第368話、ヴィルヤ交戦中
ポータルを経由してウィリディスに俺たちは到着した。
格納庫に駆け込み、魔法装甲車を降りる。施設を管理するダンジョンコア『サフィロ』に命じて、戦闘準備を発令させてある。
俺たちは格納庫脇の更衣室で手早く操縦服に着替え、ヘルメットを取ると格納庫へと戻る。すでに臨戦態勢にあった各戦闘機、戦闘ヘリ部隊は装備の積み込みを終えていた。
俺が愛機のコクピットに飛び乗った時、すでにエンジンはアイドリング状態。ナビは機体の最終チェックを済ませていた。ランプはオールグリーン、異常なし。
二番機のアーリィー、三番機のマルカスも準備よしの返事。
「こちらトロヴァオン・リーダー。サフィロ、行ってくる」
『マスターの帰還をお待ちします』
浮遊装置でトロヴァオンの機体が浮かび上がる。そのまま航空機としては這うような速度で格納庫内を移動。明るい日差しが降り注ぐ外へ出ると、魔石エンジンを噴かして愛機を飛び上がらせる。
後方を確認すれば、アーリィー、マルカスのトロヴァオン、さらにSSパイロットが操る四番機から六番機が後続する。
ベルさんのドラケン・カスタムに四機のドラケンが付き従い、さらにベース・レイドから呼び戻したファルケ戦闘機6機も、トロヴァオン編隊に続いた。
「トロヴァオン・リーダーより、ワスプ・リーダー」
『こちらワスプ・リーダー。トロヴァオン・リーダー、どうぞ』
魔力念話通信機より、ワスプ・リーダー――SSパイロットのヒンメル君の声が返ってきた。
「こちらはポータルを経由して、ヴィルヤに直進する。君たちも続いてくれ」
『了解、トロヴァオン・リーダー。こちらも可能な限りの速度で後続します』
TH-1ワスプ戦闘ヘリ6機からなるワスプ中隊は、速度で戦闘機には叶わない。同時に飛び立てば、どうしても遅れてしまう。
「それまでにグリフォンは掃除しておくよ。……トロヴァオン・リーダーより各戦闘機隊、ポータルへ突入する! 続け!」
古代樹の森の外で作ったポータルは二つ。ひとつはデゼルトでの帰還用。これは消去済み。もうひとつは、戦闘機通過用に空中に展開した大ポータル。その青い魔法リングの上を、トロヴァオンを先頭にした戦闘機17機が旋回。
緩やかに降下しながら、ポータルを正面に捉えると、俺はフルスロットルで愛機を飛び込ませた。
・ ・ ・
殺す! 殺す! 殺す! ダークエルフ、殺す!
ヴィスタはその美麗な顔立ちを歪め、魔法弓ギル・ク改を手に駆けていた。
故郷を滅ぼされ、家族を惨殺された。
失意が胸の奥を焦がし、周囲の言葉も何もかもが遠い世界のように感じた。ひたすらダークエルフへの怒りを滾らせていたその時、そのダークエルフがヴィルヤに攻めてきた。
ヴィスタは魔法弓を手に取った。
迷うことはない。ただ愛した家族の仇を討つため、彼女は城下町へ下りた。……幸か不幸か、空中都市にいたことで彼女は、ダークエルフの奇襲的襲撃から逃れることができた。
もし彼女が城下町にいたなら、おそらく敵と聞いて城壁に上がり、そこで敵特殊兵の魔法によってなぎ倒されていたかもしれない。
城下町は、いたるところで破壊が進んでいた。クリスタルイーターとエルフ兵の戦闘。そこにダークエルフ軍が乱入する形だ。
イーターは眼中になかった。エルフ兵が各所で殺されていく中、ヴィスタは視界に入るダークエルフを次々に狙撃した。
電撃矢で、敵兵の脳天を穿ち、同胞を囲んで切り刻んでいるダークエルフ兵どもに拡散矢を浴びせて屍にしていく。
本来、魔法弓を扱う者は、後方からの射撃がメインとなるが、ヴィスタはかまわず前線へと突き進んだ。
それは金髪の鬼もかくやの形相。怒りと憎しみに突き動かされた狂戦士だった。
