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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第325話、ウィリディスの謎


 魔力を使った監視コアの量産。


 長さ1メートル50センチから2メートルほどと違いはあるが、基本は柱である。廉価版ダンジョンコアこと、コピーコアをひとつ備えている。


 サフィロによって数が揃ったら、それを手分けしてウィリディスの地に分散設置する。

 俺は魔法装甲車(デゼルト)を運転し、迷いの森から内側かつ、屋敷から遠いところをまわる。アーリィー、ベルさん、マルカスにスクワイアゴーレムが同行する。


 一方、つい先日魔法車を修理できたユナは、それを運転して近場をまわる。同行するのはサキリスのみ。……車自体あまり大きくないから、スペースがないので仕方ない。

 なお、スフェラが作ったシェイプシフター兵たちも、それぞれ監視コアを持って設置のお手伝いをしている。


「あ、ジン。そろそろだよ」


 助手席で地図を見ていたアーリィーが教えてくれた。小高い丘と木が立ち並ぶ林がある。監視コアの設置ポイントだ。俺はデゼルトを停車させた後、後部のハッチを開く。


「じゃ、マルカス、頼むぞ」

「了解。ブラオ、行くぞ」


 小型の従者ゴーレムであるブラオが、監視コアを背負ってマルカスの後に続く。その後ろ姿を見送ったベルさんは振り返った。


「嬢ちゃんよ、あと何箇所まわるんだ?」

「うーん、七箇所だね」


 アーリィーが地図を眺めながら言えば、黒猫は俺を見た。


「面倒だなぁ……。つか、迷いの森突破して誰が来るってんだ? オイラたちが来るまで誰もこなかったんだろう?」

「でも俺たちは現にここにいる」


 俺は皮肉った。


「今後も誰もこないなんて、何故言えるんだ?」


 それにな――俺はアーリィーに地図をくれ、と合図する。


「このウィリディス全体を探索したわけじゃないからね。魔力が豊かな土地ってのは裏を返すと、ダンジョンが形成されやすい場所でもある。何かあるのか、あるいは何もないのか確かめる必要がある」

「それって、ダンジョンがボクたちの家の近くにあるかもしれないってこと?」


 アーリィーがベルさんの専用席をこえて、俺のそばから同じく地図を見る。……ちなみに人前で「わたし」なんて一人称を変える努力をしていたが、中々直らず、最近では「ボク」に戻っていた。ボクっ娘もいいと思うよ俺は。


 期せずして顔が近いが、愛する嫁さんならむしろもっと近くてもいいよ。と、そこへベルさんが俺の肩によじのぼってきた。地図を見ようというのだろう。


「お隣さんがダンジョンなんてゴメンだね」

「それな。見張るのは外側だけじゃないってことさ」


 ウィリディスのほぼ中央に位置する俺たちの屋敷。北側はさほど高くない山がいくつか連なっているし、南と西は迷いの森とは別の森が広がっている。東側も森があって、その先に丘が壁のようにそびえ、迷いの森との間の視界を遮っている。全体をぐるりと取り囲んでいる迷いの森の内側も、結構な広さがあり、たとえば洞窟などがいくつあるのか、いまだ俺たちは把握しきれていなかった。


 でも、とアーリィーが口を開いた。


「ウィリディスには危険な魔獣はいないんだよね? せいぜい狼とか蛇くらい?」

「だから気になるのさ。これだけ魔力が豊かな土地ってのは生き物も多彩なはずだから、もっと物騒な魔獣が徘徊していてもおかしくない」


 だいたい秘境なんて呼ばれるような場所ってのは、身体のデカい魔獣やふだん見かけないようなやつがいるものだ。人がいない土地ならなおのことだ。


「人が入れるなら、そういうのを狩ってしまったとかわかるんだけどな……」


 家作りが進んできたからこそ、気にはなっているのだ。不安の種は潰しておくに限る。監視網の形成は、それが目的でもある。

 その時、後部で靴音がした。マルカスとブラオが、監視コアの設置を終えて戻ってきたのだ。


「ごくろうさん」

「あと、いくつあるんだ?」

「七箇所」


 俺が答えると、マルカスは頷きながら、後部の座席に座った。地図をアーリィーに返すと、俺はハンドルを握った。


「じゃ、次に行くぞ。アーリィー、ナビ頼む」


 アクセルを踏み込み、デゼルトは動き出す。ちょっとしたドライブ気分で進めば、装甲車搭載のコピーコアがサフィロの声で報告してきた。


『マスター、監視コアを設置中のシェイプシフターが、未識別のゴーレムと遭遇、交戦状態に入りました』

「未識別のゴーレム?」


 なんだそりゃ。ゴーレムって言ったら魔獣というより人工生成物。まったく予想外だった。


「どういうことだ?」

『監視コアからの映像がありますが、転送しますか?』

「頼む」


 次の瞬間、コピーコアからホログラム状の映像が浮かび上がった。


 目は一つ、丸い肩を持ち、胴体中央にはゴーレムコア。上半身と下半身の間、つまり腰部がなくて、その上半身は浮いている。魔力で腰や手足が繋がっているようだ。


 なるほど、見たことない型だな。だがそいつが何故突然現れた? 映像の中のゴーレムが右から左へと移動していく。


「シェイプシフターはどうなった?」


 交戦中と聞いていたが、映像にはその姿は映っていない。


『現在、交戦中』

「呼び戻せ」


 一旦引き上げさせる。そう思った俺だったが、コピーコアの返事はそっけなかった。


『シェイプシフターと交信の手段がないため、その命令は実行不可能です』


 そう、シェイプシフターの管轄はスフェラであって、ダンジョンコアのサフィロではない。このシェイプシフターが、サフィロの作ったガーディアンであったなら話は別だったのだが。


「現場までナビしろ、これから向かう」

『了解』


 コピーコアのホログラフ表示が、画像から地形をあらわすマップに変化する。監視コアは設置されているので場所はわかるということだ。


 俺は右手でハンドルを握ったまま、左手で、姿形の杖に触れ、スフェラを呼び出す。


「スフェラ、敵性ゴーレムと交戦中のシェイプシフターに離脱指示を出せ。あと、監視コア設置作業の済んだほかの個体を、交戦場所付近に集めるんだ」

『承知しました、(あるじ)様』


 次に俺は、コピーコアを通してサフィロに呼びかける。


「ユナたちにもこのことを伝えて、現場で落ち合うよう指示を頼む」


 了解――サフィロの声を聞いたあと、俺は、専用席に戻ったベルさんと助手席のアーリィーを一瞥(いちべつ)した。


「どうやら、厄介事の種が見つかったようだぞ」


 そんな種はないほうがいいのだが、見つからないまま大騒動になるよりは、早いうちに見つかったほうがマシだろう。デゼルトを走らせながら、俺は思った。

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