エピローグ・ラスト
昼食の後は、のんびり休憩。デッキチェア並べて日向ぼっことお昼寝。ヴィスタが椅子の上から周囲を見る。
「ジン、まわりにいる丸っこいのは何だ?」
「気づいたか。あれはゴーレムだよ」
泉の周辺に配置した警備用のゴーレム。高さ1メートル半ほど。その見た目は球形ボディに手足が生えたような形状。二足歩行の亀のような愛嬌がある。
「ゴーレムなんて、もっとガッチリしたものだと思っていた」
「可愛らしいね、あれ」
アーリィーもそんなことを言った。見かけはゆっくりゴーレムだが、その爪は電撃を帯び、また投射魔法を放つ砲を内蔵している。
まったりした後、鉄馬一号と同型のボディを使った水上バイクの試乗をする。もとの鉄馬に比べると微妙にフットペダルの位置やハンドルの形状が違うけど。スキー板付きの鉄馬水上型は、かすかに浮かび上がると水上を滑り出した。
水上を疾走する鉄馬水上型。風が身体に当たるのが心地よい。ただもっとスピードを上げると、当然風の抵抗が強くなるので、いまはいいが上着とかいるかもしれない。風防は備えているので、ある程度の風は軽減されているが。
俺が試運転で泉の上を滑っていれば、当然ながら他の面々も興味を持つわけで。泳げないを堂々と宣言していたユナは、新しい魔法具に関心を示し、マルカスもまた鉄馬同様、乗りこなしてみたい欲求が強かった。そんなことだろうと思って、もう一台用意してあるから。
アーリィーも乗りたがったが、自分で操るでもなく俺の後ろにだ。俺がもう一台の乗り方を教えてやり、随伴してやるあいだ、アーリィーは俺と同じ鉄馬に乗り、ぴったりとその身体を俺の背中に押し付けていた。……あったけぇ、柔らかぃ。
・ ・ ・
そんなこんなで遊び倒すことしばし。おやつの時間の後は、軽く周囲の探検と称して、泉に流れ込む滝、その上へとちょっとした山登りをした。
木々があって断崖の近くに沿って、左手に泉を見ながらのハイキング。やがて大した水量ではないものの川に達し、それが下にある泉に流れ込む滝のところへと行く。高さは二十メートルほどあるだろうか。泉はもちろん、対岸の森やさらに丘や山、一帯を取り囲む迷いの森もよく見渡せた。
……この近くに家を建てたら、さぞ見晴らしがいいだろうなぁ。
夕方になり、太陽が沈むのを見ながら、俺たちは泉のキャンプまで戻って晩飯の支度。といってもクロハがほとんどやってくれたけどな。ハンバーグステーキと、野菜をじっくり煮込んだスープ――この世界の味付けも悪くない。でも、やっぱり懐かしい現代の調味料。
落ち着いたら、料理を開拓するのも悪くないかもしれないな。というか、お前ら、いつまで水着のままでいるつもりなんだ?
