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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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366/1942

第364話、可能性の話 その2

 

 エルフたちは青色エルフに対抗するため、軍の派遣を決定した。それで、女王陛下は俺たちに何を望むのか?


「出征するエルフ軍に同行して支援をしていただければ、と思っております」

「支援、と言いますと?」

「あなた方が実際に見て必要と思われる行動をとっていただきたい。わたくしからの独自行動の許可を与えます。……エルフ軍の指示は無視して結構です。ジン殿やベルさんなら、おそらく最善手を打ってくれると信じていますから」

「それは……。そこまで信用いただけて光栄です」


 勝手にやってもいいってさ。立場としては傭兵同然だが、その行動を妨げる要素はすべて排除してくれるのは、絶大なる信用を得ていると言える。


「ですが、共闘するのであれば入念な打ち合わせも必要です」


 彼を知り、己を知れば百戦あやうからず。皆様お好きなあのお言葉にもある。敵はもちろん、味方のことも知らねば必ず負けると、かの孫子大先生はおっしゃっているのだ。


「では急がれたほうがいいでしょう」


 カレン女王が言った。魔術師のヴォルがうなずいた。


「実はエルフ軍は、つい先ほど出発しまして」

「もうですか? それはまた速いですね……」


 カランの壊滅を受け、すでにヴィルヤのエルフ軍は臨戦態勢を整えていたという。上層部の会議で今後の方針が話し合われている間も、青色エルフを討伐する遠征に備えて、準備万端、指示を待っていたらしい。


「ダークエルフたちが次の集落への攻撃を企図していますし、これ以上の犠牲を出さないためにも迅速な行動が必要です」


 女王の言葉に、俺は頷きで答えた。


 兵は拙速(せっそく)を尊ぶ。俺のいた世界でも、戦争はスピードが肝心だと言っていた軍人がいた。敵より早く行動し、その準備が整う前に攻撃を仕掛けるのが一番だという論だ。


 エルフたちの命がかかっている現状、この迅速な動きは賞賛に値する。だが、ここでひとつ、浮上した可能性について進言しておかなくてはならない。


「女王陛下、実は、敵の攻撃に対して気がかりなことがありまして」

「ジン殿、それはいったい――」


 俺は、エルフの里に来る前に立ち寄ったドワーフ集落のアクォで起きた惨劇と、クリスタルイーターの存在を説明した。


「ヴィルヤは地下からの攻撃に対して結界は働くのでしょうか?」

「それは……わかりません。これまでそのような攻撃の事例がありませんでしたから」


 カレン女王は表情を曇らせた。思いも寄らない方法での襲撃の可能性。これまで安全と思われてきたヴィルヤの守りへの懸念(けねん)。エルフの女王の額に、しっとりと汗が浮かぶ。


「ヴィルヤの滅びる未来……。なるほど、それがいよいよ現実味を帯びてきたのですね」

「まだ懸念のひとつに過ぎません。地底も結界が有効なら、クリスタルイーターも侵入はできないはず」

「でももし、結界が働かなかったら」


 女王の視線は、控えているヴォル魔術師に向く。側近の魔術師はゴクリと唾を飲み込む。


「いまヴィルヤは主力が出払っております。敵の戦力次第では、かなり苦戦を強いられるかと……」

「ヴィルヤ内に警告!」


 カレン女王は立ち上がった。


「守備隊には、地底からの攻撃にも注意するよう伝えなさい!」

「ハッ……いや、しかし地面の下と申しましても、どこから来るかわからないのでは――」

「地面の下からの攻撃を想定しているのと、していないのとでは、とっさの反応に差が出るはず……。戦士全員に徹底させなさい。いいですね!?」

「承知しました、陛下」


 ヴォルが足早に執務室を後にした。カレン女王は、小さく息を吐くと席に着いた。


「ご指摘ありがとうございましたジン殿。可能性の芽は摘んでおく必要があります」

「そうですね」


 あくまで可能性の話だから、確証はない。


「それで、出兵したエルフの主力軍ですが……呼び戻すべきでしょうか?」


 ヴィルヤの危機とあれば、討伐に出ている部隊を引き返させるべきか。女王は悩んでいるようだった。


「その場合、他の集落を見殺しにするということになるのですが……」


 エルフ上層部の方針としては、他の集落を見捨てないと決めたのである。出撃前ならともかく、もう出てしまったのだ。救援に燃える将兵たちの気持ちを考えれば、突然の帰還命令が士気にどれほど影響するか計り知れない。


 突然の方針転換による現場の混乱を避けるならば現状の維持、ここにいる俺たちが不足する守備隊に加勢し、備えるのが一番だと思う。


「実を言うとな、ひとつ気がかりがあるんだが」


 ベルさんが口を開いた。するとアーリィーも小さく手を挙げる。


「ボクも、ちょっと心配事がある」


 二人してどうしたのか。俺とカレン女王は顔を見合わせ、そして頷いた。


「何が気がかりなんだ?」


 ベルさんとアーリィーはお互いに、どっちから話すと確認した後、まずベルさんが話すことに決めたようだった。


「遠征したエルフ軍だけどよ、どうにも嫌な予感がするんだ」

「と、言いますと?」

「防衛側であるエルフ軍が、ダークエルフが待ち構えているところに攻める……。正直言うとだ、敵に誘い出されているんだよ。本来、地の利があるはずのエルフが、敵に戦場の場所、そしてタイミングの主導権を取られている。それが気に入らないんだ」

「つまり、罠だとベルさんは言いたいわけか?」

「そういうこと」


 ベルさんはぺろりと舌を出した。


「敵は人質取ってるんだろう? エルフ軍の動きを牽制できる立場にあるわけだ。これは明らかにエルフに不利になる」


 嬢ちゃん、とベルさんが、アーリィーに話を振る。


「ボクが危惧しているのは、クリスタルイーターをダークエルフが使役していた場合のことなんだけど。……そうなると敵側の魔獣は地面だけでなく、空からも攻撃してくるかもしれない」

「グリフォンか!」


 アクォのドワーフ集落に落ちていた無数のグリフォンの羽根。クリスタルイーターの他にグリフォンがいたという形跡。それらも青色エルフが使役しているとしたら――


「どれもまだ仮定の話だが、ただ最悪に備える必要はある」


 俺は腕を組んだ。


「敵がそのすべてを備えているとは限らないし、想像どおりに運ぶとも限らない。だけど、もし敵がクリスタルイーター、グリフォンという駒を持っていたら、その最悪に転ぶ可能性は高い」


 実際は、そこまで酷くないかもしれない。

 結界が万事効果を発揮し地底からの攻撃をシャットアウト。エルフ軍の指揮官がダークエルフより優秀で、グリフォンに対して、エルフ軍が強力な弓兵で対抗するかもしれない。


 最高の目が出ればエルフ軍は勝つ。だが最悪の目が出た場合は、その限りではない。


 結界の内側に侵入したクリスタルイーターがヴィルヤで暴れ、エルフ軍はダークエルフの反撃に遅れをとり、不意を突かれた弓兵隊が敵グリフォンの奇襲を受けて崩壊……。


 少なくとも、青色エルフが戦端を開いた以上、戦争に対する備えができていないエルフより数段先を見据え、また対策を練っているのは間違いない。


 となれば、俺たちは、そのエルフが不足している部分を補ってやる必要があるわけだ。


 ヴィルヤの守備を固めつつ、グリフォンに対する備えをし、可能ならばエルフ主力軍を支援する。うーん、この――


 俺は嘆息するのだった。

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