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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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332/1945

第330話、魔の森と迷いの森  


 爆弾解体のシチュエーションがあったら、転移の杖で吹っ飛ばす――この杖を作ってから、何度か弄んだ妄想が現実になる日がこようとは……。


 それはそれとして、その後の話をしよう。


 あの動力炉じみた柱が消えたことで、ダンジョンコア(サフィロ)が機能するようになった。あの飛ばした柱の中に、このダンジョンを制御していたコアがあったということだ。

 さらに地下を探索した結果、先にシェイプシフターの偵察で見つかった魔石以外にも、多数の魔石が大部屋に保存されているのを発見した。


 百メートル四方の正方形の部屋に輝く多くの魔石は、まさに宝の山と形容するにふさわしい。鉱山に埋没する鉱物を全部集めたらこんな光景になるのか、そう思わせるだけの圧倒的な量である。しかもそれが五つ。


 お金に換えたら、一生遊んで暮らせるのを通り越して、末代まで無職でも食っていけそう……。まあ、これだけ大量の魔石を一度に換金したら値崩れ起こして、魔法触媒としての価値はともかく、お金にはならなくなるだろうな。


 サフィロによるダンジョンの掌握の結果、この場所のことが色々わかってきた。


「へえ、ダンジョンマスターは魔法使いだったわけか」


 ウィリディス屋敷、その泉近くの人工浜辺。デッキチェアに寝そべるベルさんが言った。隣のチェアに座る俺は頷く。


「そう。それであそこにあったダンジョンコアは、人工のものだったらしい」


 ダンジョンコアはオパロ型と呼ばれる人工コアだ。サフィロとは同年代のものらしい。


「ウィリディス……、当時は魔の森と呼ばれていた」


 この地に、オパロ型コアとそのダンジョンマスターが来たのは、いまから数百年ほど前のことらしい。

 有数の魔獣多発地帯であり、天然のダンジョンコアが発生してのダンジョンスタンピードが頻発(ひんぱつ)していた。


「魔力の吹き溜まりってことか」

「そういうこと」


 ダンジョンマスターは、所有する人工コアをこの地に設置し、集まってくる魔力を魔石に変換することを決めた。

 天然のダンジョンコアが成長するに必要な魔力を魔石に変換し、一定の大きさになったところで地面から切り離すことで、その成長を止める。天然のダンジョンコアが成長しなければ魔獣も圧倒的に増えない。そうすることでスタンピード現象の防止を図ったのだ。


「いい魔法使いじゃねえか」

「魔獣ではなく魔石を。それ自体は悪くない案だった……」


 だが、魔石は強力な魔法の触媒となる。それを多数溜め込めば、その魔石を欲しがるものが増える――ダンジョンマスターはそれを危惧した。


「それで、そのマスターはどうしたんだ?」

「森に魔法をかけたのさ」


 魔の森に強力な迷走の魔法を施した。幸い、それを維持するに充分な魔力がウィリディスにはあった。

 それが迷いの森の誕生である。結果、数百年の間、人間を拒む土地となった。


「……しかし、迷いの森の魔法に、誰もそれが魔法と気づけなかったってぇのは、にわかには信じられねえな」


 ベルさんがチェアの上でゴロゴロと転がった。思わず撫でたくなったが自重。


「俺たちだって気づかなかっただろう?」

「そりゃそうだけどさ……」

「それだけ術者が……ダンジョンマスターが優れた魔術師だったということだろう」


 他に破れる者がいなかったことからして、数百年に一人の大天才だったのかもしれないな。

 俺は泉へと視線を転じる。水遊びに興じるアーリィーとサキリス。白い肌に水着、揺れる胸、引き締まった腰、すらりと伸びた足が、実に健康的だ。


「溜めに溜めて数百年か……」


 俺は呟くと、天を仰いだ。


 ひと財産。大量の魔石。小さな国が買えそうでもあるし、存在が明らかになれば、欲しがる――いや手に入れようとする輩はそれこそごまんといるだろう。ある種、危険な火薬庫があるようなものだ。……まあ、実際、他の手に渡るくらいなら全部吹っ飛ばす、といにしえの魔術師は自らの死後もそう準備していたけどな。


 もし貯蔵されていた魔石が全部破壊エネルギーに変換されて解放された場合、ウィリディスだけでなく、王都あたりまで被害が出ていただろうな。


 核兵器並か、それ以上の……。

 そのとき、俺はふと脳裏によぎってしまった。……もしこの魔石のエネルギーを、ヴェリラルド王国の北にまで侵略してきた大帝国に向けたら、どうなるかを。遅かれ早かれ、この国にも連中がやってくる。そうなったら――


「ジン、何を考えた……?」


 ベルさんの目がじっと俺を見ていた。


「お前さん、いま悪い顔をしていたぞ」

「俺の世界にいた頃のことを、少しな」


 俺はその思考を断ち切り、話題を変えた。


「現状大量の魔石を手に入れたが、問題がひとつ。このウィリディスに吹き溜まりとなる魔力の処理についてだ」


 放置すれば、豊富な魔力で天然のダンジョンコアが生まれ、処理をしなくてはいずれスタンピード現象にまでなる厄介な状況となる。


「でも、解決策はあるんだろう?」


 どうでもよさげに、ベルさんがごろりと向きを変えた。


「でなければ、ここでのんびり遊んでいるわけないもんな」

「……」


 まあ、そうなんだけどさ。

 幸いなことに、かつてのダンジョンマスターと同じく、俺も人工コアであるサフィロを保有していることだ。


「サフィロに相談したら、オパロ型が管理していたダンジョンに、上位型のコピーコアを置くそうだ。引き続き、魔力を魔石に変換する作業をさせて、現状維持を図るってことだな」


 大きさにこだわらなければ、魔石の生産工場とすることも可能だ。


「……それが無難だろうな」


 ベルさんも同意した。それっきり、黒猫は黙り込む。どうやら昼寝するつもりのようだ。


 俺もチェアに横たわる。

 で、手に入れた大量の魔石だが、これらはこちらでちまちま使っていくことにする。せっかく上質の大型魔石などもあるのだ。……色々、作ってみようじゃないか。


 すまんね、いにしえの魔術師殿。あんたは人に使われるのは嫌だっただろうが、あんたの遺産は有効活用させてもらうよ。

 高出力の魔石エンジン。それを搭載する器を、色々とね。


 まずは図にして、サフィロの力でパーツを作ってだな――

 ともあれ、ウィリディスの休日は、穏やかに過ぎていく。

『ウィリディス開拓編』終了。

 次回から、『編成、トルネード航空団編』スタート。


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