俺もまだ穿いたままだけど、さすがに上にはシャツを羽織ってる。……つか、サキリスの格好、なんか裸エプロンにしか見えなくなっている。先ほどからマルカスの視線が落ち着かない。
裸っぽいサキリス、スリングショット水着のラスィアさん、巨乳のユナのあいだをいったり来たりしている様は、生真面目君にありがちなむっつり具合だが、彼女たちと視線を合わさないように逸らしたときに、クロハと目があって、さらに照れくさそうにしているのは何なんだろうな……。
まあ、食後にもうひと泳ぎしたから、いいんだけどさ。
よく晴れた日だったが、それは夜も変わらず、瞬く星空が水面にうつり込んでひとつの神秘的な景色を作り出していた。俺とアーリィーは、泉に膝まで浸かり、泉と星空を交互に眺めていた。
「こうしていられるのが、信じられない」
アーリィーが顔を上げた。
「ボク――わたしは王子として、このまま偽って生きるんだって思ってた。でも今は、女として生きて……しかも自由を手に入れた」
「……」
「君のおかげだよ、ジン。あの時、君に出会わなければ、いまのわたしはなかった」
初めて会ったのは反乱軍の陣地内だった。あの時、アーリィーは捕虜で……まあ、ろくな目に合わなかったのは間違いない。傭兵たちに乱暴されそうになってたし、たぶん殺されていたんじゃないかな。
「俺も、君に会えてよかった」
ひと目見た時から、たぶん惚れていたんだと思う。好みのタイプだったから。もっとも、例え好みでなくても、初遭遇があれでは助けたけど。
「ジンには何から何まで助けてもらった。わたしは、もう王子じゃないし、そういう王族としての力はないけど、それ以外のところでお返しできたら、と思う」
「うん」
「愛してるよ、ジン」
「俺もだ」
伸ばされた彼女の手を、俺は握った。本当は抱きしめてやりたいところだけど、なにやらこちらを見てニヤニヤしている御仁がいるからね。ちょっと照れくさい。……二人っきりになったらたっぷり抱き合うさ。
アーリィーも俺と同じく照れたのか、はにかんだ。そういうところもまた、彼女の魅力でもある。初々しいというか、はにかみ屋なんだよね。
二人は幸せなキスをして終了……は、もう少し後に。
・ ・ ・
ここで少し後の話をしよう。
俺は、この地に家を建てた。ダンジョンコアを使いダンジョン開拓の要領で地下を開いてひっそりコテージ風建物の裏に地下秘密基地のような拠点を作る。
そして滝のそば、地上にも豪邸風の家を建てる。ちなみに双方とも地下で繋がっているようにしたので、全体で見るとちょっとした城程度の広さになった。
俺とアーリィーは、仲間たちとここで末永く暮らしました……となるといいな。またぞろ、大帝国がこの国に攻めてくるなんてこともあるかもしれないしな。魔獣や悪魔の絡んだ騒動などあれば、俺も呼ばれることもあるだろうし。
Sランク冒険者のつらいところよ。
ま、それまでは、のんびりしよう。
家も手に入れ、ようやく落ち着いてきたところである。現代社会の利器を魔法的に再現したり、新たに開発したりしながら、料理にも手を出し始めた。
ぼちぼち快適な生活を家やその周りに取り入れたものだから、エマン王や王族一行、ジャルジーが、ちょくちょくポータル経由で俺たちの家でまったりしていくのはご愛嬌と言ったところだ。
「よう、相棒」
ベルさんは黒猫姿で言った。
「お前はいま幸せか?」
「ベルさんにはどう見える?」
「愚問だったな」
黒猫もとい、魔王は喉を鳴らした。
「ベルさんはどうだい? 退屈してないか?」
「言わなかったか? オイラはのんびりしたいって言うお前に同感だと答えたんだぜ?」
「……そんなようなこと言ってたな」
俺が頷けば、ベルさんは顔を上げた。
「オイラは、お前と違って長生きだからな。どうせ放っておいても、そのうちドンパチに巻き込まれるだろう。いまは……のんびり暮らすさ」
「のんびり暮らそう」
英雄魔術師はのんびり暮らしたい。
なお、このしばらく後に、エルフの里から使者がやってきて、俺とベルさんは呼び出されることになるのだが……それはまた別の話だ。
《終》
長らくお付き合いいただき、まことにありがとうございました!
英雄魔術師はのんびり暮らしたい、最終話でございます。
連日投稿にお付き合いいただいた読者の方々、またこの物語を見つけて、最終話まで見てくださった方々、本当にありがとうございます!
やろうと思えば色々できる物語ゆえ、書いているうちにプロットにはないお話がいっぱい生まれ、気づけば300話を越えてしまいました。……200話いかないと思っていたと言ったら信じてもらえるでしょうか?
これでもオミットした話もあるんですよ……(娼婦のお話とか、ベヒーモス討伐とか)。
実を言えば、ジンの家製作編や、大空洞ダンジョンの最下層の攻略、エルフの里の話とかやろうと思えばやれたのですが、アーリィーとの話に決着がついた時点で続けても、というのがありまして。……そういえば、最初思い描いていたエンディングと違うなぁ(ボソ)
それでは、改めまして、ここまでお付き合いいただきましてありがとうございます!
(追記:第二部、連載開始しました。続きもどうぞよろしく)




