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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第328話、ダンジョンの主 


 何度かゴーレムの迎撃を切り抜けたあと、大きな穴の開いたフロアを通った。落とし穴というわけではないが、部屋の中央の通路を進みながらスフェラに命じて、シェイプシフターの偵察体に下の様子を見に行かせた。

 鷹型になった偵察体は下まで降りるとその姿が上からでは見えなくなったが、少しして戻ってきた。


『大量の魔石が保管されています』


 意外な答えだった。それも大小合わせて軽く百は超えているという。

 それが魔石であるということを考えれば、お宝と言っても過言ではないだろう。魔法使いにとっては、下手な宝石よりも価値がある代物だ。

 それが大量とは……。ここのダンジョンマスターは、魔石収集が趣味なのだろうか。


 いや、このウィリディスの地は魔力が豊富な土地だ。ひょっとしたら、地形的に魔力が集まりやすいから、ここにダンジョンを作って魔石作りをしていたのではないか……?


 真相を確かめるべく、俺たちはダンジョンの深部へと向かった。地下へ降るまたも長い階段のある通路を下へ下へ。

 階段通路の奥の部屋から、強い魔力を感じた。ベルさんの毛が逆立つ。


「何かあるぞ、この奥はよ」

「ダンジョンコアかな?」


 俺は自然と口もとが歪むの感じた。できればボスのような強いガーディアンなどが配置されていないといいんだが。


 それは期待薄か。水の地下神殿、古代竜の地下都市ダンジョン、マントゥルの廃城地下――ダンジョンコアがあったダンジョンは全部ボスじみたやつがいた。


 重々しい金属扉を押し開ける。

 中は高さ約20メートルほど。奥行きは30メートルほどだろうか。SF作品で見るような動力設備っぽい巨大柱をバックに、金属製のゴーレム――高さおよそ10メートルほどの巨体がそこに鎮座していた。


 ここまで来ると巨大ロボットみたいなものだ。ブンっ、と二つの丸型の目が緑に光る。その外観は金属製のゴリラのようだ。腕が足に比べて長く、大きいこともさることながら、全身金属の鎧をまとったように頑強。これまでのガードゴーレムと違い、手足や腰は繋がっているので、例の魔力崩しによる崩壊は見込めない。


『シンニュウシャ、ハイジョ……』


 ゴリラ型巨大ゴーレムの声か。機械音声じみたその声にあわせ、ゴーレムが動き出した。 ですよねー。


「一度、後退! 部屋から出ろ!」


 俺は声を張り上げた。ベルさんとマルカスが目を剥いた。


「逃げるだぁ!?」

「ここでか!?」

「名案があるなら聞くが、とりあえず部屋の外に出ろ!」


 あの巨体だから、扉くぐって追ってこれないから!


 ユナ、アーリィーがすぐに反応し、スフェラや俺、サキリスも下がる。マルカスとSS兵が殿軍を務めるが、その必要もなく、無事に階段通路へ戻った。


「戦わずに逃げるなんて!」


 マルカスが荒い声で言ったが、俺は首を振った。


「誰が逃げるか。頭を働かせろ」


 俺は階段の段差に腰を下ろした。


「あのゴリラ――まあゴリラと勝手に呼ぶが、あいつはおそらく装甲が厚い。しかもでかいから、剣は通らないだろうし並みの打撃もまったく効かないだろう。……誰か、あいつのコアを見たものは?」


 俺が言えば、一同は顔を見合わせ、首を横に振った。


「つまり、今のところ弱点も見つかっていない」

「……」


 それを聞いて、マルカスは俯いた。


「すまん」

「なに?」

「声を荒げたことだ。悪かった」

「気にしてないよ」


 本当に気にしていなかった。それよりもあのゴリラ・ゴーレムを潰す方法を考えていた。

 ガードゴーレムのように魔力を切断する手もあるが、装甲に覆われている手足は、外からでは的確にその位置がわからない。なら全力で、となればそのまま手足を切ったほうが早いが、その場合は切れるかどうかという問題もある。

 アーリィーが魔法弩(ディフェンダー)のシリンダーを撫でる。


「最大チャージした一撃なら抜けるかな?」

「どうかな、やってみないことはわからないが。……俺、あのゴリラの後ろにあるものが気になってるんだ」

「後ろ?」

「何らかの動力設備っぽいのが見えたんだが」


 動力設備、と言っても、周囲の反応がいまいちピンときていない顔をしていた。そもそも車に搭載している魔石エンジンがどうのって言っても、たぶんよくわかっていない者たちばかりだから、理解できないのかもしれない。


「要するにだ、強い衝撃や攻撃を喰らったら、大爆発を起こしてしまうようなヤバイやつがあるかもしれないってことだ」


 確証はないけどな。だから杞憂(きゆう)かもしれない。どっちにしろ――


「地下だから、光の掃射魔法をぶっ放すなんてこともしないし、聖剣での一撃もなしだ」


 天井崩れて生き埋めなんて御免被る。ちら、と俺はベルさんを見る。


「……デスブリンガーなら、斬れないか?」

「やってみないとわからんな」


 意外にもベルさんは慎重だった。


「あのゴリラ野郎の金属がただの鉄なら斬れるだろうが、そうじゃねえなら断言はできねぇよ」


 ――まあ、本来の姿を現しての一撃なら……、とベルさんが魔力念話で言った。ただ本来の魔王の姿は、ここにいる者たちの前ではやりたくないと思っているだろう。


「俺も正直に言うと、できればあのゴリラは捕獲したいんだよね。今後の研究のためにも」


 あのサイズの巨大ゴーレムなど早々お目にかかれるものでもない。そう言ったら、「え?」とアーリィーやサキリスにびっくりされた。ユナも少々引いているようだ。……彼女なら魔法研究に理解を示してくれると思ったのだが。


「倒すのではなく、捕獲するって……どうやって?」


 マルカスが当然の疑問を口にした。そう、問題はそれだ。あのゴリラを巨大ロボットと考えて、それを捕獲するならどんな手があるか?


「倒すより捕まえるほうが難しくね?」


 ベルさんがごもっともなことを口にする。ユナが言った。


「バインド系を複数使って動きを封じる……。問題は、あの巨体ですから抑えきれるか、ですが」


 力任せに魔力の拘束を引きちぎってしまうかもしれない。綱引きするようなものだからなぁ……。


 弱点があれば、そこを狙えばいいが、今のところ有力なものはなし。装甲が硬ければ、防御が比較的手薄な関節を狙え、というのが古くからの戦術である。全身鎧をまとった騎士を破るために、関節や鎧の隙間にレイピアを通せっていうのはそれだ。……ふむ、関節ねぇ――


 俺は、先ほどから沈黙を守っている漆黒の魔女を見た。


「スフェラ、ちょっとばかりお前の力を借りるぞ」


 正確には、シェイプシフターたちだが。


「俺に考えがある」

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