第318話、実は使いこなせてなかったダンジョンコア
迷いの森の奥、自然溢れる秘境。名前のないこの地に、俺は『ウィリディス』と名づけた。
ラテン語で『緑』という意味だったと思う。自然とかの緑ではなく、カラーのほうの『緑』色である。
さて、このウィリディスの地の一角に、俺は拠点とも言うべき、家を建てることにした。
場所は、アーリィーや仲間たちと遊んだ泉、そこに面した壁面。そこから泉の方向を見ると、屋根のように突き出した上の岩から水が流れ落ちていて、一種の滝を形作っていた。南側に面したそこは、流れ落ちる水のカーテンの裏から太陽と泉、その向こうの森が見えると言う絶景ポイントでもあった。
家を建てる、と言ったが、もちろん、俺に建築の技術などない。
ダンジョンコアを所有するダンジョンマスター。その能力であるダンジョン生成の要領で家を作る、つまりはそういうことだ。
必要なのは魔力。これを消費することで、コアのテリトリー内の地形を削り、掘り、壁や部屋を形成する。……何事も応用である。
これまでも簡易なダンジョンは作った経験はあるが、普通に家ともなると少々勝手が違うだろうことは予想がついた。
王都、魔法騎士学校の地下に勝手に作った秘密通路のような建造物を作るなら、全面石造りでも問題はない。個人の部屋がそれでは実に味気ない。……いや、それなら家具や飾りなどで誤魔化せるかもしれないが。
ダンジョンと言っても、千差万別である。オーソドックスな石造りの迷宮もあれば、天然の地下洞窟、宮殿や遺跡風、これまでで見たものだとすべて氷で出来ている迷宮や植物の中がダンジョンになっているものもあった。
……ということは、である。ダンジョンコアから作れるダンジョンも、それなりにバリエーションがあるのではないか。
そこで俺は、話が通じる人工ダンジョンコアであるサフィロに問うてみた。
「魔力で変換できるもののリストを見せてくれるか?」
『はい、マスター』
木材とかあったら家っぽいものが作れるんだが、と軽い気持ちだった。
青い水晶球のようなコアであるサフィロが、淡いホログラム状のリストを表示した時、俺は思わず椅子から転げ落ちるところだった。
リスト一覧はびっしりと文字で埋め尽くされ、しかもご丁寧にスクロールしないとすべて見られないほど膨大なものだったからだ。
もっとも、よくよく見れば、建材に使えそうな素材以外にも多数のもの――例えばガーディアンモンスターや動物、植物なども含まれていた。どうやら『変換できるもの』という言い方が悪かったようだ。
……実はそのリストの中に食材など食べ物も含まれていて、その内容に狂喜乱舞することになるのだが、それはまた別の話になる。
さて、リストから建材に使えるものを中心にリストアップし、ベルさんとそれを眺める。
「ダンジョン石に、ダンジョン木?」
「ずいぶんと大雑把だな」
黒猫姿のベルさんは鼻を鳴らした。
「未加工、加工済み、サイズも選べるようだな……加工職人いらねえなこれ」
「ダンジョン生成用素材だからね」
俺はリストをなぞる。
「で、金属類。鉄や銅、金、銀、コバルトやミスリル、オリハルコン、アダマンタイトまである」
「……マジか」
「ああ。でもよくよく考えるとダンジョンには貴重な鉱石や鋼材、金属などが埋まっていたりするからね。それほど驚くことではないかもしれない」
「確かにな。魔法鉱石目当てにダンジョン入る奴もいるからな」
ベルさんは形容し難い顔になった。俺は付け加える。
「宝石の類もあるぞ。サファイアやルビー、ダイヤモンド。宝石ではないが硫黄や硝石、金属加工前の鉱物もあるぞ。……そうそう、ボーキサイト」
「何だ、ボーキ……なんちゃらって?」
「アルミニウムの原料の一つだよ。加工すると、とても軽い金属ができるんだ」
「ほぅ、軽い金属ねえ。色々あるんだなぁ。でも軽い金属ならミスリルとかあるだろ?」
「それなんだが……ミスリルを作るより、ボーキサイトのほうが圧倒的に魔力が安いんだ」
「どゆこと?」
「希少な素材や魔法金属系は、必要とする魔力消費が高いってことさ。大量に作るのは難しいってことだ」
マスターのいるダンジョンで、希少な魔法金属だけで作られたものがないのもそれが理由だろう。
作ろうと思えばミスリルのみの部屋を作ることができるが、それひとつ作るくらいの魔力で、同型の石造りや木造部屋なら、大屋敷くらいの規模で量産が可能ということだ。
……この消費コストだと、ボーキサイトって結構ゴロゴロしてるものなのかね。そういえば、アルミにするまでが大変だって聞いたことがあるな。
「じゃ、金とかも高いのかね。金ぴか屋敷とかできるかと思ったんだけどよ」
「悪趣味だなぁ、ベルさん」
「オイラの趣味じゃねーよ」
ぷい、とベルさんがそっぽを向いた。まあ、魔力消費に目を瞑れば、黄金宮殿なんてのも不可能ではないということだ。……やらないけどね。
「とにかく、魔力を支払うことで、素材はある程度自由に手に入るってことだ。そうなると、普通に家っぽく内装を仕上げることもできるな」
最悪、ダンジョンやお城風になるのを覚悟していたからな。普通が一番。
俺はリストをスクロールさせながら、その長い長い項目を流し見ていく。
「どうした、ジン?」
「……ちょっとな」
魔力と引き換えに色々できるダンジョンコア。サフィロは人工的に作られたダンジョンコアであり、それは今は無き古代文明時代の代物らしい。こんな人工コアを生み出せるほどの技術があって何故滅びたかは知らないが。
「ふと、思ったんだ。この人工ダンジョンコアってものは、実はシェルターだったんじゃないかって」
そんな馬鹿な、と自分で言って思ったが、ベルさんが先を促した。
「詳しく」
「魔力と引き換えに色々作れる。素材だけでなく、ガーディアンや動物や植物――そこから派生して食糧などもな。ひょっとしたら天然資源が枯渇して、魔力で人工的にそれらを作らないと生きていけない世界だったんじゃないかって思ったんだ」
もちろん、想像だ。妄想と言ってもいい。証拠はない。
「――と、考えたんだが、どうだねサフィロ?」
『それについてお答えできません、マスター』
機械的に、サフィロは答えた。
『私の役割は、マスターが必要とする要求に応えること。私が作られた理由などは記録されておりません』
そいつは残念。この機会に古代文明が滅びた原因を解くヒントでも得られるかと思ったのだが……。
ま、この世界の過去に思いを馳せても仕方がない。いまは、その時代の遺産かもしれない、ダンジョンコアで『お家』作りをしよう。
さて、間取りはどうしようかね……。
「ワクワクしてきたぞ」
第二部スタートです。
※注意:第一部は異世界ファンタジーでしたが、第二部よりサイエンス・ファンタジーとミリタリー寄りな面が増加していきますので、合わないと思ったら離脱してくださいませ。




