第324話、SS部隊
SSの略は色々あるが、人によって何が浮かぶかはそれぞれだろう。そのあたり趣味趣向や仕事柄が出たりするものである。
さて、ここで言うところのSSは、シェイプシフター(Shape Shifter)だ。
現在、俺が持つ姿形の杖であるスフェラを筆頭に、シェイプシフターたちが複数活動している。
名前を与えられたSSメイド――ヴィオレッタ、ヴェルデ、アマレロ、マホンは、クロハとサキリスの下、俺たちの家の管理をダンジョンコアと協同で行っている。
それ以外にも、家の周辺に、警備ゴーレムらに混じって監視任務に就いていたりする。
ここでシェイプシフターについて、少し説明しよう。
もともと、姿を変えるモンスター、怪物、幽霊、妖怪などと呼ばれているのがシェイプシフターだ。マイナーな存在だが、ゲームの世界に目を向けると、ミミックなどの亜種が割とポピュラーだったりする。
姿を変える幽霊や妖怪たちは、世界で多く見られているが、詳細についてはよくわかっていない。
というのが俺のいた世界でのシェイプシフターだ。映画のネタになったり、ゲームでも登場していたりした。
では、この世界のシェイプシフターはと言うと……実のところ、スフェラの配下の連中しかしらないが、基本は黒いスライムのような姿をしている。
変身するという特性上、サイズや重さなどを自在に変えるために不定形の身体なのだろう。骨格なども自由に作ったり組み替えることができるので、人や動物はもちろん、宝箱に擬態しているミミックみたいにモノに化けることができるのだ。
こいつらは、敵性生物などを喰らう。かなり燃費のいい連中で、そこそこの大きさの獣を一頭喰らったら、数年単位で生きていることができるという。
また喰らった相手の姿形をコピーすることで、それに変身することができる。取り込むことで、身体の容量が増えていき、大きくなり過ぎる前に分裂することで数を増やすことも可能だ。
さらに自身の身体の一部を他の個体に取り込ませることで、知識を共有する。そのため、彼らの思考伝達能力は非常に早く、接触から数秒で情報の回収が終わる。事情説明や報告の時間が恐ろしく短いため、行動が早いのだ。
さっき分裂すると言ったが、その際も知識を持ったまま分裂するので、教育期間ほぼゼロで経験豊富な個体となる。
人間並みに頭の働くシェイプシフターがいたら、こっそり人類社会を征服することも不可能ではないと俺は思っている。気づいたら、人間は滅んでいて全部人間に化けているシェイプシフターだった……なんてホラーもあるかもな。
さて、姿形の杖は、そのシェイプシフターたちを支配する。その持ち主の命令には絶対服従。ゆえに俺が、人間社会に対する反旗を翻すなんて事態にならない限りは、シェイプシフターたちの反乱も起こりようがない。……俺が指示しない限りは。
考えようによっては、核兵器より性質の悪い杖を俺は所有していることになるな。……もしかして、古代機械文明が滅びたのも、このシェイプシフターの杖を使った奴の仕業だったりしてな……! はは……は――
いかんいかん、人工ダンジョンコアのシェルター説とか、最近妄想がたくましくなってるな俺。この姿形の杖が、いつ作られたかも定かでないのに。
閑話休題。
広大なる迷いの森に囲まれた、これまた広い未開地であるウィリディスである。俺たちののんびり生活のために人間をあまり入れないようにするという考えの結果、この地の警備などは、ゴーレムやシェイプシフターたちによって行う。
俺たちの家――通称『ウィリディス屋敷』の三階にある会議室に、スフェラを呼び、俺は私案を告げた。
用意するシェイプシフターは――
1、人型。
2、生き物型。狼や犬型のほか、ネズミ、猫、カラスや鷹など。
3、オブジェクト型。
「主様、人型というのは?」
姿形の杖の人型形態である漆黒の魔女は問うた。
「いずれ、ここには王族が来るからね」
家が完成したら、エマン王が訪れるという約束になっている。王だけでなく、俺を兄貴と呼ぶようになったジャルジー公爵や、フィレイユ姫殿下もおそらく来るだろう。
「その時に、いちおう人手は足りてますよってアピールが必要なんだ。……余計な人数を送られないようにするためにもね」
たとえば、いちおう王族であるアーリィーの身辺警護と称して近衛を派遣してきたりな。まあ、強引に理由をつけて送りつけてくる可能性は高いがね。
「かしこまりました。では、それなりに練度が高そうな兵に化けさせるわけですね?」
「そういうことだ」
あと万が一、ウィリディスの地に外部から人が来た場合、コミュニケーションが取れる者を置いておくべきだと思うのだ。それも人の姿をした者を。鹿や狼が話しかけてくるというのはファンタジーであるが、普通はびびる。
一方、動物型は偵察、斥候型だ。自然の中を徘徊してもおかしくないものを選び、積極的な警戒を行う。
対してオブジェクト型は、密かに見張るタイプだ。例えば岩や木に擬態して、侵入者などがあった場合は、密かに通報ないし追跡を行う。
かしこまりました、とスフィラは首肯したが、真顔で問うた。
「シェイプシフターはどれほどの数が必要でしょうか? 未開エリアの多いウィリディスに散らすなら、相当の数が必要になると思われますが」
そうだな……。そう言われてしまうと、考えなくてはいけない。この広いウィリディスの地全体に配置するとなると……うーん。そもそも侵入者自体、ほぼないので念のための処置ではあるのだが。
「……人型はある程度必要だ」
俺は考えた後、言った。
「だがオブジェクト型は最低限でいいかもしれない。そっちはサフィロにやらせよう」
ダンジョンコアは、この家のある一帯をテリトリー化しており、監視も行っている。その索敵範囲を多少広げれば、その役割を果たせる。
まあ、できれば見張りだけなら迷いの森の内側、ウィリディス全体をカバーしたいのが本音ではあるが。……何か異常があれば、早く発見できるに越したことはないからな。
「サフィロ」
『はい、マスター』
会議室で呼びかければ、人工ダンジョンコアは返事をした。
彼女(?)の本体は地下にあるが、呼びかければどこでも応える。某SFで『コンピューター』と呼びかければ対応するのとほぼ同じだ。……このあたりは、俺のいた世界より未来に進んでいる。
「ウィリディス全体に監視網を敷きたい。何か案は?」
『では、コピーコアの配置を推奨します』
「……ああ、コピーコア」
言われて、俺はそうかと思った。ゴーレムなどのコアとして使っている廉価版、いや機能限定型の量産型コア。だが本来は、広くなったダンジョン内の監視や代理管理・運用を行う。
『監視型コアを要所に配置すれば、早期発見、即通報が可能です』
まさに適材である。というかこっちの使い方のほうが正しい使い方だ。俺は確認する。
「監視型コアをそれなりに作るとなると、かなり魔力を使うと思うが」
『機能を監視と通報のみに限定すれば、下級の魔獣を生成するのと大して変わりません』
自律移動や、攻撃機能をもたせると魔力の消費が重くなりますが――とサフィロは付け加えた。むしろそれだと自動砲台とかゴーレムだな、と俺は苦笑する。
ともあれ、監視網を形成する方法に目処が付いた。あとは、どこに配置するかである。




