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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第321話、SSメイド

 

「結構広いね、まるでお屋敷だよ」


 俺を迎えに来たアーリィーと、家の中を歩く。床や天井、壁などは張り終えてあるが、まだ家具が置かれていないので、がらんとして殺風景である。

 だが魔石灯は機能していて、真っ暗ではなく、むしろ明るい。


「君は、むしろこれくらい広いほうが慣れているんじゃないか、アーリィー?」


 お姫様、もとい王子として王城に住んでいた彼女である。こぢんまりした家ではなく、適度に広い屋敷に設定したのも、実はそのあたりの配慮もあったりする。


 昔、漫画だったかラノベだったかで読んだんだよ。庶民の家を犬小屋かと思った、とかいうお姫様だかお嬢様の皮肉ってやつ。……まあ、アーリィーはそんなことは言わないだろうけど。でも心の中で思っていたりすると、それはそれで悲しいからな。


「広さには慣れてるけどね。……でも」


 翡翠色の瞳の少女は、周囲に視線をくばった。


「どうしたんだ?」

「ううん。これだけ広いと、管理するの大変かなーって思って」

「管理はダンジョンコア(サフィロ)がやるぞ?」


 室内の温度とか、生活環境の管理維持などは。俺がそういうと、アーリィーは小首をかしげた。


「掃除や洗濯もやってくれるの?」

「……あー、それは無理だな」


 そう指摘されて、アーリィーが言っている意味がようやく理解できた。……なるほど。


「確かに、いまその手の作業は、クロハやサキリスがやる仕事になるもんな」


 洗濯はまだしも、掃除は……たった二人でこの広さはきついな。ダンジョンとしてなら、そこまで神経質になることはないが、ここは自宅。埃などのゴミは適度に掃除しないと、衛生上よろしくない。


「よく気づいたな、アーリィー。そこまで気が回らなかった」


 俺は隣を歩く彼女の金色の髪を撫でる。目を細めて、アーリィーは照れたように笑んだ。


「えへへ。まあ、そこは普段から、執事やメイドに囲まれて生活していたからね」


 こぢんまりした家に住む庶民と王族の感覚の違いというやつだろうか。金持ちには金持ちの、貧乏人には貧乏人の気持ちしかわからないというが、こういうのもそういう感じに近いんだろうな。


「人手がいる」


 だが、現状、外部から人を雇うつもりはない。アーリィーは王族であるし、俺はここ最近英雄として名が売れてしまった。ひっそり暮らすという意味でも、人は必要最低限にしたいのだ。

 

「ジン……?」

「ひとつ、考えがある」


 俺はそれを口にした。少々使い方としてどうかと思うが……アレに頼ってみるのもひとつの案ではある。

 ここは、お手伝いさんを作ろうじゃないか。



  ・  ・  ・



「そういうことでしたら、お任せください、(あるじ)さま」


 姿形の杖こと、漆黒の魔女といった姿のスフェラは、恭しく頭を下げた。


 シェイプシフター――姿を変える異形の生物。パッと見、黒いスライムのようなそれは、サイズにもよるが大抵の生物や物体に姿を変えることができる。

 そのシェイプシフターを使役する杖は、所有者である俺の指示に応え、シェイプシフターを複数体生み出した。

 それらは人の形に変化し、やがてうら若きメイドさんたちになった。それが四人。


 衣装はメイド服で統一されているが、顔や髪の長さなどはそれぞれ異なっている。さすがにクローンみたく同じ顔が並んでいるという光景は避けたのだろう。紫髪に、緑髪、金……黄色髪? それに茶髪。……茶髪の子以外あまり人では見ない髪色である。


「名前はあるのか?」

「主さまのご随意に」


 そうか……。うーん――

 英雄時代に、連合国で覚えた色の名前をそのまま当てはめるか。紫の子がヴィオレッタ、緑の子がヴェルデ、黄色の子がアマレロ、茶色の子はマホン。


 人の形をしているが、中身はシェイプシフター。だからというわけかはわからないが、ユナばりに皆、表情に乏しい。整列しているさまは訓練されたメイドに見えるが、はたして。


「スフェラ、この子たちはどれくらい働けるんだ?」

「人間のできる作業なら一通りこなせるでしょう」


 漆黒の魔女であるシェイプシフターは流れるように答えた。


「ただ、家事についての知識に乏しいので、教育する必要がございます」

「ふむ」


 俺とアーリィーは、シェイプシフターメイドたちを眺める。


「教育は、クロハに任せよう」


 元キャスリング家所属のメイドにして、魔法騎士学校では一人でサキリスの世話係を務めた女性だ。いまは俺のところでサキリス共々預かっているが、そのメイドスキルは単独で役割を果たしていたところから見ても、相応に高い。

 アーリィーが口を開いた。


「すると、クロハがメイド長ということになるんだね?」

「あー、そうなるな」


 メイド長、か。しっかり者だが、見た目地味というか、控えめな印象がある。長というイメージがつかないな。……まあ、人前に出してどうこうするものでもないし、問題はないだろう。


「ひとりが学習すれば、他の者も情報のやりとりができますから、覚えは早いはずです。必要でしたら、人数はまた増やせますし」


 スフェラが言えば、アーリィーはメイドたちを見た。


「それじゃ、皆、よろしくね!」


 メイドたちは同時に一礼した。スフェラが頷いた。


「女性型なので彼女たちと呼びますが、戦闘能力はあるので身辺警護もこなせます」

「戦闘メイドかー」


 メイドも板についてきたサキリスみたいなものか。そういえば彼女はSS装備――シェイプシフター装備をまとっているから、ひょっとしたらSSメイドたちの衣装も、そのコピーなのかもしれないな。 


 その後、未来のメイド長であるクロハと、もうひとりのメイドであるサキリスを呼んで、SSメイドたちを紹介した。

 メイド長、とクロハに告げたとき、「私が!?」とびっくりされていた。


「きっちり指導してやってくれ」


 他にメンツがいないしな。この中で、メイド暦の長さがダントツなのは彼女で疑いようがない。

 ともあれ、お手伝いさんの人数の問題は解決した。

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