第356話、避難民たち
街道を進む集団。戦闘機で接近すれば先方を驚かせてしまうので、ナビに命じて映像を拡大表示させる。それは操縦席のコンソールパネルだけでなく、後席の制御パネルにも映し出された。
「……ドワーフだな」
薄汚れ、怪我をしている者もいる集団が疲れきった様子で歩いている。まるで災害か戦争から逃げてきたような有様だ。
ヴィスタが口を開いた。
「珍しいな。穴倉生活のドワーフが、地上を集団で行くなんて……」
「近くにドワーフの集落があるのかな?」
そこから逃げ出すようなことが起きたと思うのが自然だろう。問題は何があったのか、だが……。
「寄り道する余裕はあるかな?」
「下りるのか?」
「魔力エンジンの魔力が心許ないからな。そろそろ、一度下りて休息と補給が必要だ」
ついでに、あのドワーフたちから話を聞こう。
俺は操縦桿を捻り、トロヴァオンを旋回させる。一度戻ってドワーフ集団の先を行く。彼らから戦闘機が見えない位置で地上に降下して、そこでポータルを展開。食糧や水などの物資をウィリディスから運び込むという算段だ。
ヴィスタは何か言いたげではあったが、反対意見は言わなかった。
周りが森で木々が密集していたから仕方なく街道に降下する。そこからポータルを使い、トロヴァオンの魔力タンク補充を兼ねて、ウィリディスへ移動。SS整備員たちに愛機を任せると、待機していたアーリィーやベルさんたちがやってきたので、事情説明。
「ドワーフ!?」
素っ頓狂な声を上げるベルさん。俺は肩をすくめた。
「着の身着のままの集団を放っておくわけにもいかないでしょ」
そんなわけで、怪我人もいるようなので治癒魔法を使えるメンバー――クロハを除く翡翠騎士団メンバー全員を召集。
俺はサフィロの素材生成を利用して、白パン60個と加工済み牛肉を丸々二頭分用意させた。空から見てナビに確認させたところ、ドワーフは60人いたから、とりあえずは足りるだろう。
それらを魔法車に載せて……ちょっと問題が発生した。
「はたして、手先が器用で物作りが得意なドワーフの集団に車を見せていいものかどうか……」
「あまりよろしくないね」
ベルさんが鼻を鳴らせば、マルカスも腕を組んだ。
「問題だな」
「でも放置しておくわけにはいきませんわよね?」
サキリスが言い、アーリィーも頷いた。
「車を見せるのが嫌だからって理由で助けないわけにもいかないと思うけど」
「そりゃそうだ」
俺は苦笑する。
「古代遺跡から発掘したオーパーツであることで乗り切ろう」
デゼルトの車内、また屋根上に物資を山積みにして、俺たちは再度ポータルを通って街道に戻った。そのままドワーフ集団に向かって、ゆっくり前進した。
助手席のアーリィーが不安げに俺を見た。
「きっとデゼルトを見たら、ドワーフたち、隠れちゃうんじゃないかな?」
「確かに。こいつ見た目ゴツイからな……。マルカス、鉄馬で先行して、ドワーフたちに会って話をつけてきてくれないか?」
「おれがか?」
指名されると思ってなかったのか、若き騎士生はビックリしたようだった。
「おれにその役が務まるか?」
「何事も経験だよ、マルカス君」
「しゃあねえ、オイラがついて行ってやるよ」
黒猫姿のベルさんがひょいと専用席から後ろへと移動した。
かくて、積み込んでいた浮遊型鉄馬に乗ったマルカスとベルさんが、デゼルトから先行して、ドワーフたちと接触することになった。
・ ・ ・
ドワーフたちは警戒感を隠そうとはしなかったが、接触には成功した。
デゼルトが近づくと、新手のモンスターかと数少ない武器持ちのドワーフが身構えたが、そこはマルカスとベルさんが静めてくれた。
ドワーフの代表者の話によると、ここから半日の距離にある台地の地下にドワーフの集落があるのだが、そこが水晶喰いの集団に襲われたのだと言う。
「クリスタルイーター……」
「デカいワームだよ」
イスクと名乗るドワーフは、その横幅のある体躯を揺らしながら答えた。ドワーフ集落アクォでは村長代理らしい。
負傷した者を俺の仲間たちが魔法で手当てし、食糧を配っているのを見やり、俺はイスク氏から話を聞いていた。
「鉱物を喰う魔物でな、とくに水晶を好んで喰うといわれる。ふだんは一匹、二匹で動いていて、群れることはないんじゃが、今回は軽く十匹以上が押し寄せてな……」
集落の戦士団が立ち向かったが、ふだんより多い水晶喰いたちの侵入を阻むことができず、避難してきたらしい。
「それは災難でしたね」
「ふむ。我々は近くのドワーフ集落まで移動している最中だったのじゃが、なにぶん地下がイーターどもに荒らされていて地上に出るしかなかった。しかも武器以外に持ち出せるものがほとんどなかったからのぅ」
そういうイスク氏の腰には手斧が一つ。
「正直言うと、お前さんたち怪しさ爆発なのじゃが、何にせよ、食糧の提供は感謝する」
「……まあ、困った時はお互いさまって故郷の言葉でして、見かけた以上無視もできなかった」
「人間とドワーフじゃぞ? 無視しても問題なくはないか?」
「種族差別主義者ではないので」
「ガハハっ! 何にせよありがたい。このお礼はいつか機会があれば」
機会があれば、ね。最初から期待はしていない。
「で、この妙な筒だが……」
イスク氏が俺の渡した蛇口付きの水筒を怪訝そうに見やる。
「これっぽっちの大きさでは、水なぞほとんど入っていないのではないか?」
「それは魔法具ですよ。中に入っているのは魔石です。頭のところの取っ手を捻ると水が出る仕組み」
「おおっ!」
どばどば、と水が流れ出る。コップをあげるから、あまり無駄づかいしないで欲しい。
「凄いな、どれくらいの水がでるんじゃ?」
好奇心をむき出しにイスク氏が聞いてきた。
「さあ、魔石の魔力が切れるまで出続けるんじゃないですか。魔力を込められる人います? それなら魔石に魔力を注ぎ込むことで使用できる量が増えますよ」
「こいつは凄い魔法具だ! これをくれ! いや売ってくれッ!!」
「お金ないでしょ? 譲りますよ」
「ほ、ホントか!? それはありがたいが……」
「さっきも言いましたが、困った時はお互いさまってね」
少なくとも人の弱味につけ込んだ商売はするつもりはない。




