第360話、エルフの都ヴィルヤ
潜伏していた連中はダークエルフだった。
だが俺をはじめ、それに違和感をおぼえていた。というのも、褐色肌のダークエルフは知っているが、薄めの青い肌を持つダークエルフは初めてだったのだ。
カランで起きた悲劇は、アリンがペンダント型の魔力念話で女王のいるヴィルヤに念話を飛ばして報告をした。
その間、さらなる敵の接近を警戒しつつ、犠牲となったエルフの遺体を埋葬した。
弟と両親の遺体を前に、ヴィスタは頭を抱えながらブツブツと呟いている。この惨状を引き起こしたダークエルフへの憎悪の言葉を吐き続けていた。
カランを襲撃したのは、ダークエルフでほぼ決まりだろう。
見張りと思しき戦士は、戦利品とばかりにエルフの耳を集め、袋に詰めていた。悪趣味の極みだ。
「報告が終わりました、ジン様」
話がついたアリンが、やってきた。
「ヴィルヤに向かいましょう。ここには里の守備隊が来ることになりました」
了解。引継ぎが来るなら、目的地であるエルフの里、その中枢を目指そう。
「ヴィスタ」
俺は声をかける。家族と故郷を失ったばかりの彼女をここで放置するわけにもいかない。
すっかり心が病んでしまったようで、この場から動かすだけでも割と手間だった。……ダークエルフがいると言ったら、武器を手に一人で突撃しそうな程度には物騒な言葉を吐き続けていた。
デゼルトに皆を乗せ、エルフ街道に戻る。俺は案内役のアリンを助手席に座らせ、質問することにした。
「あの青い肌のエルフはダークエルフと言うのか?」
褐色肌の、いわゆる人間社会にもわりと見かけるエルフはダークエルフという認識だったのだが、青肌のエルフもダークエルフというのはどうにも慣れない。
「褐色も青肌も、我々とは信仰の対象が違いますからね」
アリンは眉間にしわを寄せる。
「私たちエルフが精霊信仰に対して、ダークエルフたちは神を信仰しています。褐色種は精霊をそのまま神に置き換えたような形ですが、青色種は……闇の神、いえ邪神を信仰し、私たちエルフと敵対しているのです」
エルフに言わせれば、褐色エルフと青色エルフは遠縁に当たり、近い種族と見なしている。それゆえ両方ともダークエルフとひとくくりに呼ぶのだそうだ。両者がいる場合は肌の色で「褐色」「青色」と区別しているらしい。
ただ青色種は、エルフに比べて魔法を操る力が劣るが、肉体的にはやや勝っているという。しかしその性格は好戦的かつ残忍であるとされている。
……カランの惨劇を見れば、残忍というのは嫌でもわかるな。
白エルフ、褐色エルフ、青色エルフの三種族間の関係は、あまりよろしくない。白と褐色の間では目に見えて対立はないが積極的に絡むことはない。
俺の知るラスィアさんとヴィスタは、そういう素振りを見せないので、種族的な見方と個人ではまた別だとは思う。
青は、白エルフと宗教観の対立から血みどろの争いを繰り広げた過去があり、いまなお激しく憎み、相手を滅ぼそうとさえしているらしい。
なお、褐色と青の関係は不仲であるが、白ほどではない。というより青エルフが好戦的過ぎて、ほとんどの種族から嫌われているというのが実情のようだ。
「全方向から嫌われてんのな、青エルフってのは」
ベルさんが専用席に座ったまま鼻を鳴らした。
「で、今回、そのやべぇ奴らが古代樹の森にやってきた」
カランを滅ぼし、エルフたちを惨殺した。アリンは俯く。
「ヴィルヤには結界があるので心配はないですが、森に点在する他の集落は……おそらく危機に晒されていると思います。カラン以外にも――」
ちら、とアリンは後部席にいるヴィスタを見やる。俺はミラーごしに確認したあと、正面に向き直った。
「女王が予見したエルフの破滅は、そのダークエルフが絡んでいるのかね」
