第331話、トキトモ工房、ヘリコプターを作る
「ヘリコプター……ですか? お師匠」
ウィリディス屋敷の前の泉の近く。午後の日差しが降り注ぐ中、初めて聞く言葉に、銀髪巨乳の魔術教官であり弟子であるユナは怪訝な顔になった。
「その、手にしているのがヘリコプターなのですか?」
「いや、これは竹とんぼだ」
ダンジョンコアの魔力生成で竹を作り、それを削って俺が作ったものだ。……竹とんぼなんて子供の頃以来だ。爺ちゃん家で作ったことがある。
「これは玩具だが、こうやって――」
軸を回しながら離すと、回転する二枚の翼によって空へと飛び上がった。
ユナ、そしてそれを見ていたアーリィーとベルさんが「へぇ」と声を漏らした。
「飛んだね」
「飛んだな」
勢いよく回転して飛んだ竹とんぼは、やがて回転する力を失い、落下した。
「落ちたな」
「落ちたね」
二人をよそに、俺は竹とんぼを拾いに行く。ユナがついてきた。
「浮遊の魔法を使えば、飛行は可能ですが」
「わからないか? 魔法を使わなくても飛べるんだよ」
俺が指摘すれば、ユナは何とも言えない表情で竹とんぼを見つめた。
「でも、落ちました」
「ずっと飛び続けるわけじゃないからな。だからずっと……いやまあ限界はあるが、長い時間空を飛ぼうっていうのが、ヘリコプターなんだよ」
ヘリコプター。回転翼機とも呼ばれる航空機の一種。ローターと呼ばれる回転する翼で揚力を発生させ、空を飛ぶ。
俺はもう一度、軸を回転させて竹とんぼを飛ばした。
「ユナよ、回転翼が揚力を生み出すことで、あの竹の玩具は空を飛んでいる」
「……じきに落ちてきますよ」
身も蓋もないことを言いやがった。事実ではあるが。
「重力に揚力が負けた結果、あの竹とんぼは落ちてくる。では、あれがずっと回転し続けたら、つまり揚力を発生し続けて重力に勝ち続けたら、どうなる?」
「……飛び続ける、でしょうか」
「素晴らしい。それがヘリコプターが飛行する原理だ」
またひとつ賢くなったな。俺は竹とんぼをユナに手渡した。彼女はしばし、竹とんぼを飛ばした。回転させるのではなく、浮遊の魔法で。
「こちらのほうが楽です」
「君にとってはね。だが同じことをマルカスやクロハにできるか? 今すぐに」
「教えなくては無理です。訓練も必要です。あと魔力を操る能力も」
「だが竹とんぼは、すぐに飛ばせるようになる」
浮遊を解いた竹とんぼを受け止めるユナ。アーリィーがやってきた。
「ユナ教官、その竹とんぼで遊んでいいかな?」
「どうぞ」
ユナから竹とんぼを受け取ったアーリィーは、さっそく俺がやったように手を合わせて回転させて飛ばそうとする。最初は苦戦したが、二回、三回とやってすぐに真っ直ぐ飛ぶようになった。
「大きな回転翼に、軸を回し続ける動力をつければ回転を操れるようになり、空を飛ぶ乗り物を作ることができる」
「動力とは、魔石エンジンですか?」
「ご名答」
本当はエンジンなんて大層なものでなくても、魔石と魔法文字で繋げればある程度は飛ぶんだけどね。
ユナは小首をかしげた。
「魔石エンジンを使うということは、結局魔法頼りでは?」
「ユナ、魔石の魔力を使うのと、魔法で魔力を使うのは似ているようで違うぞ」
「どう違うのでしょうか?」
魔法に関しては、割と容赦なく質問してくるユナである。ここは魔法の天才と謳われたらしい幼少からの彼女のアイデンティティなのかもしれない。
「さほど難しい話じゃない。例えばウィリディス屋敷の水道蛇口。魔法が使えなくても、水が出せるだろう?」
実際な、俺のいた世界に魔法なんてなくて、魔力とは別の機関、装置で空を飛んだりしていた。魔力を使うというのは、それの代替に過ぎないのだ。
・ ・ ・
ウィリディスの地にあったダンジョンで高純度の魔石を手に入れたこと。それを使って最初に作ろうと思ったのはヘリコプターだった。
何故かと言うと、浮遊型鉄馬を作ったせいである。
というのも、あれも魔石エンジンの魔力を浮遊の魔法に変換して地上から浮かび上がって進むという乗り物である。その操縦が、ヘリの操縦に似通っているのが影響している。
鉄馬浮遊型は、浮遊に使う魔力の強弱で上昇下降を行う。浮遊の際の重心の傾きを調整することで前後左右への移動を可能としている。
対してヘリは、揚力が重量に勝れば上昇。逆に揚力が重量に負ければ降下。ホバリングと呼ばれる空中での静止は、揚力と重量が吊りあっている状態である。上昇、下降はローターの推進力の強弱。前後左右の動きはローターの回転面、その傾きで行う。……ほら、似てるだろう?
そこで浮遊型鉄馬をベースに、軸と回転翼を取り付け、浮遊魔法に加え、揚力を使ってより速く、高く飛ぼうと言うのが、魔石エンジン搭載ヘリコプターの着想の経緯である。
ウィリディス屋敷のある小山の中をダンジョン工法でくり貫き、北東方向に地下巨大格納庫を拡張。崖になっている北東方向と平地となっている東側、双方に大型車両やヘリなどが通り抜けできる開口部を作る。地下格納庫って秘密基地みたいで、ロマンだよな。
この地下格納庫は、一階中央深部の実験室などがある区画と繋げられていて、屋敷からの行き来が可能になっている。ただ騒音などの問題も考えて、居住区からは離してあるが。
さて、鉄馬改良の試作ヘリ製作である。
回転軸と改良エンジン、メインローターに、テールローターの付いたテールブームを取り付ける都合上、鉄馬のボディを大型化する。
試作一号は単座でいいだろう。実際に運用して、きちんと飛ぶかテストして、より各部品の精度をあげて改良していく。いずれは複座、より大型の汎用ヘリなども作ろうと思う。
基本的に、揚力を生み出す回転翼を魔力で回転させる。魔石エンジンはそのための動力であり、魔力タンクは燃料タンクに当たる。
操縦系統は簡素だ。
操縦桿を動かすことで、回転翼の角度を調整する。これは実際のヘリと同じだ。昔ラジコンヘリを飛ばさせてもらった時にそう教わった。傾ける方向で推進力の差が生まれるから、それを利用して機体の前進や後退、旋回などを行う。
上昇や下降は、メインローターの回転の強弱調整。上下の制御をスロットルと言うので、その操作はレバーで行う。いわゆるスロットルレバーというやつだ。
まあ、車のとき同様、魔力伝達線を必要箇所に繋げるのと、魔法文字による効果を刻む必要はあるけどね。
ローターの大きさや形については、飛ばしていく上で試行錯誤していくしかあるまい。そこは専門家ではない素人ゆえであるが。
ともあれ、試作ヘリ製作は周囲の関心を引きつつ進行した。
マルカスは鉄馬浮遊型をいたく気に入っていて、ヘリにも興味津々だった。アーリィーもまた同様で、夫婦の営みで魔力補充を助けてくれながら、俺の作業を応援した。
ユナも、俺の弟子として作業を手伝いながら、時々その立派なお胸で癒してくれたりした。
・細かな点を上げると、言うほど浮遊型鉄馬とヘリは似ていない。
・魔法が使えなくても使えるとは言ったけど、魔法を使わなくても作れるとは言っていない。




