルフの呼んだ助っ人か同盟者だろう。
しかしあのような異形の物体の噂は、いまだかつて耳にしたことがない。
「まったく、私は誰を恨めばいいのか」
自嘲するアトー。副官が沈痛な表情で口を開いた。
「アトー様。あの空飛ぶ化け物は、我が軍の主力を蹴散らしつつあります。遊撃隊も壊滅したらしく、対抗手段は……ありません」
「爆裂矢は?」
「現在、蹴散らされている部隊には、もしかしたら残っているかもしれませんが……」
「我が隊は、そもそも支給していなかったな」
魔法を仕込んだ矢とて、そうそう大量に用意できるものではない。
突撃する前衛部隊がエルフの弓隊や前衛部隊を崩すための武器として優先させた。この一戦でケリをつけるつもりだったから、惜しまずドンドン使えと発破をかけたが裏目だったか。
アトーは目を細める。
空を飛ぶ化け物は見たところ4体。飛び乗って攻撃、という考えがよぎったが、あの猛スピードで回転している羽は、触れたら逆に切り刻まれてしまうだろうから無理だ。
魔法は……いや、たぶん近づく前に向こうの攻撃にやられる。
それならば、もはや『死ぬ』しかあるまい。
ダークエルフの指揮官は口もとを歪にゆがめた。
「進むも地獄、引くも地獄。いや、我々には最初から次などなかったのだ」
アトーは腰に下げる剣を抜いた。魔剣ラウグ――黒光りする剣を手を真っ直ぐに向ける。
「全軍、突撃! 目標はエルフ女王の命! 我らが宿願を果たすのだ! 同胞の屍を踏み越え、進めッ!」
突撃の笛を吹き鳴らし、ダークエルフ兵は光の精霊宮目指して進撃を開始した。
もはや勝利の見込みがなくなった場合に発動される最終作戦。遮二無二に突っ込み、目の前のエルフを殺し、その長たる女王を殺害する。
前を行く者は後ろの者が使命を果たせるように己が身を盾に敵陣へ突っ込み、道を切り開く。ひたすら後ろの誰かが女王の命を奪うまで、ただ突進する。そこに細かな作戦はない。
・ ・ ・
ダークエルフ軍は、自分たちの位置に関係なく、一斉に光の精霊宮を目指して突き進む。
低空を飛行して魔石機関砲による対地掃討を行っていたワスプから次々に同様の報告が舞い込む。
どれだけ残っているか把握していないが、どうせやられるならまだ戦力が残っているうちに残存すべてで当たろうってことなのだろう。……しゃらくさいね。
「敵は、ここを目指しているぞ。迎撃用意」
俺の指示に、ワスプから降下し守りについていたSS兵たちがライトニングバレットを構えた。一度、下がっていた青藍がスクワイアゴーレムのケルプから、脚部浮遊ユニットの魔力補充のための燃料カートリッジの交換を受けていた。あの浮遊装置、燃費悪いなんだよな……。改良が必要だ。
エルフの近衛や守備兵も敵の襲来に備える。
ワスプが地上のダークエルフを攻撃する中、精霊宮の前に敵兵の姿が見え始める。ぽつぽつから、わらわら。続々と、まるで先着を巡って押し寄せる群衆のように。
鬼気迫るダークエルフ兵たちの表情。恐怖を感じないわけがない。それでも足を止めないのは何だろうか。まあ、深くは考えない。今は目の前の敵を排除するのみ。
「撃て!」
俺は練りこんだ魔力を光線魔法として十本、同時に放った。青藍のサンダーキャノン、スクワイアゴーレムたちのサンダーロッド、SS兵のライトニングバレットが電光を迸らせた。
エルフ弓兵が矢を放ち、魔術師たちも得意の魔法を撃つ。ダークエルフ兵たちは飛来する光弾ほか、投射攻撃によって次々に撃ち抜かれ倒れていく。
剣や槍で敵部隊へ切り込むという戦い方は、圧倒的な銃器の前には無力だ。こちらが持っているのは火縄銃ではなく、連射も可能な魔法銃だ。
特にSS兵の分隊に配備しているLBSの一形態である汎用魔石機関銃は、車載魔石機関銃と同等の威力と連射能力を持つ。それが6丁。ほかの24名は通常のライトニングバレット装備だが、その威力でも十二分に敵兵の鎧を貫いた。
光弾を吐き出し続ける魔石機関銃は、突撃する敵兵を片っ端から倒していった。
これは一方的な殺戮だった。だが後悔も躊躇いもない。やらねばやられるのは自分だとわかっているからだ。
SS分隊=10名 (分隊長(軍曹)1名、伍長1名、一般歩兵6名、機関銃手2名 )