彼女が通った後には、青肌のエルフ兵どもの死骸しかない。駆け回り、敵と見れば撃つ。魔法弓は魔力が矢だ。魔力が尽きない限り、矢がなくなることはない。
「囲め!」
ダークエルフたちが、突っ込んでくるヴィスタの矢に倒れながらも距離を縮める。何せ彼女も走ってきているので、あっという間に近接戦の距離になる。
弓と近接武器、どちらが有利かなど明らかだが、そこはジンの作った魔法弓改である。
オーブカートリッジが動き、電撃から炎へ。たちまちギル・ク改は、炎竜さながら炎を噴き、接近したダークエルフたちを燃え上がらせる。
「地獄へ落ちろ、ダークエルフ!」
炎に巻かれてのたうつダークエルフに、至近距離から魔法矢を撃ちこんでトドメを刺す。
星降らす乙女と謳われたエルフ冒険者は、その名が定着する前に一時期言われた青い鬼神、それに違わぬ力で戦場をかき回し続けた。
・ ・ ・
「ユナ教官、さすがにこれはいけませんわ!」
サキリスはSSランスを、迫るダークエルフ兵に向ける。穂先が開き、青い電光が駆け抜けると、たちまち近づいていた三人の敵兵が感電し煙を上げて倒れた。
「おっと……!」
背中の翼を羽ばたかせて急上昇。クロスボウの矢が靴先をかすめた。
だがそこへSS兵がライフル型の武器を構え、トリガーを引いた。光弾が放たれ、ダークエルフのまとう鎧を貫通、射殺する。
サンダーバレットに代わる新装備、ライトニング・バレット。光属性のオーブを内蔵。魔力を詰めた弾倉から魔力を供給することで、光弾に換えて放つ飛び道具である。
全長はおよそ730ミリ(73センチ)。ユナやサキリスは知らないが、ジンのいた世界にあった米軍のM4A1カービン銃より若干小さくまとめてあるそれは、市街戦でも比較的取り回しに優れる。
半壊したエルフの民家を盾に、SS兵たちがライトニングバレッドで、迫るダークエルフ兵を狙い撃つ。弾速の速い光弾を連続して撃ち込まれ、迂闊に飛び出した敵兵がたちまち打ち倒され、後続は同じく民家の影に引っ込まざるを得なくなる。
それをユナは見逃さなかった。
「エクスプロージョン!」
遮蔽で身動きできなくなった敵兵たちをまとめて爆発魔法で吹き飛ばす。
『正面、新手の敵集団!』
SS兵の報告。ユナは振り返ることなく声を発する。
「深紅!」
『了解』
紅蓮の装甲を持つ重騎士然としたバトルゴーレムが、新たな敵集団に四門の高出力魔砲の砲口を向けると光の束を発射。凄まじい熱に盾や甲冑ごと分断されたダークエルフたちは肉片へと姿を変える。
今は押さえている。だがこれ以上はどうか――ユナは内心の不安を押し殺す。
サキリスが先にも言ったが、城下町で抵抗しているエルフ兵はもはやほとんど残っていない。街の端で崩れた建物を盾に臨時の防衛線を引いているが、正直、自分たちの身を守るので手一杯である。
『ミス・ユナ』
SS兵のひとり、肩掛けの大型バッグを背負っているのは『衛生兵』だ。
『負傷したエルフたちは落ち着いてきましたが、こちらも回復薬がもうありません』
シェイプシフターは魔法を使えない。使わないかはわからないが、とにかくこの衛生兵は包帯を巻く程度しかもはや負傷者の手当てはできない。
「わかったわ。あなたはエルフたちを守って」
『了解しました』
機械的な返事で答え、SS衛生兵はライトニングバレットを持つ。……ジンの世界の衛生兵は国際条約で武器は護身用以外携帯してはいけないことになっているが、もちろんこの世界ではそんな条約はない。
「ほんとう、よろしくないわね」
ユナは呟くのだった。
※ライトニングバレット:サンダーバレットの改良型魔石銃。光弾を放つ。基本のライフルモードのほか、複数の射撃形態を持つ。