「その可能性が高くなったと思います」
アリンは沈痛な表情になる。
「集落ひとつ滅ぼしたのですが、それをやった奴らの姿は依然わからず。あれだけで終わると思えません。種族間戦争……おそらくは」
そのエルフ同士の戦争に俺たちは足を踏み入れつつあるわけだ。まあ、青エルフの残忍なやり口を見てしまった後だとな。エルフに加担したくはなるが。
おや――街道の向こうから集団が見える。エルフだろうが、このままだとちと面倒だ。
「アリン、天井にハッチあるからそれ開けて、エルフが乗ってるのを見せてやってくれないか」
「はい?」
「正面から、お仲間の集団だ。……このまま進んで敵と間違えられても困るからな」
何せ魔法装甲車なんて、エルフたちも見たことがないだろう。アリンも慌てた。
「そ、そうですね! ……えっと、どう開ければ」
「ベルさん、教えてやって」
しょうがねえなぁ、と黒猫が助手席上のハッチの開け方を教えて、アリンは車外に上半身を乗り出した。
正面のエルフ集団は、こちらに警戒感丸出しで弓を構えていた。まあ、そうなるな。
・ ・ ・
アリンが味方だと報せて、エルフ集団とすれ違った俺たち。やがて魔法装甲車は、エルフの里のほぼ中央にあるひときわ大きな古代樹のもとにたどり着いた。
この古代樹の森のなかでも特に大きなそれは、世界樹とも呼ばれているそうな。この木――スカイツリーに、エルフの里における首都にあたるヴィルヤが存在する。
世界樹の根元にも城壁と城下町があるが、女王がいる空中都市には、この大木を登っていく必要があった。
案内人のアリンによって城門からの通行を許可された俺たちは城下町へと入る。当然ながら、デゼルトの姿はエルフたちに驚かれ、また同時に恐れの目を向けられた。いきなりこんなもので乗り付けて、すまないね。
アリンの他にエルフの戦士がデゼルトの上に座り込み、周囲にも装甲車が味方であるとアピールしている中、空中都市への転移魔法陣のもとへと移動する。
本来はエルフ以外は利用禁止らしいのだが、英雄ジン・アミウールを女王陛下自ら招いたということで、特別に装甲車ごと転移させてもらえることになったのだ。まさに賓客扱いだった。よそ者に冷淡という評判のエルフらしくない扱いである。
車体上部ハッチを開いて、アーリィーやマルカスらもエルフの町や住民たちを眺める。カランの集落と違って城下町はツリーハウスではなかった。人間にも比較的見慣れた形の民家と緑豊かな木が立っていて、自然と建物が両立する町並みをみせている。
「あれは……魔石? いやでも大きい――!」
アーリィーが声をあげる。
町のところどころに、民家の高さにも劣らない巨大な水晶のような柱が見えたのだ。ユナがアーリィーの隣にひょっこり顔を出す。
「あれは、おそらく結界水晶ですね。強力な魔法障壁を展開する一種の魔石です」
私も初めて見ますが、とユナが言えば、ベルさんも専用席を離れ、女子たちに混ざる。
「そうだよ。ここヴィルヤを守る結界装置さ。たしか全部で八つあるって聞いたな」
「そういえば、お師匠とベルさんはここに来たことがあるんですよね?」
「ん?」
「エルフの女王からお声がかかったとは窺っていますが……。どういう経緯でエルフの里に?」
「言ってなかったっけか?」
ベルさんはユナの胸に顔をうずめる。
「まあ、ちょっとした迷子を送り届けたついでに、エルフの里がオークに襲われてな。そこでオイラとジンで大暴れしたのさ」
「その活躍の覚えもめでたく、今回お声がかかったと?」
ベルさんを抱き上げるユナ。黒猫は「まあ、そうだな」と頷いた。
やがて、魔法装甲車は転移魔法陣に到着。馬車ごと移動させられる転移魔法により、光に包まれた俺たちは、世界樹の上層、空中都市ヴィルヤへ飛んだ。




